こんな気持ち知らなかった









『は?』


「は?だから名前、なんて言うの」


『…花子です』


「ふ〜ん…」






自分から聞いておいてこの反応の薄さ…。謎すぎる…。






「年は」


『17歳です。えっと今年18の年です』


「タメじゃん、敬語辞めてよ」


『え…』







この人同い年なんだ。
年は近いと聞いていたけどまさか同い年とは…。








『凄いですね、同い年の人がこんなに活躍してるなんて…』


「ども、俺のこと知ってるんだね。あ、そっかシュガーレス見たのか。あと敬語」


『あ、うん』








この人敬語に厳しい…。
でも直人さんにも「敬語辞めて」なんて言われるし、ここの事務所の人はみんなそうなのかな?

いやどうだろう、この人さっきからか表情変わらないしわからないな…。







「高校生?じゃないよね…?こんな平日の昼間から」


『えっと…』






そうだよね、17歳って言ったら高校生だもんなあ。
普通の高校生ならこの時間に出歩いてないよね、







「別に答えにくいなら良いけど、」








私が困った顔してるのバレた?でも気を使ってくれたのかな…。
ああ、この人普通に良い人だ。


玲於さんは私と話しながらコーヒーを飲んでいて、あまり干渉してこない辺りが心地いい。
話しやす…まだちょっと話しにくいけど。直人さんが良い人たちと言ってた通り。





直人さんとHIROさん以外の人とこんなに話すの久しぶりかも、もっと話してたいなあ…。








『あなただって…』


「玲於」


『玲於さん』


「さんいらない」


『玲於…くん』


「… …」


『…玲於』


「ん、」


『玲於…、だってこんな時間に』


「あ…それはまあ…お互い様だよね」









呼び捨てを強要してきたと思えば、困った顔をして笑って。胸の奥がキュッとなった。








「こんなとこで…って失礼か、ここで何してたの」


『えっと…息抜きに…。私普段、曲を作ってて、それの』


「へえ、凄いね」


『いやいや…』


「俺の知ってる曲作ってたりする?って俺あんまりJ-POP詳しくないし」


『たぶん…、知ってると…思う』








うん、知ってるよね。そりゃ知ってくれてないと逆に驚きますよ。あなたたちの曲ですもの。
でも…恥ずかしいというかこれ言ってよかったのかな。







「マジか、すげ」


『そんなことないよ、玲於の方が凄いよ』


「ありがと、」







「『… …』」







なんか気まずい…。
何話そう。あんまり曲について聞かれるのは恥ずかしいし…かと言って玲於くんの話をするのもきっと同じ気持ちになるだろうし…。








「ケーキ…好きなの?」







気まずい空気を打ち切ってくれたのは玲於さんの方で、なんか大人だなあなんて思ってしまった。同い年なのに。







『ケーキというか甘い物が好きです。和菓子とか』


「あっ、俺も」


『どら焼きが一番好き、あんこが好きで』


「マジか!俺もめっちゃ好き、」


『そうなんだ!』








内容のない会話ですら楽しいってなんか良いなあ。



でもまあこんなに楽しい時間にもいつか終わりは来るもので…








「あっ、俺そろそろいかないとだ…」


『そうだよね…ごめんね貴重な時間に』


「いや、俺こそ急に話しかけちゃったりしてごめん」


『ううん、楽しかったよ』






そう言って笑えば、照れくさそうに笑い返してくれてまた胸の奥がキュッとなる。






「そうだ、連絡先聞いても良い?」


『私こそいいの…?』


「私こそって、花子だからなんだけど」


『えっ、うん。うん…これ』







LINEのQR画面を出せばパパッと読み込んで友達に追加される。
私の画面に名前が追加される。








「じゃあ、また」


『はっ、はい!また』






席を立ってリュックを背負い去っていく背中を目で追っっていたら、その背中がくるっと回転してまたこっちに近づいてくる。

忘れ物…?はないよな、何だろう






「あのさ」


『はい、!!』


「俺いつか花子の作った曲で踊りたい」


『…!』


「ってことで、じゃあね」






そう言って自分の被っていたキャップを私の頭に乗せてグリグリっと被せられる。






『えっ!これ、』





去っていく背中に急いで叫べば、またなんともないような顔でふっと笑う。











「花子に、プレゼント」






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