Sabo route 02



「ナマエ、包帯が足りん」
「はい、すぐ作ります」
「それが終わったら干してる薬草の仕分けしとけ」
「分かりました」


 怪我人の手当てに勤しむマコモから投げられた言葉に、ナマエはちょろちょろと忙しなく動き回る。マコモに弟子入りを申し入れてから早三ヶ月。あれ以来ナマエは医務室に入り浸るようになり、実技を伴う勉学に日々励んでいた。
 それと同時に、居場所を見つけ、サボという友人ができたことから少しずつ心が安定してきたようで、今までとは異なり、センセーショナルな出来事であっても記憶がごっそりと抜け落ちることが減ってきていた。とは言え、今までに抜け落ちた記憶は相変わらず戻ってくることはなく、母の死の経緯や革命軍に連れてこられた時のこと、そしてどのようにしてサボと友人になったかなどはナマエの記憶には残ってはいない。
 けれどそんな事など意に介していない様子のサボは、相も変わらず稽古の合間をぬってナマエの傍をうろついていた。


「ナマエ、昼飯行こうぜー!」
「あっうん。ちょっと待ってて」


 稽古終わりに扉からひょっこりと顔を覗かせたサボの声に、ナマエは最後の薬草を棚にしまいこむとマコモの方に振り返る。彼は机でカルテに何かを書き込んでいるようで、何やら気難しい顔をして羽根ペンを走らせていた。経験則から今は声を書けない方が良さそうだ。代わりに他の医療班のメンバーに昼食に行くことを告げると、ナマエはサボの方に駆け寄った。


「お待たせ」
「腹減った〜!早く行こうぜ」


 呼応するように盛大に鳴り出すサボの腹の虫。互いに笑い声を漏らしながら、ナマエとサボは食堂に向かっていった。共有部に繋がる長い渡り廊下を渡っていれば、通路の出入口付近に二人の男の姿が見える。その人物たちの存在を目にするや否や、サボは目を輝かせて小走りに駆け寄っていった。


「ドラゴンさん!エルマーさん!任務から戻ってたんだな!おかえり!」
「ああ・・・」
「ただいま。ついさっきな。今回は予定外に長くなってしまったよ」


 いつものようにむっつりとした面持ちでこちらを見るドラゴンに対し、無邪気に駆け寄るサボの頭をエルマーはどうどうと宥めるようにして撫でる。父と面と向かって会うのは一ヶ月ぶりだろうか。緊張した面持ちでナマエが近寄れば、エルマーは少し眉を下げながらもナマエに微笑んだ。


「ただいま、ナマエ」
「・・・おかえりなさい」


 幹部という肩書きを持つ父は忙しく、任務で不在にしていることが多い。そのため革命軍にきて一年以上経つと言えども、相変わらず距離の空いた親子関係は続いていた。
 一体この後は何と言葉を続けるのが正解なのだろう。ナマエがはくはくと口を動かして考えあぐねていれば、ぎゅるるとサボの大きい腹の音が廊下に鳴り響いた。


「あ〜もうおれ限界!ナマエ、早く行こうぜ」
「・・・うん」
「エルマーさん、またあとで稽古つけてくれよ!」
「ははっ分かったよ。行ってらっしゃい」


 ナマエの手をむんずと掴むと、サボはそのままにこやかに笑って大人たちの間を縫って行く。きっと瞬時に空気を読んで連れ出してくれたのだろう。ほっと胸を撫で下ろしながら、暖かさと優しさに溢れる彼の手をナマエはぎゅっと握りしめた。


Sabo route 02


 今年の冬は大荒れであった。あまり雪の降らないバルティゴでも吹雪となる日が続き、一晩明けると白土は一面銀世界へと変化していた。冬島育ちで極寒には慣れているナマエといえども、この一年半の間に比較的温暖な気候に体が慣れてきってしまっていたらしい。気がつけば寒さにやられ、高熱を出して部屋で寝込んでいた。
 生憎エルマーはまた任務に出ている。そのためマコモ手製の苦い薬を流し込んだあとは、ナマエは一人で部屋でこんこんと眠りについていた。

 一体どれくらい眠ったのだろうか。吹雪によってガタガタと震える窓の音でぼんやりと意識が覚醒する。時計を見ようと身体を起こしたと同時、すぐ横に人の気配を感じたナマエは思わずはっと息を飲んだ。
 暗闇に慣れてきた目を凝らしてみれば、見えてきたのはベットの横に置かれた椅子に縮こまる人の姿。恐る恐るサイドテーブルに置かれたライトを付ければ、椅子に座ってむにゃむにゃと寝息をたてているサボの姿が現れた。
 ライトの横に置かれた吸い飲みと水の張った小さなボウル。さらには自分の額からずり落ちてきた濡れタオルを見て、ナマエは全てを悟った。恐らくサボが心配して看病をしてくれていたのだろう。そしてそのままここで眠ってしまったと言う訳だ。
 まだ気だるさが残るものの、熱は幾分か下がった気がする。ナマエはぬるくなったタオルをボウルに浸けると、いびきをかいて眠るサボの肩をゆらゆらと揺すった。


「サボ」
「むにゃ、・・・んん」
「起きて。貴方も風邪引いちゃう」


 ナマエの声掛けに、サボの瞼がゆっくりと開かれる。ビュービューと風の音が耳につく暗闇の中で、寝ぼけ眼の彼はナマエの姿を目にするや否や、一気に意識を覚醒させた。


「わっ・・・おれ、寝ちまってた?」
「うん。いつ来たのかは知らないけど」
「寝る前のトイレに行った後に寄ったから十時くらいだったかな・・・って起きあがって大丈夫なのか?」
「うん、熱はだいぶ下がったみたい」
「そっか良かった。ごめんな、頼まれてもないのに勝手に部屋に入っちまって」


 何やら複雑そうな表情で詫びでくるサボに、ナマエは慌てて首を横に振る。親切心からやってくれたことだろうに、なぜそんな顔をするのだろうかとナマエが不思議そうに目を瞬かせれば、彼は気まずそうに口を開いた。


「トイレの帰り道に、泣き声が聞こえてきて・・・。ナマエの部屋からだと思って慌てて行ったら、熱でうなされて泣いてたみたいでさ」
「そう、だったんだ・・・。ごめんね、心配かけて」
「いや、おれもすぐに立ち去ったら良かったんだけど・・・ナマエが何回も『お母さん』って寝言で言ってたから、さ。とりあえず熱下げるためにタオルとか用意して、そのまま様子見しようと座ってたら寝ちまったみたいだ」


 歯切れの悪く吐露された言葉。覚えていないが恐らく母の夢でも見ていたのだろう。サボにいらぬ気遣いをさせてしまった申し訳なさと同時に、なんとも言えないやるせなさが湧き出てきて、ナマエは項垂れるように布団の端を握った。
 そんなナマエの様子を一瞥したサボは、気まずそうに後頭部をかく。そして一息置いたあと、真っ直ぐと見据えるようにしてこちらに視線を送ってきた。


「実はおれ、エルマーさんに頼まれてたんだ」
「・・・お父さんに?何を?」
「ここに来た時から、『歳が同じだからナマエのことを気にかけてやってくれないか』って。何とか覚えてもらえてお前と仲良くなってからも色々と頼まれた。『ナマエは桃が好物だから一緒に食べなさい』ってでっけぇ桃を何個も渡してきたり、『任務で立ち寄った島で買ってきたんだ』って羽根ペンと薬草の本をおれに託してきたりしてさ」


 そんなまさか、とナマエは思わず息を飲んだ。食堂で配っていたとサボが大きな桃を両手いっぱい持ってきたことも、書庫整理で見つけて貰ってきたと、鮮やかな青色が美しい羽根ペンとナマエがずっと探していた著者の薬草の本を彼がくれたことも、全部全部覚えていた。まさかそれが全て父からの指示だったとはだれが想像出来ただろうか。


「今回も任務とはいえ高熱のお前を一人で置いてくのすっげぇ心配してて、おれとマコモのじいさんに『ナマエの様子はどうだ?』って何度も電伝虫で連絡がきてたんだぜ」
「・・・っ」
「エルマーさんはお前に興味がないんじゃなくてさ、大切だからこそ近づけないんだと思う」


 心の中に降り積もっていた雪が、ゆっくりと溶けていくようなそんな感覚を覚えながら、ナマエは父の姿を思い出す。
 なんて言葉足らずの人なんだろう。でもそれはきっと、母を助けてくれなかったという父への恨みから、高い壁を作っていた自分のせいでもあることは分かっていた。
 母の死がトリガーとなり記憶の健忘が起きている事実から、下手に刺激をして何かが起きるのを避けたかったのだろう。実際少し前に、大きな火を見たり母の遺品に触れたことがきっかけで貧血を起こし、ナマエは何度か意識を失って倒れてしまっていた。そのため今思えば父の判断は正しかったと言えるだろう。
 母の死にまつわることを聞いてしまえば、ナマエの身や心に何が起きるかは分からない。しかしそうであったとしても、ナマエからすれば問いたいことや聞きたいことは山のようにあった。なぜ母は死ななければならなかったのか。なぜ自分だけが助かったのか、と。
 問いたくても問えない自分。話したくても話せない父。そんな二律背反の関係性が事態をややこしくしていることは明白であった。


「マコモじいさんの時も言ったろ。『真正面からぶつかってみてもいいじゃないか』って。ちゃんと聞きたいことは聞くべきだし、お前の思いもエルマーさんに話した方がいい」
「・・・うん」
「もし万が一お前が母親の話を聞いて倒れちまったら、絶対みんなで助けてやる。ショックでまた記憶を無くしちまったとしても、もう一回最初から友達になってやる。おれのしつこさはお前のお墨付きだろ?」


 「だから心配すんな」とニッと笑う彼の笑顔はナマエの心の中を明るく照らす。まるで陽だまりのような暖かな存在が傍に居るという心強さを噛み締めて、ナマエは「ありがとう」と感謝の言葉を零した。
 和らいだナマエの表情を見てサボも安心したのか、彼はわざとらしく椅子の上で伸びをすると、壁にかかった時計をちらりと一瞥する。時刻は深夜の三時。外は未だ吹雪が吹き荒れているようで、窓枠がガタガタと音を立てて揺れていた。


「おっし。熱がまた上がったら大変だから、そろそろ寝なくちゃな」
「うん、サボもちゃんと布団に入って寝てね」
「おう。でもお前が寝るまでここにいるよ」
「え、でも・・・」
「いいからいいから。あっ寝れねェなら子守唄歌ってやるよ!エルマーさんに仕込まれたんだ、お前が好きだっていう子守唄」


 サボは息巻いてそういうと、あれよあれよとナマエをベッドに寝かせて手を握る。恥ずかしいようなくすぐったいような、そんな感覚に包まれるナマエにはおかまいなしに、サボの口から歌が奏でられた。
 北の海に古くから伝わる子守唄。幼い頃、眠れない日は母に手を握って歌ってもらっていたことが朧気に思い出される。同時に、母から聞いていたのか、父がそれを知っていたという事実がナマエの中にじんわりと溶け込んでいく。
 リズムも音程も本来のものとは程遠い。けれど安心する暖かな声と握られた手の温もりに包まれて、ナマエはゆっくりと目を閉じていった。


***


 そんな出来事からあっという間に一週間がたち、エルマーたち一行が無事にバルティゴへと帰還する。熱も下がり元気を取り戻したナマエは、サボの言葉を胸に父親と向き合って話す選択をした。


 「なんでお母さんが死んだのか、なんで私がここに来たのか、忘れてしまっていることをちゃんと教えて欲しい」


 ナマエの問いかけに、エルマーは少し呆気に取られた表情をしたあと、悲しそうに笑った。


「すまない。きちんと話さなくてはいけないと、ずっと思っていたんだ。なのにお前にこれ以上負担があってはと思って、踏み出せなかった」
「・・・うん。私も、理由も聞かずに勝手にお父さんを恨んで突き放してた。だからこそお父さんの口から真実が聞きたい。そしてちゃんと自分の過去に向き合いたい。・・・私はもう、大丈夫だから」


 居場所ができた。そして心を許せる人たちもでき始めた。何もかも失ったと絶望の縁で泣いてばかりいた自分だが、一歩ずつ前に進めるようになった今だからこそ、己の中で燻っているものと向き合いたい。
 真っ直ぐとぶれることない視線を父に向けて、ナマエは言葉を放つ。
 

「そういうところ、母さんにそっくりだな」


 目を潤ませながら、一つ一つ言葉を慎重に選ぶようにしてエルマーは語った。
 母は北の海にあるとある国で蔓延した病に関するレポートを執筆しており、昔仕事をともにしていた有名なドクターに極秘に協力を得ていたらしい。その病は政府が発症の原因を知りながらも国民たちにその実態を隠し、最後には病気で苦しむ人たちを見捨てて見殺しにした悲しい背景を持つ。
 母は調査すること自体禁忌とされたその病気の真実を解明して、世間に公表しようとしていたらしい。しかしどこからか情報が漏れ、政府の存在を脅かそうとする行為を企んでいる反逆者だとCPに目をつけられてしまったのだ。そのため母はナマエを安全な場所──エルマーの元へ行かせ、自分も身を隠そうとしていた。が、しかしあと一歩遅く、ナマエが不在の時にCPの刺客が母を襲い、そのまま家に火を放ったのだ。
 母を救おうと無謀にも火の中に飛び込んだナマエを、迎えのために島に到着したエルマーが救い出し、そのまま革命軍に連れ帰った。それが全ての真実であった。


「村に着いた時には、すでにお前が火の中に飛び込んだ後で・・・。二人を助けようと私も中に入ったが、アリアはすでに瀕死の状態で倒れていた。もちろん、助けたかった・・・。だが『ナマエを頼む』と言い残して母さんは、息絶えたんだ。すまない・・・私がもっと早くたどり着いていればアリアを助けられたのに」


 記憶は無くなっていようとも、ピリピリと肌を焼く熱さを身体がしっかりと覚えていた。鳴り響く心音と、ずきずきと鈍痛が走る頭。ナマエは意識を失わないよう、浅くなった呼吸を整えながら必死に唇を噛み締めた。
 初めて見た父の後悔の涙とそして懺悔の言葉。それを目の前に、どうして父は離れて暮らしているのかと幼い頃に母に問うた時の記憶が蘇る。



『なんでお父さんは遠くに住んでるの?お母さんと喧嘩しちゃったの?私のこと嫌いなの?』


 あれは五歳の時だったろうか。たまたま近くの村の子どもと交流する機会があり、父親がいないことをからかわれた幼いナマエは、母に涙ながらに尋ねたのだ。その問いに母は少し驚いたように眉をあげたあと、すぐさま首を横に振ってナマエの頭を撫でた。


『違うわ。お父さんもお母さんもそれぞれやりたい夢があったの。だから離れて暮らす選択をしただけよ。それにもちろん、お父さんは貴方のことをとっても愛してるわ。毎年お誕生日にメッセージカードとプレゼントを送ってきてくれるでしょ?』
『プレゼントなんていらない・・・お父さんに会いたい。っ・・・おめでとうって、直接言って欲しいの』


 母は赤子の自分を抱えてこの島に一人でやってきたらしい。そのためナマエは父の顔をこの目で見た記憶がない。写真の中でしか知らない父親に手紙で愛しているとしたためられても、どう信じればいいのだろうか。
 さめざめと泣きだしたナマエを見て、その小さな身体を母はぎゅうっと力強く抱きしめた。


『お父さんのやりたいことは皆の為になることなんだけど、少し危ないことでね。お母さんや貴方を巻きこまないために・・・守るためにあえて離れて暮らしてるのよ』
『っ、ひっく』
『今は分からないかもしれないけど・・・いつか貴方にも分かる時が来るわ。・・・ごめんね、ナマエ。お父さんの分まで、お母さんが貴方をたくさんたくさん愛してあげるから』


 そう言った母の目にも、一粒の涙が零れていた。あの時は当然その意味を理解することができなかった。けれど今なら分かる。そして母が命を懸けてまで守りたかったものがあったということも。
 母との思い出を解雇しながら、ナマエはゆっくりと口を開いた。


「お父さんも、お母さんも・・・ほんと自分勝手。私のことなんて二の次で、自分の夢ばっかり追いかけてさ」
「・・・すまない。もちろん、許さなくていい・・・お前には一生恨まれる覚悟だ」
「うん・・・多分、許すのには時間はかかる。でもね、言いたいのは・・・それじゃないの」


 エルマーからの謝罪に、ナマエは首を横に振る。そして流れてきた涙を拭いながら、真っ直ぐに父の顔を見据えた。


「お母さんが死ぬ間際に言ったの。『それが自分の信念だったから後悔はない』って」
「・・・」
「お母さんは医者として、『苦しんでる人たちを救いたい』っていう自分の信念を貫いて・・・同じような犠牲者を二度と出さないために、命懸けでレポートを書いてた。お父さんもそう。革命軍として、辛い思いをしている人たちを助けて、皆で笑える世界を創りたいんでしょう?」
「・・・嗚呼、そうだ」
「私も・・・二人みたいに自分の夢をしっかり持って、それを叶えるために前に進みたい。ここでなら夢のために成長できる気がするの。だから・・・」


 「私も、革命軍に入る」──迷いなく自分の思いを告げるナマエの姿に、エルマーははっと目を見開いて息を飲む。そしてその決意を噛み締めるように、小さく頷いた。


「・・・お前が決めたなら、父さんは反対しない。ただ危険を伴ったり、辛い思いをすることがたくさんあるという事は覚悟しておきなさい。そして、何かあった時は自分の命を一番に考えて行動して欲しい。それが約束だ」


 何十年も革命軍で活動してきた父は、数え切れないほどの窮地を乗り越えてきたのだろう。手や身体に刻まれた無数の傷跡がそれを物語っていることを、ナマエは知っていた。そして贈られた言葉に、自分への愛がしっかりと篭っていることも、目の前の父の表情からありありと伝わってきていた。
 落ち着いてきた呼吸を整えながら、ナマエはそっと父の方に手を伸ばし、膝に置かれていた傷だらけの大きな手をぎゅっと握りしめる。


「約束、ちゃんと守るよ。だから・・・お父さんももう私を置いていかないで」


 その約束にエルマーもまた頷き、今までできなかった分を注ぎ込むように、ナマエの小さな身体を力強く抱きしめた。

 話し始めてから二時間は経っていただろうか。エルマーの部屋を出ると、長い廊下に座り込む一つの影が目に入る。ナマエの姿を目に入れた途端、その影の主サボは立ち上がるとじっとナマエの顔を見つめていた。心配になって、話が終わるまでずっと廊下で待っていてくれたのだろう。
 もう大丈夫だよ、とそんな意を込めてナマエが柔らかく微笑むと、彼は顔をほころばせて駆け寄ってきた。そのまま勢いよくこちらに飛びついてきた彼は、「良かったな」と鼻をすすりながらナマエを抱きしめる。夕陽に照らされて輝くサボの金色の毛が緩やかに頬をくすぐり、ナマエは思わず笑い声をもらしながら釣られて涙を零した。

 自分のために泣いて笑って、そして手を引いて時には背中を押してくれる──そんなサボがナマエにとってただの友人ではなく、特別な存在へと変化するのは、そう遠くない未来の物語。