冬の空気はすっかり影をひそめ、春の麗らかな日差しが照らし出す四月……。
僕がエントリーした『encounter』というコンテスト。公募展としては若手のみが参加する最大級にして最大手のコンテストだ。
ここでの功績は、今後の芸術写真家としての活動の中では最も発揮する。
それこそ、グランプリを取れなくとも活動していく中では引く手数多。
準優勝した人でも、雑誌の特集を飾ったりするのは当たり前になってきた。
「周助さん。いよいよ今日からですね!」
四月になって大学四年になった雫は、すでに卒制の制作に入ってて、自分より何倍もあるキャンバスに毎日筆を走らせてる。
卒論はあとでやりますから、と僕と目を合わせずに言ってたけど……アレはギリギリまでやらないだろうな、とあとで僕に泣きつくフラグだと思った。
「僕もそうだけど、単位大丈夫なの?」
「ぜーんぜん。大丈夫です。授業出てますよ、言っときますけど」
「最近、僕の部屋に入り浸ってるから心配になっちゃったよ」
「ぐ……。だって周助さんのお家のほうが学校に近いんですもん」
「それ言い訳でしょ?」
「うぐ……!」
今日は『encounter』の最終審査開始日。
今からその会場入りをするところだ。
今日から三週間の間、ファイナリストの作品を一斉に飾った展示会が行われる。
そしてそこで公開プレゼンテーション。
一般のお客さんと審査員に向けて、作品の解説と個展開催に対してのプランを発表することになっている。
ちなみにこの公開プレゼンテーション、展示期間の週末に発表になってるから、計三回行うことになるんだけど……毎回審査員は違う。
全体通しての審査員は変わらないんだけど、一回一回出る人が違うんだよね。審査員は全部で六人。
この全員を納得させなければ、グランプリはない。
「緊張してきた……」
「毎回思うけど……雫が僕の緊張奪っていくよね」
「別に奪うつもりはないんですけど!」
「でもそのおかげで落ち着いて審査に挑めてるよ?」
少し納得できないような顔を覗かせたから、年末より伸びた髪の毛に手を伸ばす。
サラサラと落ちる髪にそっと唇を合わせると、雫は顔を赤らめて体を硬直させた。
何回やっても慣れないよね、こういうこと。だからついやっちゃうんだけど。可笑しくて。
「ちょ、も、だ、み、見られてます!」
「いいんだよ。見せてるんだから」
「周助さんッ!」
「あはは、ごめんね?」
「謝ってない〜ッ!もう!始まるっていうのに!行かなくていいんですかっ!」
「はいはい。じゃあ、行ってくるよ」
雫の頭を優しく撫でて、踵をかえして会場に向かう。今日は雫も会場で見てくれることになっている。
雫のおかげですごく落ち着いた。昂ってた気持ちが、ストンと冷静になるのに気付く。
「周助さん!」
「……ん?」
不意に雫に呼ばれて振り返ると……。
大きくガッツポーズをした雫が、僕に向けて満面の笑みを贈ってくれた。
「見てますからね!カッコイイとこ!」
「……うん、行ってきます」
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
「――……それでは、ファイナリストの五人よりプレゼンテーションを始めさせて頂きます。最初の方!」
「はい!」
拍手が会場に沸き起こる。
プレゼンテーションの開始。
会場には審査員も含め、一般のお客さんが二、三十人程いる。パンフレット片手にみんな壇上を見上げていて、場馴れしてない人にとっては緊張この上ない場面だ。
僕の順番は、光栄なことに一番最後。
本来なら一番緊張しそうなもんだけど……こうやって自分の信じたモノを、最後に思いっきりオープンにできる……。この上なく幸せなことだと思う。
それはきっと……雫が見ていてくれるから。
「――……では、最後の方!」
「はい」
呼ばれてゆっくりと壇上にあがる。
まるでテニスの試合会場に踏み入れたときみたいな、心地よい心臓の音が響く。
あのときの歓声とは違うけど、お客さんの中に何人か僕を知ってる人がいるようで、拍手と共に黄色い声が聞こえてきた。
その人混みの中――……。
雫を見つけた。
両手を握り、神に祈るような眼差しで僕を見つめる。
もう……どっちが当事者なのか、わからない顔してるよ?
さぁ、始めようか。
僕が僕であるために。きみが示してくれた、本当の自分を今、ここで。
人形じゃなくていい、と気付かせてくれたきみのために……僕は精一杯、全力で想いを伝えるよ。- 65 -*prev | *next *Sitetop*or*Storytop*