それはずっと望んでいたこと。離したくない。離さない。
ずっと僕のそばにいて。これはただの嫉妬。
「ちょ、周助?」
「今の……誰?」
不意に灯った焼けるような想い。
暗くなるのが早くなったこの時期。帰りの待ち合わせ場所の確認で部活の休憩時間を使って、そこで待っているだろう雫に会うためクラスの教室までやってきたときだった。
雫に触れて、楽しそうに誰かが話してる。僕は名前も顔も知らなくて、おそらく雫のクラスの一人だろうか。
二人しかいない教室に響く談笑の声は、僕の心に嫉妬の炎を灯すには十分だった。
きみが僕の知らない誰かと、楽しそうに話してる姿なんて見たくはなかった。
きみに触る誰かに、狂おしい程の醜い感情。触られるきみに、抑制が利かない程の嫉妬。
こんな自分、本当は知られたくはない。
だけど……一度顔を出してしまえば、簡単にきみを縛り付ける材料になってしまう。
「ね、周助。ダメ、離れて?ここ教室……」
「……離れてって言われて、離れる僕だと思う?」
「……ッ、や、だ。こんなとこ、で……」
教室の窓際、一番後ろ。ここはテニスコートがよく見える特等席。
僕が雫に教えた誰も知らないこの場所は、テニスコートから見上げればその姿すらよく見えて、部活中に頻繁に見つめてしまう所でもある。
そんな場所でカーテンを背にすれば……締め切られた教室で、ちょっとしたスリル感が味わえてしまう。
頬を紅緋に染め、それはまるで彩られた紅葉のよう。
それが僕の手によって染められた事実に、心臓の高鳴りは隠せないでいる。
放課後の特等席。人の気配も僕達以外は感じられない。
あの知らない誰か、も。僕がきたことで、そそくさと教室を後にしていった。
窓の外からは部活に勤しむ生徒の喧騒。そのなんとも言えない背徳感は、僕を煽るには十分すぎるほどで。
「だって、触られてたでしょ?嬉しそうに」
「ちが……!ただの会話だし、周助きたら出てったじゃない……」
「でも簡単に触られて。僕には見せない顔、してたな」
「そんなことない……!」
「そう?」
雫を前にして、カーテン越しに窓へ手をついた。僕から逃げられないように。
その伸びる綺麗な髪に指を通して掬い、唇まで運んで感触を楽しむ。
ふわりと鼻を掠める雫の匂いが、僕の心を蕩かして、今すぐにでも全てを奪ってしまいたいくらいだ。
感触を楽しむ最中、上目遣いで雫の瞳を射止めれば……まだなにもされてないというのに、雫の体が強ばるのを僕の目は逃がさない。
「……し、周、助……。なに……」
「雫。目、閉じて」
「え?」
「早く」
ここまでくれば、きみも僕になにをされるか……なんて、わかるだろ?
逃げられないと悟った雫は、これからされる事への期待もあるかのように、ゆっくりと瞼を閉じる。
そこになんの躊躇いもなく、僕は唇を重ねた。舌を割り込ませ、歯列をなぞり、耐えられないとばかりに雫は吐息をもらし始める。
角度を変えては何度も何度も舌を絡ませ、その厭らしい音が僕の耳も心も頭の中も占領してしまう。
ただ、それだけじゃあ飽きたりない。
この艶かしい響き。顔。この熱だって。
僕のモノだと実感したいから。
「……ッ、ん、も……ゆる、し……」
「いい顔してるね。でも、まだ許してなんかあげないよ」
「……しゅ、だっ……!部活……!」
「こっちのほうが大事」
「ダメ……っ、ん、……ッ!」
名残惜しくも離した唇を、今度は雫の首筋へと移した。散り散りに吸い上げる肌の質感を確かめては、舌先で執拗にもなぞり上げる。
その度に雫の体は大きく反応を示して、我慢してるだろうその声は、荒い呼吸で綴られていく。
我慢なんてしなくていい。そんな言葉を僕の唇に乗せるかのように、強く一箇所を吸い上げた。
吸い上げる水音が、少しだけ現実感を増す。
「んぁっ……!や……!」
「……これで暫くは雫に手を出すヤツもいないかな」
「え?!あ、ちょっ……まさか……」
「僕のだけの雫っていう印、ね」
そこは制服でも隠せない場所。もちろん、ワザとつけた紅赤のソレは、僕のものということを一番見せつけるのに有効な手段。
首元を抑え、顔を真っ赤にさせる雫に一通り満足した僕は、その染まる頬に手を添えた。
小さく反応する雫に、心の奥底へとさっきまでの感情を押し込める。一気に出しては勿体ない。この僕のきみだけに向ける感情は、きみだけのモノだから。
「ッ、も……やめてよ。明日、からかわれちゃう」
「言っただろ?僕だけのって。わからないヤツがいるからこういうことになるんだよ」
「…………周助の、ばか……」
「いいよ、馬鹿でも。雫にしかそうならないんだから」
「……ねぇ、恥ずかしげもなく言わないで」
「恥ずかしい?雫の前で恥ずかしいことなんて一個もないよ」
触れた頬から熱が伝わる。こうしてれば、まるでお互いの気持ちが通ったかのように感じた。
まだ全部は見せないよ?だってきみもまだ見せてないから。僕と同じ……この焼けるような想いを、見せつけてほしい。
「……ね。周助」
「ん?」
「戻んなくていいの?」
「戻るよ。雫からキスしてくれたら」
「えっ!」
「僕があんなに妬ける場面見せといて、そう簡単に戻ったりすると思う?」
「〜〜……っ、も、手塚君に怒られても知らないからね?!」
「手塚に怒られるより、雫に怒られたいな」
「周助っ!!」
そう、それはただの嫉妬。
きみへ狂おしい程の愛を。逃すことなんてしない。捕らえては離さない。誰かが触れるなんて、許したりはしないから。
きみは僕のもの。
きみから贈られたキスは、僕の嫉妬の心を更に加速させていく。
Insanity
(あ!不二、戻ってきた!おっそいじゃん!なにやってたのさー)(ごめん、ちょっとね)(お。手塚が睨んでるなぁ〜。どすんの?)(ふふ、校庭走ってくるよ。何周ならいい?手塚)(……好きにしろ)(えっ?!なんかズルくない?!)(菊丸、お前も走るか?)(……エンリョシマス……!!)- 15 -*prev | *next *Sitetop*or*Storytop*