02
「…っ、はぁ、はぁ」

無我夢中で走って辿り着いたのは、昔よく龍太郎と遊んだ公園だった。

親と喧嘩したり、友達を泣かせたり。そうして落ち込んだ夕方は公園にある大きな富士山の滑り台の下に隠れるのが好きで。ぐずぐず文句を垂れるオレの隣にはいつだって龍太郎が居た。

慰める言葉も何もなかったけれど、ただ傍にいてくれるだけで、安心した。

今までいつだって、傍にいたんだ。

オレの感情ひとつで離れるわけないって、そう思う。好きだってばれたところで、龍太郎にとって友情には変わりないんだから。

だけど、もし。

オレの中に女を見つけたら、龍太郎はどうするんだろう。ちょっとした仕草や、言葉に、それを感じ取ったら。

オレも周りの女子のようになる?
気持ち悪いって言われる?

龍太郎は離れていくんだろうか。


「あれれ?」


不意にオレを覗き込む、影。
キラキラとした金色が目に入り、少し甘い匂いがする。…ああ、今誰にも会いたくねぇっていうのに。

案の状、見上げると桜庭凛人が恍けた面してこちらを見ていた。

「チハルちゃん、どーしたっの?」

オレの状況など、お構いなしに明るい声色で聞いてくる。

“チハルちゃん”
その名前に酷くイラついた。

「…ッ呼ぶな、呼ぶんじゃねえ。」

なんなんだ。みんな。揃いも揃って。どうして、“女”でオレを呼ぶんだよ。

制服だって男モノ。靴だって黒のナイキ。髪だって短い。どう見たって、オレは男の子なのに。

「俺は男だ、」

そうだ、オレは男だ。

自分の気持ちに気付いたところで、龍太郎から離れる事なんて、出来ない。したくない。

男でしか竜太郎の隣にいれねぇんだ。

「と、言われてもねえ?チハルちゃんは正真正銘女の子なんだから」
「ッ、違う!身体は女かもしんねーけど!心は、ッ」
「心は男の子って?」

ふ、と呆れるように、桜庭が笑う。


「嘘ばっかじゃん。気付いてんでしょ?」


オレは桜庭の次の言葉が怖くて堪らなかった。だって今まで自分の感情を否定する事は幾らだって、出来た。

気の迷いだとか、勘違いだとか。その時の行動に何かと理由をつけて言い訳できたからだ。

ーーーでも、


「萩野の前ではトモハルじゃなくチハルでいる自分に。」


人に言われて否定出来る、自信なんか、なかった。


だって、それぐらい、もう、ほんとは、

龍太郎が すき で、たまらなかった

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