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殺生丸が動けるまでずっと傍に居続けた。
血で汚れた顔をタオルで拭いたり、楽な姿勢に直してあげたり…
昼頃になると小さな女の子がやってきて、殺生丸に捧げ物を置いていく。
あの女の子は誰なんだろうか……
「………」
「いらぬ……」
「……………ぁぁ…」
「何もいらぬと言っておろう。」
小さな女の子は今日も来た…だけど、顔も体も傷だらけで、痛々しい姿だった。
ショックで何も言葉が出ない。
「……顔の傷はどうした。」
「…!」
「…………言いたくなければ別に良い。」
………今…他人に対して気遣いの言葉を…
それを聞いた女の子の顔が笑顔になる。
「何が嬉しい?……様子を聞いただけだ。」
小さな女の子は嬉しそうに走って帰っていった。
「…………きっと…殺生丸にあげる食べ物をどこからか取ろうとしたんだろうね…」
「…………」
「殺生丸も優しい言葉…かけてあげるんだね。」
「…くだらん……」
本人は自覚が無いみたいだけど、人を思い遣る心がなければ出ない言葉。
少し嬉しく思う。
「さくら、ここを去るぞ。」
「…!もう動いて大丈夫なの?」
「…あぁ、一応はな。」
鎧はまだ壊れたままだけど、きっと妖力ってやつで直すんだろう。
立たせるのを手伝おうと手をさし伸ばしたけど、不思議そうに見られた。
「手、出して。起こしてあげる。」
「……………」
少し考える振りをすると手を置いてくれた。
引っ張ってあげると重たかったけど、立たせて、服についた土を払いとる。
「…一々気にするな…」
「え……うーん、でも汚れたままっていうのも…」
「行くぞ。」
小さな優しさを感じられて、少し温かい気持ちになった。