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「おっはろーん!今日もみんな元気かーい!」

だんだん寒くなってきた自転車での登校を終え、昇降口についてすぐジョーが後ろから声をかけてきた。あいつの場合声がデカすぎて叫ぶと言った方が正しい気もするが。

「…うるせえな、おまえは朝から。」
「その元気さがオレには羨ましいよ」
「お前らこそ朝から元気なさすぎだろ」

ジョーにそう言われてお互い顔を見合わせると、まだ重たい瞼をこすった。

昨日は竜太郎がエンディングを見てねえからなんとかかんとか言って、あのゲームをもう1度初めからやる羽目になり、結局二人揃って朝方寝落ち。おかげで今、超眠い。

「でさ、萩野」

その上朝の竜太郎は特に機嫌が悪い。真冬の寝起きなんて特に最悪で。昨日は飯食ったあと、あのゲームをもう一度やり始め結局二人して寝落ち。そんな竜太郎もお構いなしに、ジョーは自分が話したいだけの昨日見た面白かったテレビ番組の話を延々と話にかかった。

一言で言えばつまらない話をまだ寝ぼけた状態の龍太郎が適当に流す。いつもと同じ状況にオレは小さく笑うと、靴を上履きに履き替える為に靴箱へと手を伸ばした、ら。

「おはよう。チハルちゃん」

瞬間、背筋にぞわっ!と悪寒が走った。その聞きなれないその呼び名に慌てて振り返る。

「…げ!桜庭!」
「いやだな〜朝からそんな顔歪めちゃってさ〜」

そこにいたのは、桜庭凛人。つい先月隣のクラスに編入してきたばかり。

「可愛い顔が台無しだよ?」

で、この馴れ馴れしさ。

よ? で、首を傾げる仕草に猛烈にイラっとすんのはオレだけなのか、編入してきてからとにかくモテる。

どこにいても目立つ金色の髪に、ハーフらしい整った顔立ち。180センチはある高い身長で、ワイシャツの襟元のボタンが外され緩く首に巻かれたネクタイは一見だらしがないのに、なぜか品がある。ジョーから聞いた話、どうやら金持ちの坊ちゃんらしい。

顔よし、金よし、ただ如何せんチャラい。女の子達が色めき立つのが理解不能で。龍太郎のが断然いいに決まってる。

「ねえねえ、チハルちゃんは女の子なのに、どうして男の子の格好をしてるの?」

それに、オレはこいつが苦手だ。
龍太郎以外がオレを本名で呼ぶのも、女の子扱いするのも、気に食わない。まるでからかわれてるような、馬鹿にされてるような気がするからだ。

むすっ、と顔をしかめたオレを見て「いやだな、ただ気になったことを聞いただけなのに」なんてわざとらしく眉を下げる。

やっぱり気に入らない。無視だ。無視でいこう。

桜庭に背を向け、上履きに履き替える。そろそろ龍太郎もジョーから解放される頃だろう。とんとん、上履きを鳴らし、いざ歩き出そうとすると捕まえられた、腕。

「チハルちゃん、」

ぐい、っと桜庭に引き寄せられ、耳元で一言。

「女の子になりたくない?」

なりたくなんかねえ!そう叫んでやろうとした瞬間、反対側の腕をなにかに掴まれる。

「チハル、なにやってんだ」

龍太郎だ。オレの名前をいいつつ、桜庭を睨んでる辺り龍太郎も桜庭を気に入らないとみた。男からの評判は悪いみてーだな。

「あっ!桜庭このヤロー」

ほら、ジョーだって。

「モテやがってちくしょー」
「紹介しようか?女の子。」
「まじで!?」

どうやらジョーは違ったようだ。桜庭もジョーと話しつつも龍太郎を見てるような気がする。何かあるんだろうか、この二人。

「…チハル行くぞ。」
「ん、待ってよ」

まだ掴んだままの腕を引かれ、歩き出したオレには聞こえていなかった。桜庭が小さく小さく零した、言葉を。

「女の子になりたくないだって?はは、どうみても女の子だろ。…あいつの前ではね。」

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