炭酸れもんB





あれ、俺何言ってるんだろ。落ち着け片岡直人……。


恐る恐る花子を見れば(もちろん顔は見えないのだけど)綺麗な髪の隙間から見える耳が真っ赤に染まっていて、小さな身体が胸の中でもぞもぞと動く。

腕を離してやれば、ソッと一歩引いて俺から離れる。



そう、だよな。



ずっと長いこと一緒にやっていた"仲間"に告白…いやプロポーズされたんだ。明日からどんな顔してみんなに会えば良いんだろ、『花子にプロポーズしたけどフラれました〜』なんて言ったらみんなに笑われるだろうか。





「直人…、」





小さく呟かれた自分の名前を聞いてドキッとする。
少し涙声だ。






『ごめん、いきなり。その、忘れてくれて…いいから』






本当は忘れて欲しくなんかない。でも、今後の関係に響いてしまうならいっそ忘れてくれ。『冗談だよ』と笑って言えれば上出来なのだろうけど、あいにく今の俺の力量では無理だ。






「なんで、なんで…」

『ごめん、ずっと好きだった…から。でもほら、今日言えてスッキリしたし、明日からまた普通に仲間ってことでさ!』





顔が引きつってるかもしれない。それでも良い、花子を悲しませるよりは、花子が泣くくらいなら、俺が傷ついた方が何倍も良い。

スッと花子が顔を上げて俺の頬に手を寄せる。

花子の目には今にも溢れ出しそうなほど涙が溜まっていて、その瞳には眉を下げた俺が映っていた。





「なんで謝るの…?なんで忘れろって……」






そう言って大粒の涙が花子の頬を伝う。
涙を拭ってやろうと頬に手を近づけて止める。今の俺が…ダメだよな。





「なんで何も言わないの…?なんで止めるの……直人……」






なんでなんでって子供かよ。本当、年相応じゃないよな、お互いさ。






『なんで泣いてんだよ』

「わからないの…?直人ってバカ?」

『わかんねえよ、それに花子よりはバカじゃない』

「ふふっ、ホント年相応じゃないね。子供みたい」






ああ本当だ。考えること一緒だな。考えることは一緒でも、気持ちまでは一緒になれないか、そうだよな、人間だもん。





「あのさあ、直人さ、フラれるとでも思ってる?」

『…………ハァ?』

「プロポーズしたのは直人だからね、」











「責任とってよね」と重ねた唇は、少しだけレモンの香りがした。








*前次#
ALICE+