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「殺兄様待って、殺兄様…!」
「………」

どうせ、母上が教えたのだろうが、私の事を兄と呼ぶな。騒がしい。

「あっ!」

驚いた声を出したかと思うと転んでいた。
構わず歩きだそうとしたが、今にも泣きそうで、泣かれると面倒なので手を差し出す。

「う………?兄様!えへへ…」

手を取って立ち上がると嬉しそうに握ったまま前を歩きだす。

「母上、こいつ煩いです。」
「はいはい、さくらー。兄に煩いと言われて悲しいのう。それにしては手を繋いで仲が良さそうだったがの。」
「あれは…泣かれるのが面倒なだけです…」
「こんなにも可愛いのにの……何じゃ…?」
「この間の………」
「…ほう、その様子、敗走でもしたか、情けない。だが、これでこの娘はわらわの者だ。何も言えまい。」
「だぁれ?」
「さぁの?そうじゃ、さくら、わらわと散歩でもしよう。」

その時の記憶はあまりないが、きっと最後の仲間は護衛達により処分されたのだろう。
恐らく他方から見た犬一族の出方は無常だったのかもしれない。
だけど助けを乞うた相手を知れば、成程、と頷く者も多いだろう。
王たる資格を失い、国を崩落させた叔父。
あれが本当に王として君臨していたのか、と問う程にどうしようもない人だった。
本来ならば一人残らず滅ぼされる所だったが、前王の娘ともあり、匿われた。
そもそも叔父はどうして父を蹴落とし、自分が王として立ったのか。
ただ、権力を羨み、手にしたかっただけ。
それだけで私の国は滅びた…