ShortStory

アナタに釘付け



「いーから我慢して!」
「やめて」
「だってやんなきゃダメなんでしょ?!」
「……やだ」
「ヤダじゃないってば!」


誰にだって苦手はある。
けど、時と場合によるよね。











それは数日前のことだった。
周助が目に違和感を覚えて、あたしにソレを訴えてきたんだ。


「痛いの?」
「……うん、なんだろ?ゴミが入ったわけじゃあなさそうなんだよね。疲れかな」
「なんか病気だったら怖いから、病院行ってきたほうがいいと思うんだけど……」
「うーん……雫がそう言うなら……」


と、ここまではよかった。
周助も素直に病院行ってくれたし。
結果、眼精疲労って診断されて点眼薬をもらってきたみたい。
あたしもそれを聞いてホッと胸を撫で下ろしたんだけど……。


「そういえば僕、目薬ってさしたことないかも」
「え?本当に?」
「小さい頃はわからないけどね。記憶には今のとこないかな」
「じゃあ初体験だね!」
「……なんか雫が言うと卑猥に聞こ……」
「ちょ、やめて!」


周助の腕をバシバシ叩いたら、手にしてた目薬がするりと落ちた。そんなに強く叩いたつもりないんだけどな。
でも落とさせてしまった手前、目薬をあたしが拾って、ふと思いついてしまった。


「……なんか企んでない?」
「え?なに?」
「顔に出てるよ」
「えっ!あ、えっと……。さ、さしてあげよっかなーって」
「目薬を?」
「うん」


ちょっと目が輝いてしまう。
だって初めて見るわけじゃない?周助が目薬さすところを。
あたしもある意味初体験だ。見たくてたまらない。

周助はあたしの表情で考えてることがわかったのか、少し呆れた顔をして観念したみたいだ。


「じゃあ、お願いしよっかな」
「ふふ、はーい!」
「ずいぶんと嬉しそうだね」
「え?えへへ、うん!」
「なんだか腑に落ちないけど……まぁ、いいや」


観念したとはいえ渋々感が否めない周助を、とりあえずあたしの膝枕で寝かせる。
あ、なんだか新鮮……。
改めて周助の顔が、整ってて本当に綺麗なのがよくわかる。睫毛長いし。あたしより長くない?
鼻筋も通ってて、テニスしてるくせに色もあたしより白くて。
琥珀色の髪の毛だって、細くて柔らくてちょっと癖あって気持ちよくて。


「……ねぇ、雫」
「え!ははははい?!」
「そんなにじっと見つめられると、さすがの僕でも恥ずかしいんだけどな」
「あ、あはは。ごめん……」


なにを見蕩れてるんだ、あたしは。
周助がカッコイイのは、今に始まったことじゃないんだから。
いや、なに言ってんだ……あたし……。
こんな周助、見慣れなくて逆にあたしがおかしくなっちゃうよ……。


「ふふ、惚れ直した?」
「……うん、惚れ直した」
「そう?なら、眼精疲労になってよかったかな?」
「もー!なにもないのが一番なんだからね」
「はいはい。じゃあお願いします」


気持ち改めて、周助の頬に左手を添えて目の上に目薬を構えた。
周助の瞳が真っ直ぐ目薬を捉える。
親指と人差し指で目薬を押して、その薬液を出そうとした瞬間――――…………。

あたしの右腕を周助が勢いよく掴む。
出かかっていた薬液が、少し漏れて周助の頬に落ちるのが見えた。


「え?!ちょ、周助?!」
「……待って」
「へっ?」
「ちょっと待って。やめて」
「え?え?なに?どうしたの?」


あたしの右腕を掴んだまま、むくりとゆっくり上半身を起こす周助。
頬に落ちた薬液が、涙のように伝ったのがなんだか綺麗に見えて、少し心臓が高鳴った。

高鳴った……んだけど。


「……え、なにこれ。目薬ってこんなものなの?」
「は?」
「……ごめん、無理。これ、僕は苦手だ」
「はい?!」
「いや、本当に無理。できない」
「いやいや、高校生にもなって目薬怖いとかないでしょ?」
「怖くないよ。苦手なだけだから」
「怖くないならできるでしょ?!」
「………………」


あーあ、なにも言わなくなっちゃった。

なにも言わなきゃささなくていいなんて道理、まかり通らないからね?
しかもそっぽ向いて若干拗ねてるよね?


「ほら、目痛いままになっちゃうから。目薬さそう?痛くないから」
「無理」
「いーから我慢して!」
「やめて」
「だってやんなきゃダメなんでしょ?!」
「……やだ」
「ヤダじゃないってば!」


……ッ、駄々っ子か……!
にしても目薬怖いなんて意外すぎる。なんでもそつ無くこなす周助が、あたしの前で初めて見せた態度かもしれない。
でも。あたしの前だからこそ見せてくれたのかな。
そう……思っても、いい?


「ふ、ふふ」
「…………なに」
「ふふ、ううん。なんでもない」
「……僕のことバカにしてるだろ?」
「違う違う!バカにはしてないよ」
「じゃあ……なにならしてるの」
「ん?こんな姿見れるのも、あたしだけかなーって思ってたの」
「……そう、かもね。雫の前では、もう強がれないな」
「それ、特別感あって好きかも」
「そう?じゃあ、いつでも見せてあげるよ。だから……」
「うん?」


近付いた周助が、不意にあたしにキスを贈る。
こういうことで、すぐに絆されちゃうあたしもあたしだけど。


「だから……ずっと好きでいて?」
「ふふ、もちろん」


そんな姿も愛おしいから。
あたしにしか……見せないでね?

大好きだから。










アナタに釘付け
(じゃあ周助の気持ちも聞けたところで)(……なにする気?)(誤魔化してもダメです。ちゃんと目薬はしてもらいます)(……………)(顔逸らして拗ねてもダメ!)※このあと嫌々目薬をさしてもらいました。
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