Sabo route 07


 気持ちの整理はとうの昔につけていたつもりだった。しかし離れてから半年以上の月日がたつというのに、いざ本人を目の前にすれば、奥底に隠していたはずの感情はいとも簡単にナマエの中で爆ぜてしまった。
 目の前のサボの顔に手を伸ばし、ナマエはその輪郭をそっとなぞる。頬についた土埃をやんわり払ってやれば、彼はくすぐったそうに小さく笑い声をもらしながらナマエの首筋に頬を寄せた。
 同時、ぽたりと首筋に伝う生暖かい雫。ずびっと鼻をすする音で、サボが泣いている事にナマエは気がついた。


「・・・サボ?」
「・・・ずっと、お前を探してた」
「・・・っ」
「無事で、っ・・・本当に良かった」


 涙まじりのかすれた声が降り注ぐ。ぎゅうっとより一層力がこもる腕の中で、ナマエは込み上げてきた想いを飲み込むのに必死であった。
 サボからすれば、自分に聞きたいことや問いただしたいことがたくさんあったはずだ。それなのに、いの一番に無事を喜んでくれたという事実が心をじんわりと包み込んでいく。
 ナマエは生きている証を刻むように、サボの背中に腕を回し彼を強く抱きしめ返した。


「あの〜お取り込み中悪いんだけどぉ・・・」


 そんな二人の感動の再会に割って入るようにして、ふいに耳慣れた声が投げられる。雲の合間から満月が顔を出したのか、天井に空いた穴から月明かりが倉庫内に差し込んだ。
 それによって薄暗かった空間が照らし出され、サボの背中ごしに二つの人影が現れる。その姿を目にして、ナマエは驚きの声を上げた。


「コアラっ!・・・っそれに、ハックも!」
「久しぶりっナマエ。言いたいことはたくさんあるけど、お説教は全部終わってからね」
「息災で何よりだ」


 二ッと笑顔を浮かべるコアラと、こちらに目配せをするハック。二人の足元にはそれぞれカナリアとキリルが抑え込まれており、地面に這いつくばり抗う術を失った彼らは悔しそうな表情を浮かべていた。


「〜っ!なんで貴方たちがここに!?まさか、後をつけてきてたの!?」
「いーえ。偶然ナマエのビブルカードを提供してくれる人と出会ってね。ドレスローザから直行して探しに来たら、たまたま貴方たちがいただけよ。それにしても、私たちがドレスローザの件に手を焼いてる隙に、まさかナマエを利用しようとしてただなんて・・・!」


 飛び出してきたコアラの言葉にナマエははっと息を飲む。ドレスローザ、ビブルカード、提供者。それらを繋ぎ合わせて脳裏に思い浮かぶのはローしかいない。ナマエが思わずサボの顔を見あげれば、彼はごしごしと目元を拭うと、ご名答と言わんばかりに少し不満げそうな表情で肩をすくめた。
 そしてナマエの頭を優しく撫で、丁重に地面に座らせると、サボはすくりと立ち上がる。そのまま一直線にハックの足元に転がるキリルの元へ歩んでいくと、彼は懐から取り出した紙の束をキリルの顔前へと突き出した。


「今回の計画も、かつてお前がエルマーさんの命を奪ったことも、証拠は全て揃ってる。お前の仲間や買収していた内部の人間たちは全て捕らえた。みんな口を揃えて、全部キリルが仕組んだことだと自供してくれたよ。もう言い逃れはできねェぞ」
「くそ・・・っ!くそぉぉぉぉ!!お前っ!!わざとおれとカナリアを泳がせてたな!?」
「ああ。エルマーさんの一件から、お前がきな臭いと思って水面下でずっと調べてた。カナリアっつー分かりやすいトラップまで用意してくるとは予想外だったけどな。まぁでもそのおかげで、だいぶ情報を揃えられた」


 そう淡々と告げると、サボは空いた手を真っ直ぐに空にかざす。途端に、彼の左手にぼうっと紅蓮の炎が宿った。
 恐らく、悪魔の実の能力。ただでさえ敵わないと思っていた相手が、さらなる強大な力を手に入れているとは計算外だったのだろう。瞬時に負けを認めたキリルの顔は、絶望の色に染め上がっていた。


「仲間を裏切り、たくさんの人を苦しめた清算はきっちりととってもらうぞ」


 全てを切り裂く刃のように放たれたサボの声は、燃え盛る炎とともに天に登っていった。



Sabo route 07



 月が沈み、きらめいていた星空が朧気な朝靄に飲み込まれていく。徐々に色彩が変わりゆく朝焼けを、ナマエは与えられた一室の窓辺から眺めていた。
 キリルとカナリアを捕らえ、もろもろの処理を済ませたサボたちに連れられ、ナマエが革命軍の船に乗ったのはほんの一時間ほど前。かすり傷だというのに、丁重に傷の手当てを施してくれたコアラは、涙ながらに改めて再会を喜んでくれた。


『ほんどにっ!ずっとずっと心配じてたんだからぁ〜!!』
『うん・・・ごめんね、コアラ』
『ゔ〜・・・お願いだから、もう勝手にいなぐならないでね・・・』


 ずびずびと鼻をすすりながらコアラがナマエの頬に絆創膏を貼り終わると同時、扉がノックされ、革命軍のメンバーが顔をのぞかせる。コアラの顔色を伺いつつ、ドレスローザでの件で早急に確認してもらいたい事があるのだと歯切れ悪そうに告げる男を見て、ナマエは目の前のコアラの手をぎゅっと握りしめた。


『行ってきて。コアラが戻ってくるまで絶対に何処にも行かないから』
『・・・分かった。約束だよ?』


 後ろ髪を引かれるような表情の彼女を見送ってから十分はたっただろうか。コンッ、コンコンコンと通常よりも幾分か多く、そして一拍置いた特徴のあるノック音が部屋に響き渡り、ナマエの心臓は一気に跳ね上がった。
 聞き間違いでなければ、それは幼い頃にサボとナマエの間で取り決めた二人だけの秘密の合図。鳴り響く心音を飲み込みながら、ナマエは「どうぞ」と外にむかって返事をした。
 ゆっくりと扉の向こうから現れたのは、やはりサボの姿で──。「今、いいか?」と尋ねる彼の問いに、ナマエはゆっくりと頷いた。


「忙しなくて悪りぃな。ドレスローザの後処理がまだ済んでないままにキリルたちの一件が舞い込んできたから、色々とてんてこ舞いでさ。この島で補給もしてくみてェだから、まだしばらくは騒がしいかも」


 かぶっていたシルクハットとグローブを脱ぎさりながら、サボは苦笑いを浮かべる。キリルとカナリアを捕らえたすぐあと、待機していた他の革命軍メンバーたちも姿を現したため、ナマエはサボとまともに話せないままに「傷の手当てをするから!」と問答無用にコアラに引っ張られ、革命軍の船へと連れてこられていた。
 そのため、こうして落ち着いてサボと向き合うのは革命軍を去ったあの日以来である。目の前に立つサボからは連戦の疲れが窺え、何だか少し顔がやつれたように見えた。
 ふとナマエの視線に気づいたのか、サボは取り繕ったようにちいさく笑みを浮かべると、コートのポケットから取り出したものをナマエの方へ差し出した。親指と人差し指に挟まれた白い紙。彼の指先の力が緩んだと同時、吸い寄せられるようにナマエの膝の上にひらひらと舞い落ちた。


「もしかして、私のビブルカード・・・?」
「ああ。キリルが持ってた分だ。昔任務の時にお前があいつに渡してたみたいで、返さずにそのままずっと保管してたらしい。判断が難しいかもしれねェが、そういうのは信用できる奴以外には簡単に渡すなよ」


 サボの指摘を聞いて、思考をめぐらせたナマエの脳裏に僅かな記憶が蘇る。確か父の事件が起きる少し前。キリルと任務を共にすることがあり、別行動をする際にビブルカードを求められた事を朧気に思い出した。用意周到な男のことだ。当時から、このような展開になる可能性を考慮して手に入れていたのかもしれない。
 「ごめん、気をつける」とビブルカードを懐にしまいながら詫びれば、コートとシルクハットをテーブルに置いたサボの視線が、じとりとナマエに向けられた。


「・・・それにしても、無茶しすぎだぞ」
「え?」
「突入の機会を伺ってたから、キリルたちとお前の会話は屋根の上でずっと聞いてたんだ。お前・・・わざとあいつを怒らせて、薬を自分に飲ませるよう仕向けただろう」


 少し怒気を含んだサボの声色に、ナマエはただ俯くことしかできなかった。聡い彼の事だから、いくら誤魔化したところで全て無駄な足掻きとなるだろう。こうしてサボにお灸を据えられる事は、ナマエにとって初めての経験だった。
 気まずそうに視線を泳がせるナマエの様子を見たサボは、部屋の隅に無造作に置かれていた三本脚のスツールを掴むと、ベッドの縁に座っていたナマエと向かい合わせになる場所に置いて腰を下ろす。
 そしてふーっと深い息をついて数秒後。意を決したように顔をあげると、サボはしっかりとナマエの顔を見据えた。


「頼むから、もう二度とこんな無茶はするな」
「・・・うん。ごめんなさい」
「いや・・・おれもお前にずっとキリルたちのことを黙ってたから、おあいこだよ。おれ自身が引き金になった事だったから、ナマエを巻き込むわけにはいかねェって思って水面下で色々調べてたんだ。そしたら結果こんな事になっちまって・・・面目ねェ」


 突然舞い降りてきた謝罪の言葉に、ナマエは慌てて首を横に振る。
 キリルや父の件については、サボにはひとつも非がないはずだ。彼が命を狙われることになったのは単なる逆恨みが原因だし、サボを庇ったのも父自らが判断した結果なのだから。
 膝の上の手をぎゅっと握りしめると、ナマエは小さく息を吸って己の心音を整える。大丈夫、今の自分ならきっと、逃げずに真正面からサボと向き合えるはずだ。そう自分に言い聞かせるようにして、ナマエはゆっくりと口を開いた。


「・・・ううん。私こそ何も告げずに勝手にいなくなって・・・みんなに迷惑と心配をかけてごめんなさい」
「・・・お前がなんで革命軍を去ったのか、理由を聞いてもいいか?」
「・・・告白してきたカナリアにサボが『返事は待って欲しい』って答えたって、偶然聞いてしまったの。それで、サボもカナリアのことが好きで、私は邪魔者なんだと思って・・・。だから、関係を早く終わらせなくちゃって、去る選択をした」
「・・・っ!カナリアへの対応は、全部キリルを泳がせるためにやったことで・・・」
「・・・うん、分かってる。でも、カナリアの事があろうがなかろうが・・・私が貴方をずっと苦しめて不幸にしていた事実は変わらない。だから・・・サボが謝る必要なんて、少しもないの。いつかきっと関係に無理が生じて、こういうことになっていたと思うから」


 そう、全ては父・エルマーの死をきっかけに、サボの負い目に漬け込んで、傍にいて欲しいとナマエが望んだことから始まったものだ。傍から見れば、二人は仲睦まじい恋人同士に見えたのかもしれない。けれど実際はそれとは程遠いもので、『自分を守ったせいで、仲間の大切な人が帰らぬ人になってしまった』というサボの罪滅ぼしの上に成り立った仮初の関係性だったのだ。
 嫌な顔をせずナマエの寂しさを受け止めてくれる一方で、サボは絶対に愛の言葉を囁かなかったし、いくら身体を触れ合っても、一線を引くように唇を許すことはしなかった。
 このまま一緒にいても、互いに幸せになることはできないと初めから答えは出ていたのだ。それなのに見て見ぬふりをして、傍にいてもらえるようにサボに呪いをかけ続けたのは、父の亡霊などではなくナマエ自身である。
 ぽろぽろとこぼれ落ちてきた涙を見られないように慌てて下を向くと、ナマエはサボにずっと伝えられなかった言葉を初めて口にした。


「ごめんなさい。・・・っずっとずっと、貴方に謝らなきゃいけないって思ってた」


 今更謝っても遅いのは分かっている。許してもらえない事だとは分かっている。けれど、ずっと逃げてきたナマエにできる最後の懺悔は、もうこれしか残っていなかった。


「サボのことが、好きだったから・・・。だから、傍にいてくれるっていう貴方の優しさに甘えてしまった。そして離れる選択をするのに、二年もかけてしまった。本当に・・・っごめんなさい」


 涙で視界が揺らぐ中、ナマエが全てを吐き出したと同時。「ナマエ」と名を呼ぶ柔らかい声とともに、サボの手が伸びてくる。長く骨ばった暖かな指先が、強く握られたナマエの手をやんわりと優しく包み込んだ。
 緩やかに伝わってくる熱に弾けるように面をあげれば、真っ直ぐにこちらを見つめるサボの大きな瞳とぶつかった。


「負い目とか、情じゃねェよ・・・。エルマーさんが亡くなったあと、傍にいてお前を支えるって決めたのは紛れもなくおれの意志だ」
「・・・え?」
「おれも、ずっと前からナマエのことが好きだったから・・・。だから、お前のせいとかじゃねェよ」
「うそ・・・そ、んな・・・っ!でも、サボは・・・」


 一度も好きだと言ってくれたことはなかったじゃないかと、恨みがましく続けたかったが、こぼれ落ちてきた涙が邪魔をして、上手く言葉を続けることができなかった。
 そんなナマエの想いを悟ったのか、サボはただゆるゆると首を横に振り、ぎゅっとナマエの手を握る力を強める。そして自嘲するような笑みを浮かべると、彼は目線を伏せ、結んでいた唇をゆっくりと開いた。


「お前の大切な人を奪って、心に傷を作った原因になったおれが・・・好きだって、幸せにしてやるって言う資格なんてねェだろ」
「・・・っ」
「お前もおれと一緒の気持ちでいてくれてるんじゃねェかってことには、何となく気づいてたんだ。それにおれの気持ちも、ナマエは知ってるとばかり思ってた。でも、大切な人を失う辛さをお前もおれも経験してるから・・・。このまま曖昧な関係でいた方が、お互いにとっていいんだろうなって・・・ナマエもそう思ってんだろうって、勝手に判断しちまってたんだ」


 からまった糸を解くように、サボの口から次々と事の真意が語られていく。
 彼の言う通り、ナマエは両親、サボはエースというかけがえのない大切な存在を亡くし、かつて途方もないほどの喪失感を味わっていた。常に危険が隣り合わせの革命軍に所属している以上、正式な恋人になってしまえば、またいつか心に深い傷を負う日が来てしまうかもしれない。それを避けるために、あえてサボは隣にいながらもナマエと心の距離を取っていたのだろう。
 愛する人の傷を、これ以上増やすことのないように。大事な心を守るために──。
 全ては臆病で優しい、彼なりの愛の示し方だったのかもしれない。


「でも逆に、良かれと思ってやってたおれの行動は、ナマエを傷つけちまってたんだな。もっと早く気づくべきだった・・・。っもっと・・・もっときちんと、お前と向き合うべきだった」


 零れ落ちる震えた声。サボの頬を伝って落ちてきた雫が、ぽたりとナマエの手の甲で弾けた。
 ようやく顔上げた彼の表情は涙でぐしゃぐしゃに崩れており、その姿はまるで幼子のようで──。
 そんなサボの姿を目の当たりにしたナマエの脳内に、出会ったばかりの頃から今までの思い出がじわじわと蘇る。時に背中を押しつつも、いつも歩調を合わせて隣を歩いてくれていたサボ。二年間もの間感情に蓋をして、ただひたすら傍で支える選択をしていてくれたのだ。
 自分の事など忘れて幸せになって欲しいと願って革命軍を去ったはずなのに、今はただひたすら彼の傍にいたいという気持ちが湧き出てきて止まらない。感情とはなんと移ろいやすく、都合の良いものなのだろうか。
 己の不甲斐なさに苛まれるナマエとは裏腹に
、サボは鼻をすすって目尻にたまった涙を拭い去ると、再びしっかりとナマエの顔を見据えた。


「もし許されるなら・・・もう一度、お前を愛するチャンスが欲しい。もう二度と、傷つけたりしねェから」


 ずっとずっと欲しかった言葉が光のように降り注ぎ、ナマエの凍っていた心を溶かしていく。嬉しさと戸惑いと、その他にも様々な感情が入り乱れる中、ナマエはサボの瞳を見返しながら、震える唇を開いた。


「これまでずっと・・・っ誰かに手を差し伸べてもらって、生きてきた。そんな弱い自分が嫌で・・・もういい加減、自分の足で立って、一人で生きれるようにならなくちゃ駄目だって・・・そう思ってて・・・」


 再び溢れてきた涙とともに想いを吐露すれば、手を引かれ、ナマエはそのままサボの胸の中へと抱きしめられる。しゃくりあげるナマエを落ち着かせるように、後ろに回ったサボの指先が優しく背中を撫でた。


「お前は弱くなんてねェよ・・・。いつだって一生懸命に前を向いて努力して、薬剤師になるっていう夢だって自力で叶えたじゃねェか。それにお前が助けて、笑顔を取り戻した人達だって数え切れないくらいたくさんいるだろ」
「・・・っ」
「お前が辛い時や苦しい時に助けてもらえるのは、お前がその分誰かを助けてきたからだ。巡り巡ってお前のところに還ってきてるんだよ。おれだって、ナマエのおかげで今ここにいられてるんだから」
「私の、おかげ・・・?」
「あぁ自分と似た境遇のお前が前を向いて頑張ってるから・・・おれも腐らずに頑張ろうって思えた。仲良くなってからは、おれの世話をよく焼いてくれただろ?今だから言うけど、怪我したらナマエにかまってもらえるから、訓練とかも無茶してた部分があるんだぜ」


 思いもよらないサボの告白に、ナマエは彼の胸の中で目を瞬かせる。顔を上げてサボを見やれば、彼はイタズラっ子のように白い歯を見せて笑っていた。
 昔と何も変わらない。優しい眼差しも、時たま見せる無邪気な笑顔も、そして抱きしめてくれる温もりも。幼い頃からひとつも変わらぬ愛しいものが、そこにはあった。


「エースを失って記憶を取り戻した時も、お前が傍で支えてくれたから立ち直れた・・・。たくさん、助けてもらった。これからも色々と情けなくてかっこ悪いところをいっぱい見せちまうかもしれねェ。でもな、だからこそ・・・お前もいつでもおれに弱いところを見せてくれていいし、助けを求めてくれていいんだ」
「・・・サボっ」
「二人でたくさん笑って泣いて、手を取り合って生きていこう」

 
 贈られた未来を予感させる言葉。ぼんやりとしていた空に朝陽が昇り、部屋には眩いほど晴れやかな日差しが次々と差し込み出す。それはまるで、これから先の二人の行く末を祝福しているようだった──。
 もう二度と間違えたりしない。そんな決意を胸に、ナマエは涙を振り払いながらサボの背中に手を回すと、目の前の愛する男を力一杯抱き締めた。



「これから先の明るい未来を、貴方の隣でずっと見させて」


 紡がれた答えを聞いて、噛み締めるように「もちろんだ」と声をあげるサボの顔がゆっくりと降りてくる。朝陽に輝く彼の黄金色の髪が、ナマエの頬を優しくくすぐった。
 全てを包みこむ陽だまりのように暖かな口付けを、ナマエは生涯忘れないだろう。