ペトルーシュカに花束を

47.



周助さんが二次審査に立ち向かってから一週間。
とうとう運命のときがきた。


「……じゃあ、マイページ……開けるよ?」
「は、はいぃぃ……!」


なんでもこのコンテスト。
応募は全てWebだったみたいで、やりとりもコンテスト専用の応募ページから、マイページにアクセスしてやるんだって。
あたしは通過したかどうかの連絡を周助さんと一緒に見るため、ずっと周助さんの家に居座ってる状態。
親友の紬には、半同棲どころか同棲じゃないの?ってツッコまれたけど。

や、もう後期の授業ほとんどないもん。
むしろ来年度の卒論と卒制のために時間割きたいくらいだもん。
今は無理に学校行かなくても別にいいもん。
(周助さんに言ったら怒るだろうから言ってないけど)


「……マイページ、に新着メッセージ」
「……もしかしてッ!」
「二次審査結果の……ご案内、だ」
「……ッ!は、早く中見てくださいッ!」
「ねぇ、雫。なんだか僕より興奮してない?」
「いいから!いいから早く〜!」
「はいはい。雫が僕のぶんの緊張とっちゃってる気がするんだけどな」
「早く〜〜ッ!」


メッセージの中をなかなか見ない周助さんに、ここぞとばかりに焦らされてる気分だ。
いや、焦らしてんのか……これ。

メッセージの表題を、周助さんがクリックする。
カチカチ、と静かな部屋の中でマウスの音が小さくこだまして、あたしは思わず生唾を飲んだ。
それだけあたしは緊張してたまんないんだけど、周助さんはどこ吹く風。
その落ち着き、本当わけて欲しいわ……。マジで恨めしい。

クリックされた表題から、ぶわっとメッセージがパソコンの画面に広がった。
つらつらとお決まりの雛形メッセージが見てとれたあと……二次審査の結果に触れてる部分があたしの目にも入る。

心臓がありえないくらいバクバクと動いてる。
こ、怖い!怖くて読めない……ッ!
目ぇつぶっちゃう……!


「……二次審査、通過とさせて頂きます」


思わずギュッと目をつぶると、周助さんの透き通った声があたしの耳元に届いた。


「……!!」
「雫、残ったよ」
「……ッ、の、残った……?」
「うん。五人のファイナリストに残れた」
「……ぁ、ぅ、ううう〜ッ!」
「え!なんで泣いてるの?」
「うわーーーんッ!」


だって。だってだってだって。
不安でたまんなかったんだもん。あたしが被写体で本当によかったのかなって何度も思ったし。
あたしが周助さんの世界観、壊してないかなって心配だった。

アレだけ色々と言ってきたくせに……いざ目の前に一つでも不安要素があると心がぐらつく癖、本当に直したい。


「よがっだよぅ……ッ!本当にぃ〜!」
「ちょっと、雫……。まだ泣くには早くない?これから最終審査あるんだよ?」
「うわーーーん!」
「それに最終審査のグループ展のために、また作品何点か選び直さなきゃ。また雫に手伝ってもらわないと」
「……ぁい……」
「涙は僕がグランプリとるまで、とっといてくれるかな?」
「はい〜〜ッ!」
「あーほら、なんで更に泣くの」


クスクスと笑う周助さんの服の袖を、思わずギュッと掴んだ。
泣くな、って言われると余計に涙が溢れてくる。
溢れる涙を周助さんが優しく拭ってくれるけど。
本当に嬉しくてホッとして、なんとも言えない感情が込み上げてくるんだ。

まだ。まだこれからなのはわかってる。
だけど……だけど……!


「わーん!もう一回こんな気持ち味わわなきゃいけないのヤダぁ〜!」
「えぇ。身も蓋もないこと言わないで」
「だってぇ……。んあ、携帯に紬からなんかきた」
「あ、涙止まった。えー雫の涙止めたの紬さん?なんか釈然としないなぁ」
「ふふふ、ごめんなさい」
「ほらほら、返信してあげて?あ、僕にもなんかきたよ。誰だろう」


お互いの携帯になにかしらのアクションがあって内容を確認してると……。
どうやらあたしも周助さんも、同じだったみたい。
今回のコンテストの審査結果、SNSとかで発表するって話で。
紬はずっとツイッターに張り付いてるからねって言ってた。


「周助さん。紬がおめでとうございます、だって。あと、ウチの父も」
「こっちも。裕太と姉さんからだ。おめでとうだって」


お互いに目が合った瞬間、なんだか可笑しくて笑いあってしまった。
周助さんがこんなふうに笑ってくれるの、最近は本当に増えてきて。
あたしが隣にいていいんだって、すごく実感するんだ。


「さて、じゃあ最後のもうひと踏ん張り」
「はい!頑張りましょ!」


きっと、あたし達の夢はもうすぐそこ。
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