Law route 10


 コアラと別れた場所に戻るより、最終的にサボたちと落ち合う予定だったコロシアムに向かった方がいいだろうというナマエの読みは当たっていた。コアラも下手にナマエを探し回るよりも、コロシアムに行くことを選んでいたようで、すんなりと彼女と合流することができたのだ。当然勝手に居なくなったことをしこたま怒られ、ぐりぐりとげんこつを食らわされたのは言うまでもない。
「さっきサボくんから電話がきて、ナマエがいなくなった話してるから絶対怒られるよ」というコアラの言葉に肝を冷やしながらも、ナマエは彼女と共ににコロシアムの観客席に足を踏み入れる。
 ちょうど決勝戦が始まるようで、広い会場は凄まじい熱気で包まれていた。その後、メラメラの実をかけての戦いが熾烈を極めていたところに敵のホビホビの実の能力が解け、コロシアムでも大騒動が巻き起こる。それを好機と睨んだのか、リングの地面をこつこつと小突き出したサボの様子を見て、コアラは横に立っていたナマエの腕を強く握りしめた。


「お願いだから、今度こそ絶対に離れないでよ!」


 彼女の言葉のすぐあと、サボが竜爪拳を繰り出しリングの床を破壊する。彼が地下にへ向かうつもりだとハックに子電伝虫で伝えているコアラの横で、ナマエはメラメラの実を手にしたサボの姿を見上げていた。二年前に大粒の涙を流していた彼の姿がふと脳裏に過ぎる。
 コロシアムの地下に向かって突き刺さる火柱は、サボから今は亡きエースへの手向けのようで、青空に映える美しいオレンジ色の輝きを放っていた。


Law route 10



 サボの火拳によってコロシアムが崩れ落ちたと同時、コアラに抱きかかえられて地下の交易港内にたどり着いたナマエは、サボから預かっていた服や帽子を握りしめながら合流したハックの後ろに隠れるように立っていた。


「おい、見えてるぞ」
「・・・ごめんなさい」


 こちらに近づいてくるや否やすぐさまサボに声をかけられ、ナマエは諦めてハックの後ろから顔を覗かせた。
 口角がこれでもかと上げられた時のサボの笑顔はとてつもなく恐ろしい。覚悟を決めサボに服を手渡しにいけば、彼はナマエの額に人差し指をぐりぐりと押し付けてこちらを見下ろしてきた。


「お前はトラファルガー・ローに会うことだけを目的に来たのか?」
「・・・ううん、違う。彼の命を救って、仲間の元に連れ帰るのが私の役目」


 しっかりとサボの目を見て答えるナマエの様子を見て、もう大丈夫だと判断したのか、軽く指先でナマエの額を弾くと彼は受け取った服に身を通す。


「さっきね、私もルフィくんにたまたま会えたの。ハートの海賊団のメンバーだって事情を話したら・・・ローを必ず助けて戻ってくるからまかせろって言ってくれた」
「そうか。あいつらしいな」
「うん・・・。みんな自分に出来ることを必死にやろうと動いてる。だから・・・私ももう、間違えない」


 周りを見渡せば、コロシアムで戦っていたであろう傷ついた人々が溢れんばかりにいる。今は少しでも戦力になる仲間の傷の手当てをすることが自分のやるべき事なのだ。
 ナマエはバッグからヘアゴムを取り出すと、下ろしていた髪をきゅっと結びあげる。そんなナマエの姿を見て、サボは安心したように笑みを浮かべるとコアラから受け取ったシルクハットを被った。


「あっちにロビンとその仲間がいた。傷の手当てをしてきてやってくれ」
「うん。サボ、ありがとう」


 いつでも彼は前を向けと自分の手を引いてくれる──離れたとしても変わらずかけがえのない存在に感謝を述べながら、ナマエはロビンを探してその場を後にした。
 サボの指さした方角に小走りにかけていけば、すぐにロビンの姿が見つかる。少し疲れた表情を浮かべる彼女の名を呼べば、ロビンは驚いたように目を見開いた。


「ナマエ!貴方、仲間と一緒にゾウに向かっていたんじゃないの?」


 彼女の言葉にナマエはすぐに察しがついた。恐らくパンクハザードで、自分のことに関する話がローとロビンの間で色々と交わされていたのだろう。
 彼女がまだ客人として在籍していた時にナマエは革命軍を去っている。仕事柄あまり接点はなかったものの、サボとコアラとよく行動をともにしていたナマエは、自然とロビンと顔を合わせることが多かったため、比較的良好な関係を結んでいた。


「それがちょっと色々ありまして・・・またおいおいお話しますね。とにかく、今は傷の手当てを先にさせてください」
「ええ、分かったわ。手当てなんだけど、私より優先して欲しい人がいるの」


 そういうとロビンは彼女の影に隠れていた人物のことを指さす。舌を出し白目を剥いて倒れる血まみれの男の姿に、ナマエは絶句した。


「仲間なの。ウソップよ」
「オ・・・オハッホ・・・えす」


 にこやかに告げるロビンと、ガクガクと震えながらも律儀に挨拶をしてくるウソップの姿に、ナマエは思わず頭を抱えそうになった。
 突っ込みたいことは山ほどあるが、とにかく急いで手当てをしなければとナマエはウソップの様態を観察して処置を施していく。
 医者では無いナマエは当然根本的な治療は出来ず、その場繋ぎの対症療法しかできない。しかしルフィから聞かされた言葉を思い出すに、麦わら海賊団の船医が不在でローも囚われの状態の今は、ナマエの行動が彼らの助けに繋がるということも十分理解していた。
 何とか手当てを終え、ウソップを安静にして寝かせると、ナマエはロビンの方に声をかける。彼女は目立った怪我をしていないようだったが、右肘辺りに血がにじんだ擦り傷を見つけたため、ナマエは消毒液と絆創膏持ってロビンの前に腰掛けた。


「染みてないですか?」
「ええ、大丈夫よ」


 彼女の細くしなやかな腕を持ち上げて消毒を施していれば、ふいに軽やかな鈴の音のような笑い声がその唇から漏れ出てくる。どうしたのかと見上げれば、ロビンは「ごめんなさいね」と少し楽しげに目元を緩ませながらナマエに詫びを入れた。


「ナマエの顔を見てたら、貴方のことを話していた時のトラ男くんの表情をつい思い出しちゃって」
「トラ男・・・ローのことですか?」
「ええ。パンクハザードで鉢合わせて同盟を組むことになったから、うちの船に乗ってここまで一緒に来たのよ。その時に私が革命軍にいた話をしたら、ナマエのことを知ってるかって聞かれてね。貴方がトラ男くんの船の一員になったっていう話を彼から聞いた時は驚いたけど・・・貴方の名前を出した時のトラ男くんの顔、普段の彼からは想像できないほどとても優しい顔をしていたから、なんだか微笑ましかったの」


 思わぬロビンからの報告に、ナマエはほんのりと頬を染めながら、絆創膏の封を解いて彼女の傷口に優しく貼り付ける。
 本当は少し前から何となく気づいていたのだ。自分ばかりが思いを募らせて、勘違いしてはいけないと自制心を働かせてはいたものの、ローから向けられている感情が自分のものと同じ色を含んでいることを。そんな己の予想を肯定するような言葉を他人からかけられると、何とも言えない感情に包まれてしまう。
 思わず耳たぶについているローと揃いのピアスを撫ぜれば、そんなナマエの反応を見てかロビンは柔らかい笑みを浮かべた。


「・・・二人とも、お互いのことが大切なのね。だから貴方もトラ男くんのためにここまでやってきた」
「・・・はい」
「トラ男くんのことはルフィが絶対連れて帰ってきてくれるわ。なんたってうちの船の頼れる船長ですもの。彼の強さは私が保証する。だから貴方は安心してトラ男くんが帰ってくるのを待っていてあげて」


 ロビンの言葉にナマエが小さく頷けば、彼女は何故だか嬉しそうな表情でナマエの頭を優しく撫でてくれた。
 そんなつかの間の穏やかな雰囲気が流れていた矢先、ナマエが医療品を片付けていればサボたちが見知らぬ者たちを連れてこちらに合流してくる。そしてそのすぐ後、轟音と共に地面が揺れ動き、空に無数の柵が形成されすっぽりと島を覆い尽くした。
 ドフラミンゴからゲーム開始の合図が告げられ、懸賞金を狙って場内が喧騒に包まれると同時、サボからの指示でナマエたちは地上に逃れるために走り出す。途中サボに声をかけられ慌てて振り返れば、彼はこっそりとナマエに耳打ちをしてきた。


「悪りぃ、野暮用で抜ける。コアラも生憎別行動中だ。ロビンとハックから離れるなよ」
「分かった。気をつけて・・・!」


 にっといたずらっ子のような笑みを浮かべると、サボは颯爽と姿を消していく。ハックは後ろでバトルロメオというバリアの能力を使う男の援護に回っているようで、サボの行動に気づいてはいなかった。慌てて視線を前に戻すと、ナマエは足がもつれそうになりながらも必死で皆に遅れないように走っていく。
 ローは今どのあたりにいるのだろうか。貰った時よりかなり小さくなってしまっているビブルカードを大事に握りしめながら足を動かしていれば、ふいに少し前を走っていたロビンが「ナマエ、こっちに来て!」とナマエの方へ振り返った。
 彼女の手には、子電伝虫が握られている。ばくばくと心臓の音がさらに激しくなったのは、きっと慣れないことをしているせいだ。なけなしの体力で必死に加速すると、ナマエはロビンの横に並ぶ。そして渡された子電伝虫の受話器を耳に当てた。


『・・・無茶しやがって、馬鹿野郎』


 耳に飛び込んできたかすれた声色に、ナマエは思わず込み上げてきたものを飲み込んだ。無事でよかった、勝手に来てごめんなさい、果たして一体どんな言葉を言うのが正解なのだろうか。
 ぐちゃぐちゃになってしまった頭では上手く返すことができず、ナマエはただ子電伝虫を落とさないように必死だった。


『・・・怪我はねェか?』
「・・・っ、人の心配してる場合じゃないでしょう」
『おれは、いつもの事だ』


 確かに以前もふらりと一人でどこかに居なくなったと思ったら、大きな傷をこさえて帰ってきたことがあったっけ。あの日彼の怪我に気がついて手当てをすると申し出たことから偶然母のレポートの存在を知り、そしてそこから記憶を取り戻していったのだ。
 幼い頃に偶然ローと出会い、紆余曲折あって再会し、そして彼の傍でこの先の未来を歩むと決めた。全ては偶然だったのかもしれない。けれど偶然に偶然が重なって、今自分がここにいることは紛れもない事実なのだ。自分で選んだ道だからこそ、今度は後悔せずに生きていきたい。
 ナマエはぎゅっと受話器を握り直すと、そのまま鳥かごに覆われた空を見上げた。
 

「ロー、あのね」
『・・・なんだ』
「私、貴方に伝えたいことがあるの。だからっお願い・・・死なないで」
 

 ずっと言いたくても言えなかった本音。頬から雫となってこぼれ落ちた涙は、土煙の中に弾けて消てていく。
 ローと次に会う時は、恐れずに自分の気持ちを素直にぶつけたい。サボの時はできなかったその行為を──もう二度とあんな風に後悔をしたくないから。
 ナマエの言葉の後、ローが一瞬息を飲んだような音が耳に入る。そして数秒後、噛み締めるような小さな含み笑いと共に『ナマエ』と己の名を呼ぶ愛しい男の声がした。


『ここまで来たんだ。必ず生きて、最後まで見届けるつもりだ』
「・・・うん」
『だからもう、一人で泣くな』
「・・・っ」
『勝った後におれの胸で好きなだけ泣け。お前の話は、その時に嫌というほど聞いてやる』


 強い意志のこもったローの声は、もう会えないかもしれないという不安をいとも簡単にぬぐい去っていく。ローが約束を必ず守る男だということは、十三年の時を経て、彼と再会したナマエが一番よく知っていた。



「ありがとう、ロー。またあとでね」



 涙を拭いながらナマエがそう告げると、彼はいつものようにただ小さく笑った。



***


 電話の後、ローの手錠の鍵を渡すため王の台地からひまわり畑に向かうことになったロビンたちと別れたナマエは、怪我人たちの手当てに奔走していた。
 最初は共にローの元へ行くかと尋ねられたが、ナマエは首を縦には振らなかった。非戦闘員の自分が最終局面を迎えた戦いに安易に飛び込むべきではないというのはもちろん、合流してくる仲間たちの怪我を見て、彼らを放っておくことができなかったのだ。『ルフィくんが必ずローを連れてきてくれるって約束してくれたから大丈夫。私は自分の出来ることをする』と告げ、ナマエはそのままてきぱきと治療を行っていく。
 その後台座に押し寄せてきた市民たちの傷の手当ても一気に引き受けることになったのだが、トンタッタ族たちが医療品をかき集めてきてくれたおかげで、何とかローの分の薬を残しておけそうであった。

 目立った外傷のあるものたちの手当が終わり、ようやくナマエが一息ついたところで事態は急変した。ゾロがピーカを倒してすぐ、ドフラミンゴの声で国中に鳥カゴ縮小の放送が流れ、人々は途端に大混乱に陥る。そしてヴィオラの千里眼の情報から、ルフィに救い出されたものの腕を切断されて瀕死の状態のローが、ひまわり畑にてトンタッタ族のレオたちによる治療を受けている最中だということがナマエに知らされた。
 今がローの元に行くべき時だということは理解しつつも、今からひまわり畑に向かうにはナマエの足では時間が掛かりすぎる。神に祈るようにナマエがローのビブルカードを両手で握りしめた次の瞬間、ふわりと生暖かい風が頬をかすめたと同時、熱風と共に誰かが王の台座に飛び込んできたのがナマエの視界に写った。


「いた・・・!ナマエ!」
「サボ!?」
「ロビンからこっちに連絡があった!トラファルガー・ローのところに連れて行ってやる!急げ!」


 伸びてきたサボの手を、ナマエは躊躇することなく受け取った。サボはナマエをしっかりと抱き抱えると、一気に加速して王の大地から飛び降りる。


「カラスが使えたら早かったんだが、生憎鳥カゴのせいで入って来れねェ。手荒だが、一気に行くぞ!!」


 そう叫ぶや否や、サボは手を地面にかざし、手に入れたばかりのメラメラの実の能力である炎を掌から噴射させて空に舞い上がった。爆風による加速と彼の脚力が合わされば、目的地のひまわり畑まですぐに辿り着くだろう。
 振り落とされないようしっかりとサボの首元にしがみつきながらナマエが空を見上げれば、王宮付近ではルフィとドフラミンゴの激しい戦いによる白煙が巻き起こっていた。


「本当なら、お前をもっと早く島の外に逃すべきだったんだがな・・・。もうここまで来たら、あとはルフィたちに賭けるしかねェ」
「・・・うん」
「だからお前も全力を尽くせ。おれもお前を送り届けたら、ルフィの邪魔をしようとしている奴を足止めしに行く」


 息をきらすことなく上へ上へと登っていくサボからの激励の言葉に、ナマエは力強く頷いた。
 三段目を乗り越え地面を蹴り上げると、ナマエの視界に一面のひまわり畑が広がる。太陽に向かって咲き誇る黄色の花々がまるで大海原の波のように揺れており、その向こう側に現れた人影にナマエは思わず息を飲んだ。
 地面に横たわる血塗れたローの姿。服が引きちぎれた場所に右腕はなく、傷口付近でトンタッタ族たちが何やら処置を行っている様子が見受けられる。
 突然現れたサボとナマエの姿に、ローのすぐ近くにいた白い服に身を包んだ美しい男が反射的に剣を構えるも、今この場にはいないロビンから何か言付けを受けていたのか、ナマエを見るや否やすぐさまその白刃を鞘に収めた。


「お前がナマエだな」
「っ・・・はい」
「良かったなトラファルガー・ロー。待ち人来たるだ」
「早くこっちに!縫合はぼくがやるので、止血と消毒を頼むれす!!」
「はい!!」


 下唇を噛んで必死に涙を堪えると、ナマエはここまで己を連れてきてくれたサボの方に振り返る。「ありがとう」と真っ直ぐとその大きな目を見て告れば、彼はあとはまかせたぞと言わんばかりに歯を見せると、ナマエの背中をぽんっと押してそのまま姿を消した。
 一週間も離れていないはずなのに、もう随分と会っていないような気がする。どくどくと波打つ心臓を落ち着かせながらローの横に駆け寄ると、ナマエはショルダーバッグを開けながら傷口を確認した。切断部分は血で溢れていて、これでは縫合しようにも細部が見えずに手こずるのが一目瞭然だ。
 恐らくローが自力でやったのであろう、縛られていた布の上からさらにガーゼと包帯を追加し圧迫を行う。薄れかけていた意識を取り戻したのか、閉じられていたローの瞼がゆっくりと開き、彼の灰色の目の中にナマエが映った。


「っ、ナマエ・・・」
「・・・ロー、もう大丈夫だよ。みんなで絶対貴方を助けるから・・・!」


 ロビンからサボに伝えられていた伝言によれば、トンタッタ族のマンシェリー姫の涙には治癒能力があるらしい。接合できさえすれば腕を元に戻すことが可能だという彼らの言葉を信じ、ナマエはただ目の前の処置を必死に行っていく。
 ある程度止血を施し傷口の消毒を終えると、あとはレオにバトンタッチをして、ナマエは彼のサポートに入った。素早くそして的確に縫合が行われ、最後にマンシェリー姫の涙で仕上げをすると、先程まで半信半疑な顔をしていたローの表情が一変する。


「どうれすか?」
「・・・僅かだが感覚が戻った」
「もう少しして血が流れ始めればもう問題はないはずれす」
「・・・助かった、礼を言う」
「いえ、でもまだ完全には引っ付いていないので絶対に無理はしないでくださいね」


 レオたちはにこやかにそう言うと、まだやるべき事が残っていると上空に飛んでいってしまう。張り詰めていた糸が切れたようにただ呆然とナマエが二人の小さな後姿を見送っていれば、ふいにローの左手が伸びてきて、ナマエの手首をしっかりと掴んだ。
 骨ばった指先から伝わる熱から、ローが生きてすぐ傍にいるということがダイレクトに伝わってくる。途端にナマエの身体中を安堵感が埋め尽くし、溢れてくる雫が次々と頬を濡らした。


「・・・おれはいつも、お前を泣かしちまうな」
「っ・・・ローが、無茶するからだよ」
「お前も、だろ・・・こんなとこまで勝手に来やがって。許したあいつらも同罪だ・・・戻ったら、全員甲板に並べて刻んでやる」


 いたるところの傷口が痛むのか、途切れ途切れに言葉を発しながらも、少し余裕が出てきたような表情のローの変化に、ナマエはまた涙腺を緩ませた。以前はずっと死ぬ覚悟だと述べていたものが、希望のあるものに変わっている。彼の心を変化させたのはきっと、他でもないあの麦わらのルフィの存在があったからに違いない。
 頭上でドフラミンゴと戦い続ける男に感謝の気持ちを噛み締めながら、ナマエはショルダーバッグからぶち模様の白い帽子を取り出すと、彼の前に差し出した。


「絶対一緒に帰ろう。皆のところに」


 ローが帽子を受け取ると、ナマエは右手の小指を立てローの方にそれを近づける。契りを結ぶために十三年前も同様に交わした指切り。
 躊躇していた以前とは異なり、今度はローの指がしっかりとナマエの小指を絡めとった。