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『うぷ…だめ、吐く…』

過去、それを知らない女の子が無理に近付こうとし、そう言われて泣き去って行った記憶がある。

幸い今まで目の前で催された女は9人しかいない。

それでも竜太郎の人気は減ることを知らず、拝めるだけでも幸せだと、この高校の受験者数は前例にない数値を叩き出した。何の長所もない高校が、たちまち人気校へと早変わり。

…そこでだ。

竜太郎母とオレの母さんが手を組学園側に無理なお願いを申し出た。

竜太郎の女嫌いを克服するために幼馴染みのオレを男装させて傍にいさせてやってくれ、と。そしてこのオレも女としているのが苦痛で男として扱ってやってくれ、本人もそれを強く願っている、そう頼み込んだのだ。

それが出来なければ竜太郎を入学させる事はない、と。

今問題となっているモンスターペアレント以外の何者でもないハタ迷惑な母親2人だ。

しかしその話を聞いた学園長はどうやらオレを『性同一性障害』だと思い込み、すんなり男子制服着用を認めた。

性同一性障害、それは女の体で産まれたのに、自分を男だと思うもの。

最近では芸能人にもそういった人達が増え理解されてるように思われるが…彼らの抱える悩みは尽きない筈。そんな問題を軽く考えてると思われる母親達の神経を疑うが、今までオレが“女でいたい”と口にしたことがないから、もしかすると母さんはオレをそう思ってるのかもしれない。

…オレは自分を女だと思ってる。けれど男として育てられたから男でいるだけで。

入学したての頃はやっぱり好奇の目もあった。けど竜太郎が必ず傍にいたし、そこらの男よか男らしいオレは気づけば女の子に告白されるまでになってた。

周りのほとんどがオレが竜太郎の為に男装してると思っていて、今ではもう完全な男だと思われている気がする。

オレは女だけど、男。

そんな可笑しな言葉。けど、それがオレの中の常識で、当たり前だった。


「てか、…さびぃ。」
「う、わ!ちょ、抱きつくんじゃねえ!」

いかなり腰に回された腕に心臓が跳び跳ねる。

「ッ離せ!バカ竜太郎!」

ぎゅう、と強い力に抵抗するようにもがいていると、ジョーがそんなオレらを見て呆れたように言った。

「おまえらさー、よくそんな男同士でベタベタできるよなー」

…どうやらジョーの頭の中では、もう既にオレが女だということがスッカリ消えてるらしい。

「バカいえ。竜太郎は元々甘えん坊なんだよ。」
「チハルもだろ」
「竜太郎ほどじゃねーよ!」

竜太郎を知る人間の中に女性恐怖症の話を知らない人はおらず、そして女子は竜太郎の直径1メートル以内の範囲をこう呼ぶ。

“神の領域”だと。

そんな領域の少しでも近づきたいと竜太郎は頻繁に呼び出しを受けるが、一度も行った覚えがない。

どうしてそんな竜太郎の傍に女の俺が居れるかなんて、決まってる。

竜太郎がオレを女として見ていないからだ。

小さい頃からオレは男だった。ジョー以上に付き合いが長い竜太郎なら尚更の事。

「チハル、あったけえ」

けど、オレは竜太郎が好きだった。



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