融点は36℃



「おーぅ、上がったぞ」
ガシガシとタオルで頭を拭きながら声をかければ、ンァーーと間抜けな返事が聞こえた。オーバーサイズのTシャツにショートパンツという出立ちの恋人はソファの下でゴロリと寝転びながらスマホを弄っている。
「お前まだ髪乾かしてねぇのかよ」
「だるい」
「ったくしょうがねぇな……オラ、こっち来い」
ドライヤーを持ちソファに座り込むと、股の間にのそのそと移動してくる彼女。季節の変わり目で体調でも崩したか?逡巡した後にそれはないかと勝手に決議が下った。少なくとも健康さとフィジカルの強さでこの女の右に出る人間など、異性を含めても数える程しかいやしない。
カチリ。乾かす時間がだるいと言う彼女に合わせて買ったドライヤーは大風力が売りの大手メーカーのものだ。ショートカットも相まって見る見るうちに滑らかな指通りになっていくそれに気分を良くした俺は、髪を乾かすフリをしながらそっと耳裏に指を這わした。普段は剣山の如く様々なピアスが彩るそこは、全ての装飾品が外されしっとりとしている。耳の形は良いんだよな。つつ、となぞるとこそばゆい、と頭を振られてしまった。

うし、こんなもんだろ。程々に乾いた彼女に声をかけ、今度は自分の髪を乾かしに入る。んんーと眠そうに己の太ももに頭を擦り付けてくる彼女に、可愛いとこあるじゃねぇかと思いはしたが如何せん力が強い。
「おい、イテェ、イテェって。もちっと弱めろ」
「貧弱……」
「お前の力が強ェだけだわ!」
ぺし、と後頭部を叩くとあ、忘れてた、なんて言いながらキッチンに消えていった。程なくして戻ってきた彼女の手には、なめらかな口溶けがウリのチョコレートアイスが一つ。無言で押し付けてくる圧に負けて受け取り封を切れば、あ、と無防備に口を開けてこちらを見上げるネコの様な双眸。
風呂上がりのせいか僅かに上気した肌、艶めく黒髪。ショートパンツから伸びる健康的な脚はしっかりと引き締まりつつも、どこか蠱惑的な雰囲気を纏っていて。
他意はまるでないのだろうその姿に、理性がぐらつくのを感じて思わず空いた片手で顔を覆った。
「アイス、溶ける」
「……ほらよ」
口元に差し出せば大人しく食べさせられるその姿に、普段は感じることのない支配欲と庇護欲を刺激されるのも事実で。
明日の朝はなんも予定無いって言ってたな。後回しにする仕事の算段を整えつつ、口の端についたチョコレートごと食べるように唇に噛みついた。





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