少し前のお話A

NAOTO'side
















『直人さん、あの、』


「ん?どうした…?」


『私、服持ってきませんでした』


「あら…そう言えば」












俺の家に着く前に花子ちゃんの服を買いに行く。





『これでいいです』





と持ってきたのはセールワゴンの中からサイズだけを見て選んだであろう服。







「え、いやいや華の16歳がセール品ばっかなんて直人さんが許しません」


『でも…私お金ないし』


「平気だから、心配しないで」







お金ならちゃんと親戚の皆さんから貰ったからと頭を撫でてやれば少し表情が和らぐ。花子ちゃんて昔からこういうところ律儀だよな。
まあお金貰ってないけどさ、いらねえし。これぐらいの嘘はいいよね。






「どう?決まった?」


『どんな服が良いのかわかりません…』






なるほど。ではオシャレ番長直人さんが一肌脱ぎましょうなんて腕まくりをして花子ちゃんに似合いそうな服を手に取ってかごに入れていく。






「このぐらいで足りるかな」


『そんなに良いです…全部高そうだし、1着あればいいです』


「ダメダメ、オシャレしなきゃ!!」










結局、無理やり何着も買った、きっと全部似会うはず。

俺の住んでいるマンションに着いて、荷物を下ろし部屋に通す。





「ここ、花子ちゃんの部屋。好きに使っていいから」






俺が一人で住むには広すぎたなと後悔したけど役に立つ時が来てよかった。
哲也さんたちが泊りに来た時のためにと置いてあった布団を花子ちゃんに使わせるのは何だか嫌だったしとりあえず俺の布団を使ってもらおう。






「今度布団とか食器とかいろいろ買い物行こうね」


『ありがとう、直人さん』


「うん、うん」






瞳を潤ませながらゆっくりと弧を描くように口元を動かす。
昔みたいな笑顔ではないけど、良いんだ。少しだけ口角が上がったことが嬉しい。

俺、花子ちゃんに何か言いたいことがあったんだよ、なんだっけ。





「あのさ、俺たちこれから家族になるんだよ?家族に遠慮はなしね」


『っ…、それお母さんの』


「うん、おばさんの口癖。俺この言葉好きなんだ」






あっこれじゃない。てか…良くなかったか、ヤバい。俺って気が利かねえ…。








『私も、』


「ん?」


『私も好きです……、その言葉』








良かった、と言って髪をクシャクシャと撫でてやればまた少し微笑む。







「そうだこれ、花子ちゃんにお土産」


『これ…』


「どら焼き好きでしょ?」


『はい、好きです』







箱に入ったどら焼きを二つ取出し一つを差し出される。ありがとうと受け取ればもう一つの封を開け『いただきます』といって口に運ぶ。
俺のつられて一口食べる。美味い。






そうだ、俺はこれを言おうと思っていたんだ。











「花子ちゃん、16歳の誕生日おめでとう」







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