炭酸れもんA




お互い出来上がってきて、そろそろ時計もてっぺんを回る頃。まだまだ一緒に居たいけど、これ以上飲み過ぎるのは明日が辛い。





『そろそろ帰ろっか』

「……もう帰るの?まだヤダ」

『だーめ、明日だって仕事早いんでしょ!はい、もう無理矢理でも帰るからね』

「わー!直人のケチ!」

『なんとでも、』






花子は不満有り気な顔をしてぶつくさ言いながら会計を済ませる。

誘った方が払う、これが俺らの昔からのルール。食事は必ず男が奢る!みたいなことを嫌うからこそ気を使わずにいれるんだと思う。




会計を終えた花子と店の外に出て、タクシーを捕まえようとしたら手を止められた。





「ねえ、今日は歩いて帰ろうよ」

『いやいや、良い加減芸能人としての自覚持てよ』

「たまには良いじゃん!」





花子の白くて細い指が俺の服を引っ張って歩き出す。
他の女の人に同じことをやられたら、服が伸びると嫌になるけど花子はその辺の加減も知っている。というか花子になら何されても怒らない、変な意味ではなくてね。





「ふふっ、懐かしいね」

『ん、何が?』

「昔さ、お互いまだ駆け出しだった頃さ、こうやって歩きながら帰ったじゃん?」

『ああ、俺もさっきそれ思い出してた』

「さすが直人、考えることは一緒だね」






腕をぶんぶん振りながら歩くから、俺の腕も自然と振られてなんだこれ、浮かれてる人みてえ。

「楽しいね、嬉しいね」って振り向いて俺の顔を覗いてくる。

ああ、もうそんなニコニコすんなよ。俺が相手だからそんなに無防備なのかなあ、俺がいけない飲み会の時はあまり飲まないって聞くし…。なんて少し優越感に浸って見たり…これくらい良いよね?



花子が手を離して俺の服が解放される。あっ、もう家か。





「あ、もう家着いちゃった」

『家に近いからあの店が良いって花子が言ったんだからな』

「そっか…そうだったね、」





シュンと音が聞こえそうなほど肩を落とす花子が可愛くてついニヤニヤしてしまう。
良い歳した大人がこんな深夜に純粋すぎるとは思いませんか?青春時代を歌とダンスそれぞれに捧げてたから2人ともその辺の感覚がズレてるのか?






『じゃあ、風呂入ってちゃんとベットで寝ろよ』

「直人、相変わらずお母さんみたい」

『うるせえな、花子がしっかりしてないから心配してやってんの!』

「ちぇっ、この前ね将吉にも言われた。直人に心配かけるなってお前もいい歳なんだから〜って、ホントみんなお節介」





将吉くんそんなこと言ったんかい。てか2人も仲良いよなぁ、ボーカリスト同士?だからなのか良く一緒にいるし。花子もそろそろいろいろ考える歳…だよな。

そう考えると2人はお似合いだなあ……。将吉くんかっこいいし可愛いし、背も高いし努力家だし…クソ、勝てねえだろこれ。





「ねえ、何?考え事?シワ……」





そう言って俺の眉間を指でそっと撫で、上目遣いで覗き込んでくる。

ああもうどうにでもなれ、




「へっ……」




花子の腕を引っ張って抱き寄せる。

この細い身体のどこからあんなに素敵な歌声が出るのだろう、この小さな背中に背負っているプレッシャーはどれだけのものなのだろう。
頭に手を回して、ギュッと抱きしめたら自然と口が動いていた。














『なあ、俺と結婚しない?』







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