ペトルーシュカに花束を

35.



アパートに引きこもってから一週間。
気付けばカレンダーは十二月をまたいでいて、外はすっかり木枯らしが吹き荒れてる。まるであたしの心を映してるかのようだ。

外にほとんど出なくなったから、紬の用心棒生活も終わって週に何度か顔を出す程度。


「暇すぎる……」


あれからバイトも辞めて。
大学がああなって、どこからかバイト先に噂がいったみたい。遠回しに辞めてくれって言われて、結局そのまま。否定する気力もなくなっちゃった。

学生課からはメールは届くけど、今期の授業は単位ほとんど終わってんだよね。
しまいには体調を気にするようなメールしか届かなくなったよ……。

周助さんとは会えてない。コンテストの写真のモデルもできてない。
毎日のようにメールはくるし、電話もしてる。
本当は会いたい。でも、噂の件がどうなるかわからない今……会わない選択をあたしはしたんだ。

周助さんは気にしなくていいって言ってくれたんだけど……やっぱりあたしのせいで周助さんを傷つけたくないから。

でも、声を聞くたびに。
胸が痛くなる。
会いたくてたまらない。
会って、触れたくて。
身体全体がアナタを欲してる。

会えないことがこんなにも辛いなんて、あたしは初めて知った。

それこそ、周助さんじゃないけど。
これが本当の恋、なんだなって改めて思う。


「……はぁ…………うわっ!」


なんにもすることがなくて短いため息をつくと、机の上に放置されてた携帯が鳴り出した。
ビックリして画面を見ると、同じゼミの子から着信。この一週間、紬と周助さん以外電話なんて一切なかったのに、一体どうしたっていうんだ。


「はーい、もしもし?」
『あ、相葉さん?謹慎中にごめんね』
「ううん、大丈夫。どうしたの?」
『あ、えっとね。ゼミで課題出されたんだけど……プリント渡したくて。ちょっと出られないかな?』
「課題?あたしなんかあったっけ」
『追加分なんだ。先生が早く届けて欲しいって言うから……』


追加の課題なんて結構急だなぁ……。
ゼミの追加なんて、進級に関わるからね。行かないワケにはいかないよね。
知らないコじゃないし、多分、大丈夫。


「……わかった!どこに行けばいい?」


ゼミのコから受け渡し場所を聞いて、そのまま家を飛び出した。
一応、周助さんにメールだけして。最近はすぐ返事がきてたけど、今日は仕事って言ってたから。
あたしは送信したことを確認して、そのまま手荷物のバッグに携帯を放り込んだ。





指定された待ち合わせ場所。ブランドショップが建ち並ぶ雑居街。
少しあたしが早かったみたいで、寒くなった首元を巻いてきたマフラーで覆い隠した。

街中はすでにクリスマスムード一色。あちらこちらでクリスマスソングも流れてる。
そっか、もうクリスマスなんだ。なんだか今年は早く感じるなぁ……。色々あったからかな。

夏前に周助さんと出会って、恋をして。しかも婚約者がいる人に、なんて。
昔のあたしだったら考えらんない。こんな恋をすることが。むしろ嫌だったかもしれない。

正当化するわけじゃないけど。今はこの気持ちを受け入れてる。こういう恋もあるんだなって。
どんな未来が待ってるか、この状況を合わせるとすごく不安だけどね……。


「相葉さーん!」


一人で考え込んでると、同じゼミの女の子の声が雑踏から聞こえてきた。
声のするほうを見上げると手を振ってるのが見えて、あたしも同じように手を上げようとする。


「はーい、ここ……んンっ?!」


手を上げて、そのコを迎えようとしたとき。

急に息苦しくなった。
雑居ビルの間に引きずり込まれていって、口と鼻が布で覆われたことに理解したのは、自分の意識が遠くなりかけたときで。

なくなりかける意識の中、うっすら見えた男の人。


「やっと会えたね、雫ちゃーん」


だ、れ……?
でも、声は聞いたことあった。
そうだ――……あの、電話の声……。

そこであたしの意識はプツリと途絶える。
周助さんのことを思いながら――……。



意識をなくしたあたしを抱えた男の人。
それはあの最初の嫌がらせの電話の人だ。


「サンキューな。助かったぜ」
「あ、あの……これであの写真、返してくれますよね?」
「あ?あぁ、アレね。はい、どーぞ」


男の人は、ゼミの女の子にパーカーのポケットから一枚の写真を手渡した。
写真はゼミのコが辱められてるところが写し出されていて、手渡された瞬間、そのコはそれをサッとバッグにしまい込んだ。


「そ、それで相葉さんをどうするんですか?」
「あぁ?テメーには関係ねぇだろ。用件は終わったんだから、さっさと帰れや」
「ひっ、あ、す、すみません……」
「あ。言い忘れてた。ソレ、写真は一枚だけどデータは消えてねぇからな!わかってるよな」
「…………え」
「考えりゃあわかんだろ?他言無用だっつってんの。誰かに言ったら……」
「わ、わかりました!言いません!」


ゼミのコは目に涙を浮かべ、慌てて帰っていく。
その姿を見送った男の人は、あたしを抱き抱えて「うわ、軽っ!なに食ってんだ、コイツ」と呟いた。


「さぁーて。お楽しみはこれからだよ?雫ちゃん」


そう言うと、その男の人はビルの奥へと消えていった。
その先に、あの人が待っている。

あたしは、これから待ち受ける事態をただただ受け入れるしかないんだ――……。
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