俺だけ、私だけA
玲於が帰ってから、新曲の振り付けを繰り返し練習していた。一ヶ所難しい振りがあって、何度踊ってもしっくりこない。
ああ、ここの振り考えたの隼くんなんだよなぁ。何としても踊れるようになりたい。
隼くんは頑張り屋さんだから、いつも1人で抱え込んでる。相談相手になれたらいいけど、玲於でも無理ならきっと私にも無理だ。
せめて迷惑をかけないよう、負担をかけないように頑張ることしかできない。
「花子ちゃん」
頭の中にいた人の声が聞こえた気がしてびっくりして振り向けばその人、隼くんがいた。
『隼くん、お疲れ様!』
こんな遅くまでトレーニング?それとも別のスタジオにいたのかな…。相変わらずがんばるなぁ。負けてられないや。
『平気じゃないでしょ、花子ちゃんは女の子なんだから』
多分、多分だけど隼くんだけだと思う。こうやっていつも気にかけてくれるのは。何年経っても、どんな時でも女の子扱いをしてくれるのは。
そりゃさ、パフォーマンスする上で女だからと妥協されるのは嫌なんだけど、普段は普通の女の子なわけで。だから隼くんにこうやって心配されるのは正直嬉しい。
「またそれ?隼くんそればっかじゃん、」
違う、言いたいのはこれじゃない。もっと可愛く、思っていることを言わないと……。
『何回でも言います、夜は危ないんだから』
「うん…でも、隼くんが来てくれて嬉しい!」
言えた、本当にそう思ってる。隼くんが来てくれて、隼くんで良かったって。
『あのね、花子ちゃん』
「ん?何、改まって」
『もっと俺を頼って欲しい』
まさかそんなこと言われるなんて思ってなかった。
"頼って"最初はなんどもいろんな人に言われた。メンバーにも先輩にも。でも難しかった、人に頼るのが。負けを認めているようで怖かった。
それに"俺を"か、それって私と思っていること同じってことでいいのかな?私も、私だけ頼って欲しいよ。
『ねえ、隼くん』
「ん?」
『私のことも、頼って…ほしい』
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