「俺はな、常々思ってたんだよ。最近の学校は机をくっつけず離してるだろう?そう、今みたいに。だがそれは間違ってる。聞こう、おまえら。学校とはなんだ?はい、ミノル君」
「遊び場です!」
「違うだろ!恋の場だ!!」
「せんせーそれも違うと思います」
「青春とは恋!恋といえば席替え!と、言うわけで本日のLHRは席替えターイムにしまーす」
「せんせー意味がわかりません」

と、なんだかんだで今日のLHRは席替えを行う事になりました。

「席離れちゃったね」
「うん…咲子が遠いとなんだかすごく不安だよ」
「まったく、可愛い奴め!でも友達作るチャンスよ!」

人見知りのこの性格のせいか、仲のいい友達がクラスには咲子しかいない。咲子に協力してもらって友達の輪に入れてもらえどなかなか会話を繰り出すことすら難しい私に友達が出来るか不安だ。
男の子なんてとくに苦手で、お兄ちゃんがいるのにも関わらずあまり免疫もない。

「机はぴったりとくっつけるよーに!」

そして月本先生の口ぶりは、男女の交友を深めるようにと聞こえた。無理です先生、私には。

「ツッキー!オレ咲子ちゃんの隣がいいでーす!」
「おー好きにしろー」
「はあ?クジ引いたでしょ?ちゃんとその席に座りなさいよ。」

とてもじゃないけどミノルくんみたいに指名立候補だとか、咲子みたいに自然体で男の子と話せる気がしない。意識しすぎなのかもしれないけど。

「15番は…一番後ろ、か」

黒板に書かれた番号を見て少し嬉しくなった。一番後ろの窓側の席なんて、すごい特等席じゃないか。
重たい机を人にぶつからないようにずりずりと引きずって、一番後ろの席に到達。すぐに腰かけた。

「俺の隣、みょうじさんなんだ」

その声にびっくりして隣を見ると、ひとりの男子生徒。どこかで見た覚えがある。

確か昨日美術室…あ、野球部の

「えと、坂野くん…?」
「うわ、嬉しーな。俺の名前知ってるんだ。」
「昨日、あの…美術室で」
「ガラス割った時?ああ!ユニフォームで名前見たんだ?」

こくん、と頷くと坂野君が嬉しそうな笑みを浮かべて見せたと思った、ら。

「ぐえ!?」

いきなり坂野くんの表情が苦しそうに変わり、その後ろに水嶋くんの姿があった。

「はいはい、坂野くん。きみ8番。」
「はああ!」
「なになに?何か言いたい事あるかな?」
「…なんもないっす」

真っ青な顔色になった坂野くんはずるずると席を引きずって、その後風間くんに泣きついていた。
そんな彼を目で追ってると、机がコツンと音を立てる。

「え?隣…水嶋くん?」
「うん」

それは水嶋くんの机と、私の机がこっつんこする音で。私の問いに満面の笑みで答える彼に、ひとつの疑問。

「えと、坂野くんじゃないの…?」
「変わって欲しいって頼まれてさ。アイツ目悪いし。」

水嶋くんがそう言うと遠くの方で

「両目2.0なんですけど〜」
「諦めたほーが良さそうだぜ」

なんて嘆いてるのが聞こえる。

「あいつ頭も悪いから前の方がいいでしょ」

少し意地悪そうに笑った水嶋くんに、心臓が音を立てた。

「どうかした?」
「う、ううん、なんでもないの」

なんだろう、この音。
怖いものに遭遇したときとはちがって、福引をする時とも違って。すこし熱くて、すこし懐かしい感じがする。

「水嶋ー?水嶋健斗ー?どこいったー?」

そんな月本先生の声。
本当に月本先生は水嶋くんが大好きなんだな…って、え?

「…けんと?」
「知らなかった?俺の名前。」
「え、あ、うん。」

水嶋くん、健斗っていうんだ。

(―――――もしかして。)

水嶋くんが“けんちゃん”?

「ツッキー!俺ここだって」
「はやく返事しろ、バカ者。」

…いや、ない。絶対ない。
水嶋くんの横顔を見てそう思った。

だってけんちゃんは女の子に間違われるくらい可愛くて小さくて。その反対に水嶋くんはかっこいい男の子だもの。けんちゃんが高校生になったら、きっと風間くんみたいな男の子だと思う。

それにもし水嶋君がけんちゃんなら、私に何も言わないはずがない。あの約束を覚えているなら「戻ってきたよ」と言ってくれるはずだ。

少し混乱した頭を落ち着かせようと前を見ると、月本先生が私を見下ろしていた事に気づく。

(…ななな、なに?)

心なしか生徒達の注目も浴びてるような(…私何かした?)

「そうか、水嶋。おまえそこにいったのか。」

なんだ、私じゃなくて皆水嶋くんを見てたんだ。ほっと胸を撫で下ろして水嶋くんを見ると相変わらずにこにこと笑っていた。

「だがちょっと待てよ。それは確か3年の…」
「そんなの関係ない。」
「…ふふふふふふふ。いいなあ〜楽しそうだなあ〜邪魔したいな〜しかしフジコ先生の事もあるしな〜」

何の話かさっぱりわからないけど、たぶん楽しい話なんだと思う(月本先生の笑顔、なんか黒いけど。)

「うわ、ツッキーきも。水嶋何やらかしたんだよ」
「さあ。」

隣の席が水嶋くんで良かったと思った。面識がある、とは言い難いけど他の男の子よりは話をしたことあるし、それに先日助けてもらった事もある。もしかして偶然だったのかもしれないけど、水嶋くんはきっといい人。
たくさんの人に慕われてて、いつも笑ってる。

月本先生もフジコ先生と同じように「手のかかる子程可愛い」のだろうか。(なんとなく先生自体が手のかかる子のような気がするんだけど)なにか考えているそぶりの先生は私と水嶋くんを交互に見ると(…なんだろう)

「最高に面白いこと考えた。」

そうニヤリと笑って言った。

「みょうじ、水嶋。おまえら明日日直な。」

先生、ちっとも面白くないです。
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