加奈が車で逃げ出して数分後。
僕は自宅マンションのエントランスで、近くで待機してもらってた“助っ人”を待っている。
僕が携帯を見てると、車のエンジン音が聞こえてきた。スポーツカー独特の唸るエンジン音。
それが僕の目の前でキィッとブレーキ音を鳴らしながら停まる。
「おまたせ」
青いスポーツカー。助っ席側の窓を開けて頭を下げて呟いた人物は……乾だ。
そう。乾には雫の携帯に入れたアプリ含め、今回色々と助けてもらっている。
僕は荷物を抱えて助っ席に乗り込んだ。
「ごめん。大分待たせたよね」
「いや、大丈夫だ」
「にしてもロードスターとはね。車買ったとは聞いてたけど、まさかスポーツカーとは思わなかったなぁ」
「どうせなら速い車がいいだろ?国産車で」
夜の東京の公道。
スピードを抑えながらも初速は早く、でもスムーズに走り出した。
「で?場所はどこだ?」
「とりあえず、これ。携帯、ここにおくよ?」
「なんだ、まだ走り始めたばかりなのか。ちょっとスピード出すと追いついちゃうな」
「悪いけど、様子見ながら行ってくれる?」
「ハイハイ」
乾が作ったアプリ。
雫の携帯にも入れてたけど、実は加奈の携帯にも入れておいた。加奈のほうはリアルタイムで居場所がわかる設定で。
冷却期間前にこっそり入れておいたのを、それを機に作動するように乾にメールしてお願いしておいたんだ。
「浮気相手のほうは作動してないのか?」
「乾。言葉選びには気をつけてね」
「事実だろ?」
「まぁ、なにも言えないけど。雫の携帯は電源切ったか壊されたかのどっちかだろうね。加奈のことだから後者だと思うけど」
「本当、お前七年もよく我慢できたな……。久々に不二のデータが更新できそうだよ」
不敵な笑みを浮かべる乾には、ここまで手伝ってもらうため一通り情報提供をしてある。
話したときの乾の顔。思い出しただけでも少しイラッとしてしまう。
「ん?千葉か神奈川あたりか、向かってる先」
「……高速乗ったしね。うーん、加奈絡みでなにかあったかな」
「不二。俺の貸したノーパソ持ってきたか?」
「あぁ、うん。あるけど」
「ちょっと、共通フォルダ開けてくれる?」
この隠しアプリを入れて遠隔操作ができるようにするために、どうしてもパソコンが必要らしくて。
できれば持ち歩きできるように、と言われてたけど生憎僕はノーパソを持ってない。
それを伝えたらさくっと乾はノーパソを貸してくれた。使ってないけどまぁまぁのスペックらしい。
「共通……って、あ。これかな?」
「開くとお前の名前のフォルダがあるだろ?」
「あるね。……うわぁ……これなに」
「まぁ、それは今置いといて。そこに松本の名前のフォルダもあるだろ」
若干引き気味で僕の名前のフォルダを漁っていると、確かに“松本加奈”の名前が入ったフォルダが見つかった。
開くと……それはそれは。ごちゃっと加奈にまつわるデータのようなものが画面に広がった。
「ねぇ、乾。きみ、探偵でもやったほうがいいんじゃない?それこそ柳とかとさ」
「蓮二と?ご冗談を。そこに松本家所有の土地だか家だか一覧になってるデータないか?」
「あー……あるね。これか。……えっと……」
うわー……これは引くなぁ。
僕も知らない松本財閥所有の土地と家が、都道府県別に一覧になっている。
そこに神奈川の海の近くに家を建ててることに気がついた。
あ。そういえば昔、聞いたことあったな……。加奈のお父さんからプライベートで家を建てたことを直接……。
「乾。多分、ここだ。神奈川だよ」
「……そうだな。松本が向かってるのも神奈川方面だな。不二、ナビに住所入れてくれ」
ナビに住所を設定して案内が開始されると、乾はグッとアクセルを踏み込んでスピードをあげた。
スピードがあがると体に重力がかかって、全身押さえつけられるようになり一瞬息苦しくなる。
「わー……乾の運転、スリルあるね。事故だけは気をつけてほしいけど」
「任せてくれって。俺のドライブテクニックをなめないでほしいな」
「この運転で、隣に僕以外誰を乗せたのさ」
「青学メンバーは結構乗ってるぞ?海堂が一番いい反応してたがな」
「……それ、僕も見たかったなぁ」
「そんなこともあるかと、ドラレコが」
「用意周到すぎだよ」
「そうか?手塚とか結構よく撮れてるぞ」
「それは見せてもらわなきゃ」
ナビを設定してから数十分。
加奈とはそう誤差なく目的地に到着した。
加奈が乗ってた車が、エンジンがかかったままで停まっている。おかげで乾の車のエンジン音がかき消されていた。
この車。コレは加奈の車じゃなくて、おそらくココ数年お相手してる男のもの。僕も何回か見たことがある車だ。
しかも入口がご丁寧に開かれたままで、中の喧騒が少し聞こえてくる。
「さて、どうする?」
「もちろん決まってるよ」
「不二が正面突破する確率、95%……。じゃあ俺はヘッドライト照らすかな」
「あ、なんかその言い回し。久しぶりに聞いた気がする。テニスしてた頃思い出すなぁ」
「諦めなくてもいいんだぞ?今は治療も昔より発達してるし」
「……気にしてくれてるんだね。ありがとう、乾」
車から降りて、前に出る。
乾がヘッドライトをハイビームにして、家の入口を強く照らしだした。
さぁ、加奈。お遊びはここまで。
きみにはキチンとわからせてあげるから。- 58 -*prev | *next *Sitetop*or*Storytop*