03 「萩野ー!んれ、トモハルいつの間に!?」
「ああ、さっき帰ってきたばっかり。」
バタバタと教室に走って来たのは、同じクラスで野球部のジョー。
城島だからジョー。これこそまさにニックネームと言うものだろう。
オレと竜太郎とは小学生からの付き合いで、身長は160センチと男の子としては小柄な方。ぶっちゃけフる側ではなく、フラれる側。けどいつも元気で楽しそうに笑ってるジョーは友達として最高の男だと思う。
「そだ!萩野、3年の御姉様がお呼びだぞ!」
ジョーがそうにやついた顔で竜太郎に言えば、竜太郎の顔から一気に血の気が引いたのが分かった。
「…無理、やだ。」
何を隠そう竜太郎は、筋金入りの女嫌い。いや…女性恐怖症、と言った方が正しいのかもしれない。
「だと思ったよ!」
そんな竜太郎にゲラゲラ笑うジョーとオレ。
無口でクールでどんな誘いにも乗らない硬派な竜太郎は今も昔も派手にモテてていた。小学生の時、既に“男らしい”と言う言葉が奴にはピッタリで。
竜太郎と共にオレも所属していた少年野球チームにはそんな竜太郎を一目見ようと観客席はいつも満員状態。監督でさえ観覧料を真剣に考えた程だ。
年上も年下も関係なく、女だったら必ずと言っていいほど誰もが竜太郎に目を奪われる。
中学生の時、人妻から「旦那捨ててでも一緒になりたい」と告白された事だってあった。結婚すら出来る筈なく、ましてや明日の保障すらない中学生へ熟女がそう言ってしまう程、竜太郎はまさに“神の子”。
どうしてこうも詳しくオレが知ってるかなんて、答えはひとつ。
もちろん竜太郎に伝えてくれとオレが頼まれたからだ。
なぜなら、女は竜太郎に触れる事すら出来ない。
「んっとに勿体ねーよな!んなにモテんのに女に触れねえなんて!」
「…マジ女だけは無理。」
その理由は小学5年生の時にあった。
学校からの帰宅途中。近道だと言って少し治安の悪い裏道から帰っていると、いきなり竜太郎の姿が忽然と消えた。
オレはたいして気にもせず、家に帰り一息ついてると勢い良く荒く開いた扉。
そして、そこに立っていたのは可笑しい程ボロボロな竜太郎の姿だった。理由を聞けば、危ない店の倉庫に連れ去られイケイケの姉ちゃん達に襲われた、と。
「ぷ…ッ!」
「てめ、チハル。また思い出し笑いしてんじゃねーだろうな。」
「ぷぷ!だ、だって!あん時の竜太郎ッ、だめだ、笑えて…ッ」
女怖い、と何度も呟いて泣きべそを掻いていた竜太郎を思いだし、笑いが止まらない。
そう、それからだ。
竜太郎が女に触わられると吐き気を催すようになったのは。
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