ShortStory

Sweet moment



それは甘いひとときを。
あなたと一緒だったら。





煌びやかに彩られた街路樹。歩けば冷たい外気が、これでもかと肌をさす。息を吸えばツンと鼻の奥が痛くなり、それがより一層あたしの気持ちを昂らせるんだ。

だって人肌恋しい季節だから。すぐに温もりを求めてしまう。


「綺麗なイルミネーションだね」


十二月二十五日。今日をもって今年の仕事も終わり、明日からは暫く自由の身となる。
華金でクリスマスの今日は彼氏の周助とデート。夕飯を済ませたあたし達は、ツリーが飾られてる広場に向かっていた。

クリスマスイブはお互いに忙しく、デートは今日という話になったのはつい最近のこと。まぁ、特段忙しかったのはあたしの方だ。仕事が繁忙期で終わらない状態が続いていたから。
クリスマスイブのデートに向けて、しこたま仕事をしていたのは言うまでもない。周助はめちゃくちゃ心配してくれていたけれど。


「突然の予定変更だったけど、逆にゆっくりできたかもね」
「そうだね。明日から雫も暫く家にいるし」
「周助だって練習お休みでしょ?ゆっくり出来るじゃない」
「うん、だからこうやって雫のそばに居られるのは凄く嬉しいよ」


「ちょっと仕事に妬いちゃったぐらいだしね」……なんて、甘ったるく歯に衣着せずさらりと言う周助は、昔からまったく変わらない。

彼氏の周助とは、付き合ってからもう九年経つ。
なのに気持ちは色褪せない。付き合い始めてから今まで、あたしを絶対に飽きさせない愛情を、これでもかと注いでくれてる。まるで麻薬のような中毒性があるみたいで、そんな周助があたしは大好きだ。


「どうしたの?」
「え?」
「なにか考えてた感じだったから」
「ん、んー……うん、考えてた」
「気になるなあ。教えてくれる?」
「恥ずかしいから秘密!」


スカートを翻し、周助のほうを向いて少しだけ、あたしが歩みを進める。地面を叩くヒールの音が心地いい。

隣に周助がいてくれることが嬉しくて、そんな秘密を言葉にして綴ろうとマフラーから口元を出そうとした時だった。周助が急にあたしの腕を掴んで勢いよく引き寄せる。

重なる感触と、掴まれた腕の小さな痛み。それがなんだか、ここに周助がいるんだ、そばにいてくれてるんだ、と小さい幸せを噛み締めるようで更にあたしの気持ちが高められていくんだ。


「危ないよ。ぶつかる」
「え、あ、ごめんなさい」
「もう、本当にそういうところは昔から変わらないよね」
「……ふふふ。ごめんなさい」
「反省してないでしょ」
「そんなことないよ?」
「じゃあなんで笑ってるの。往来で余所見は危ないっていつも言ってるのに」


薄ら目を開いて、あたしを諭すように話す周助。それは呆れてる証拠。毎度のことだから諦めてるとは思うけど、言わずにはいられないんだよね。

そんなあたしも呆れてる周助のあしらい方は、この九年の中で嫌というほど学んできてる。なんだかんだ、あたしに甘いことも知ってるし。

掴まれたままの腕。力は入ってないから、動かせば簡単にその抑留から逃れられる。逃れた腕は、そのまま周助の腕に絡みつけた。


「もう、こうすれば許されると思ってるでしょ?」
「へへ、バレた?」
「雫の考えてることなんて、バレバレなんだからね?」
「分かってやってるんです〜」


ほら、こうしたら周助はなにも言えない。次に出る言葉は「可愛い」がほとんど。


「まったく。可愛いね、僕のお姫様は」
「うん。そう言うと思ってた」
「分かってると思って言ったんだよ」
「周助ならそう言う確率、百パーセント!」
「ちょっと。なんでそこで懐かしい人出すかな……」


長い、そう……長い時間を共有してても。
笑い合えるタイミングはいつも一緒で。
それはどんな環境でも状況でもどんなことでも一緒、だと自負してる。

だからこそ、こんなにも胸がときめく一瞬を与えてくれるのが、周助でよかったって……最近はすごく強く想うんだ。


「あ、ほら。笑ってないで。着いたよ」
「ぅ、わー!……綺麗」


目の前にそびえ立つ全長二十五メートルのクリスマスツリー。必死に調べた都会のイルミネーションで、この目におさめたいと思ったツリーは、ビル街の中で異彩をはなっている。
息を呑むってこういう事を言うんだな……なんて思いながら、絡ませた周助の腕を強く握った。

こんな風に。こうやって。
あと、何回……周助と見れるんだろう。

瞳に飛び込んでくる光り輝く色とりどりの宝石に、あたしはなんだか涙が溢れそうになった。
軽く鼻をすすると、不意に瞼に感じた少し冷えた体温。細く、長く、綺麗な周助の指先があたしに触れている。


「なんか良からぬこと、考えてない?」
「え?なん──……」
「泣きそうになってるから」


優しそうで、どこか不安そうな微笑み。

あたしの感情に、ここまで機微でいてくれるのは……周助ぐらいなものだ。
ちょっと怖いくらい。いくらあたしの考えてること分かるって言ったって、限界はあるはずなのに。

やっぱり心が読めるって本当な……。


「ねぇ、その顔。また僕が雫の心を読んでるとでも思ってるんでしょう」
「……空いた口が塞がらないんだけど」
「あのね、何年付き合ってると思ってるのさ。ただでさえ雫は顔に書いてあるんだから。読まなくても分かるんだよ」


それ、あたし以外でも読めてるじゃん!なんて茶化せば、あたしの溢れかけた雫を指先で拭いとる周助。
瞼の微かな体温。それがゆっくりと頬に伸びていく。


「あったかい……」
「そう?僕、冷え性だよ?」
「ううん、あったかいよ。あたしの心もあったかくなってくし」
「雫……」


本当にあったかい。触れられることが、こんなにも気持ちいいなんて。頬に触れる感触。体温。鼻を掠める匂い。

それが周助だからこそ。
あたしはこんなにも……満たされていくんだよ。


「雫」
「ん?」


徐に呼ばれて、周助の手へ傾げてた顔を上げる。視線が重なり合って、触れるだけの優しいキスが降ってきた。


「や、ちょ!こんなとこで……!」
「ふふ、大丈夫だよ。誰も見てないから」
「そ、りゃ……あ……そうかもしんないけど!」
「だから、ね?」


重なり合うのは視線だけじゃない。
こうなったら敵わないんだよね。仕方ないから目を瞑ってあげる。


甘いひとときをあなたと過ごせるなら。

触れる唇からも……あなたを感じさせて?










Sweet moment
(そう言えば、雫がさっき言ってた秘密)(え?)(アレ、当ててあげるよ)(えー?周助でも分かんないでしょ、さすがに)(僕のことが好きでたまらないって顔してたんだけど……違う?)(……!! ッ、ぅ、ま、違って……ない、です)
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