一月中旬。コンテストのエントリーが始まった。
僕が応募するのは写真部門で、このコンテストは芸術部門と写真部門の二つから構成されている。
「せ、制作意図とか作品の技法とか……大学のレポートみたいで、す、ね……」
「まぁ、コンテストあるあるじゃない?いくら技術があっても、伝えることできなかったら意味ないしね」
「え?展示会のレイアウトも作るんですか?うわぁ……」
「なぁに?」
「大学の卒制みたいで頭痛くなってきた……」
エントリーから応募まで全部Webでやることにしたんだけど……。
レイアウトに結構時間がかかってる。エントリー終了まで時間はあるから、納得いく形でやるつもりだけどね。
「コーヒー入れてきますね」
「あ。ありがとう」
「いえいえ。これくらいしかもうお手伝いすることないですから」
お正月を迎えて、三が日。
雫は実家に帰ることになってたから、それに合わせて僕も雫のお父さんにご挨拶に向かった。
気が早いかもしれないけど、雫を危険な目に合わせてしまった謝罪もしたくて。
雫はバレなきゃ話さなくていいって言ってたんだけど、そうもいかない。僕の気が晴れないしね。
結果は……まぁ、それなりに信頼はしてもらえたのかな?
殴られそうにはなったけど、雫がえらい剣幕で怒るから殴られずに済んで。
(本当なら殴られたほうがよかったんだと思うんだけど)
今は僕が安心できないからって理由で、僕の部屋に来てもらってる。半同棲状態。
あの高級マンションからは、年末ようやく引っ越すことができた。
加奈が気に入っていたあの部屋は、もう既に他の借り手さんが入居してるハズだ。
ココは加奈も知らないし、教えることも絶対ないんだけど……なにもしないっていう保証はないし。加奈のお父さんもお母さんもお兄さんも、絶対に目を離さないって約束はしてくれたんだけど……念には念を入れて、ね。
「……あと、少し……なんだけどね」
きみのために僕ができること。
少しでもきみに恩返しがしたいんだ。
僕をここまで引き上げてくれたのは、雫のおかげだから。
だからこそ、僕はここで躓くわけにはいかない。
このエントリーが命運をわける。
コンテストの応募締切は二月頭。
雫の写真を見ながら、一文字一文字に想いを込める。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
二月の応募締切後、一週間程で一次審査通過の連絡があった。
二次審査は対面審査。審査員にポートフォリオのレビューをすることになっている。
それが本当に難関。残り五人まで絞られてしまうから。
そこが通れば最終審査。五人全員で展示会を行って、公開プレゼンテーションと審査員、来場者の投票でグランプリが決まる。
「だだだ大丈夫ですよね!に、二次審査……難関ですけど、周助さんなら大丈夫……!」
「顔色悪いけど、雫こそ大丈夫?」
「いやいや、なんでそんなに落ち着いてるんですか……」
「んー……まぁ、もうなるようにしかならないしね。今日落ちたら次ないし」
「ああああ!もう!」
今日はその二次審査日。
雫は僕の家で待っててって言ったんだけど、どうしても審査会場まで行くって言うから……仕方なしについてきてもらった。
クリスマスのプレゼントで贈ったマフラーが顔の半分まで埋め尽くされていて、せっかく整えてあげた髪の毛が静電気でところどころ飛び出している。
それがなんだか可笑しくて、さっきまで緊張と興奮してた気持ちが妙に落ち着いてしまったんだ。
「ふふ、雫のおかげだよ」
「え?あたし?」
「……テニスの試合前に似てる。重圧とか緊張とか、色んな感情がうずまいてたあのときに」
「周助さん……」
「それを雫が落ち着かせてくれたんだよ。大丈夫、きっとファイナリストに残るから」
「あ、あたしも!その言葉信じて待ってますから!」
「うん。…………じゃあ、行ってきます」
「はい!本気出して、ライバル達を蹴散らかしてきてください!」
グッ、とガッツポーズを構えた雫は、僕に大きく手を振って見送ってくれた。
会場の中に、僕の姿がなくなるまで。
仕方なくついてきてもらった、なんて思っちゃったけど……それは訂正。
僕がついてきて欲しかったんだな。だってこんなにも満たされてるから。
大丈夫。
僕は残れる。いや、残るよ。
ファイナリストの五人の中に。
きみがここまで僕の世界観についてきてくれたんだから……ここで落ちてたまるか。
「では、ただいまより審査員との対面レビュー審査を行います。番号一番から、順に審査室にお入りください――……」
僕の番号も近い。
さぁ、行こう。
夢の向こう側に。
今はもう、誰にも負けない。
僕にはたくさんの人がこの心についてきてくれてるから。- 63 -*prev | *next *Sitetop*or*Storytop*