足先を浸す。
ちゃぷ、という音と共に心地良い温度が下から順に全身を包んでいく。揺らめく湯気を胸いっぱいに吸い込むと、硫黄に混ざり微かに潮の香りがした。
ほぅ、と陶然としたため息が漏れるのは仕方のない事だろう。少し遅れて入ってきた佑とみきこも身体を伸ばしつつ表情を綻ばせた。
「ア"〜〜」
「佑おっさん臭くてわらう」
「ふふ、気持ち良いね」
夕食を済ませた一行は宿の目玉である露天風呂に来ていた。果たして理鶯のサイズの浴衣があるかどうかが気がかりであったが、抜け目のないみきこはキチンと事前に連絡をしていてくれたらしい。「任せな!って言った手前そこは外せないでしょ」へへ、と頬を掻きながらそう笑ったみきこは、名前の耳元に唇を寄せてこうも告げる。「毒島さんの浴衣姿、見たくない?」
そんなの、見たいに決まってる。コクコクと赤べこよろしく頷けばバチリとウインクを返された。
源泉掛け流しの湯は歩き疲れた四肢にゆっくりと染み渡る。絶え間なく湧く水音に混ざって、時折遠くから潮騒が鼓膜を追いかけた。けぶる空気の合間に見上げる夜空は透き通り、一等星の輝きが眼裏を瞬くのを名前はただうっとりと眺めていた。
「ところで、ですよ」
ずいと顔を寄せたみきこに名前はきょとりと首を傾げる。キラキラとしていて、それでいて心なしかゾッとする笑みを浮かべながら告げられた言葉に名前はピシリと音を立てて固まった。
「おめでとう♡今日が初夜ですね♡」
見える。語尾に、ハートマークが。う、とかあ、とか母音を発することしかできなくなった名前は助けを求める様に佑を見るが、こちらもまたにんまりと口の端を釣り上げるだけで。
「これで名前もおこちゃま卒業かぁ」
「考えないようにしてたのに……!!」
佑からトドメの様に刺された言葉に名前は両手で顔を覆って項垂れる。恨めしげに漏れた言葉の後、弾ける笑い声が湯煙に混ざり合うのだった。
「ほっ」
佑は軽快な掛け声を上げながら右腕を強くスイングさせた。白球がコーナースレスレを捉えた後、勢いよく獄のラケットの左側をすり抜ける。
「ア!?んだクソ……!もう一回!もう一回だ!」
「せんせ無理しなくていいよ?」
「いいか、俺には我慢ならないモンが二つある。一つ、勝負で手加減されること。二つ、負けたまんま終わることだ!」
上等、と叫んだ声はどちらのものだったか。いけ!そこだ!と声を上げるみきこの隣、名前は白熱した勝負の行方を固唾を飲んで見守っていた。ひりつく空気の只中、ピトリと何かが頬に当たる感覚。
「ひゃっ冷た!?」
「ふふ。待たせてすまない、着るのに手間取ってしまってな」
あてられたのは牛乳瓶だったらしい。いちご牛乳と印字されているそれを受け取ろうと手を伸ばしたが、その手は口元に舞い戻ることとなる。
果たしてみきこが手配してくれたという浴衣は、サイズも雰囲気も不思議なほどに理鶯にマッチしていたからだ。
色素の薄い肌がほんのりと色づきつやめいている。二つのアクアマリンは満足げに細められ、
乾かし立てのせいだろう、レッドジンジャーの癖毛はふわふわといつもより跳ねており、ベビーフェイスに拍車を掛けていた。
(何、なん、)
格好良すぎる。チラリと見える手首に思わず視線が向いてしまい、名前は内心で自分を叱咤した。
「全く、小生がいなかったらとんでもない格好で出るところだったんですよ」
「感謝している。ありがとう」
理鶯の脇からひょっこりと顔を出した幻太郎はコホン、と咳払いをした。こちらも浴衣に着替えており、立ち振る舞いからか誰よりも様になっている。「げんたろ〜〜♡」とみきこが懐に飛び込むのを軽く受け止め、ふむ、と顎に手を当てた幻太郎は何やら思案顔で視線を理鶯から名前に向けた。
「構いませんがね。……貴女、男性物の着付けはできるんですか?」
「?、はい……貝の口ぐらいなら」
「なら良し」うんと一つ頷いた幻太郎の意図が読めずにいると、内緒話をする様な格好でかがまれた。「朝、困るでしょう。……脱いだ後着せれる人間がいないと、ね」
困る。着せれる人間が。脱いだ後。囁かれた単語を理解したのと同時に顔が真っ赤になるのが分かりいっそ面白いくらいに名前は動揺する。
「ゆ、夢野さん!?」
何言ってるんですかこの人。溢れるほどに目を見開いた名前を見てにこりと笑った幻太郎は、その美しく弧を描いた唇の前で人差し指を立て。そのままみきこの腰を抱き寄せ廊下の奥へと消えていった。
わなわなと牛乳瓶を握りしめていた名前だったが、む、と隣から発せられた声にハッとする。声の方を見やれば、唇を突き出した理鶯がじっと此方を見ていた。
「夢野と何を?」
「いえ、特には、何も……ひ、秘密!秘密です!」
「む……小官に隠し事をするのか」
「大したことじゃないんで!」
尚もジトリと向けられる眼差し。根負けし後で教えますから、と絞り出せばまた「む」と唸った理鶯は持っていた牛乳瓶の蓋を開けた。どうやら納得はしてくれたらしいと名前はホッと息をつく。
そんなやり取りの最中にも獄と佑の試合はヒートアップしており、二人とも既に汗をかいている様だった。着崩れ具合も相当なもので、他人事ながら止めたほうが良いか心配になってくる。
「……お風呂入ったばっかりなのに、いいんでしょうか」
「あれもまた一種のコミュニケーションなのだろう。それに、部屋には風呂がついているから問題は無さそうだ」
事もなげに瓶を呷る理鶯に倣い名前もコクリといちご牛乳を飲み干した。ふと視線を感じて理鶯の方を振り向き首を傾げると、優しい眼差しはどこか困った様に笑う。
「浴衣、良く似合っている。夏の時ともまた雰囲気が違っていてとても良いな」
「ふふ、ありがとうございます。理鶯さんもとてもお似合いです……!」
唐突な褒め言葉に照れつつはにかめば、理鶯は細めた視線をスッと床に落とした。一拍置いて上げられた眼差しには優しさだけでない、例えるなら湿度、の様なものを孕んでいる気がして。ゾクリと背筋が粟立っていく。
「それは僥倖。……風呂上がりというのは考えものだな。こんなにも無防備だと、つい手を出してしまいそうになる」
「え……」
「なので」そこで言葉を区切った理鶯は、ゆっくりと名前の顳顬に手を差し入れた。撫で付ける様に首筋を辿り、抜いた衣紋に指がするりと忍び込む。纏う雰囲気が濃さを増した気がした。
「余り油断しないでくれ」
注ぎ込まれるバリトンと指の動きにびくりと身体が跳ねる。空気だけで笑った理鶯は宥める様に髪にキスを落としてきた。
ヒュウ、と聞こえる口笛。ハッとして視線を向けると、にたりと笑みを浮かべた佑と獄が此方を見つめていた。
「せんせ、ここ熱いしさっさともどろっか」
「あぁ。……邪魔したな」
「何、まって、邪魔なんかじゃ……!」
ま、頑張れ。そう呟いた獄は先に駆け出した佑を追いかける様に去っていく。口をパクパクと開閉するだけの金魚と化した名前は、うなじに置かれていた温度が離れた事で一際大きく肩を揺らした。
「名前」
「……はい」
友人達はそれぞれ自室に帰り、ここにいるのは二人だけ。混乱する脳内でも、どういう状況に置かれているかだけは分かる。牛乳瓶を握りしめた名前は、いよいよか、と俯き決死の覚悟で応えた。
「少し外を歩かないか?」
「へ?」
つい間抜けな声が出てしまったのは致し方ないだろう。部屋に戻らないんですか、と喉まで出かかった言葉は何とか堪えられたものの、しっかりと表情には出てた様で。理鶯はふわりと笑った。
「ここは庭園があるらしくてな。先程少し見に行ったんだが、それは見事だった。……できれば貴女と歩きたい」
言いつつ差し出される手にも表情にも、先程までの色は感じられない。いつも通りの理鶯だ、と身体から力が抜けるのを感じた名前は、同じように笑って右手を重ねた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
カランコロンと二つの足音が鳴り響く。用意された下駄に足を通した二人は、庭園へと続く石畳をゆっくりと歩んでいた。
山と海の間に建てられた旅館。足元から聞こえる鈴虫の奏でる音色。時折吹き抜ける夜風に混じり潮の香りがするのがどこか不思議で、ここだけが現世から隔離された別世界の様にも感じられる。
「あそこの角だな」
「ふふ、楽しみです」
そのまま足を進めれば庭園の入り口に差し掛かる。理鶯は重ねた手を握り直し、少し背をかがめて門を潜り抜けた。途端、隣から湧き上がる小さな歓声に口元を緩ませる。
――良かった。過度な緊張は解けた様だな。
理鶯は名前に倣い視線を端から端へと巡らせ静かに息を吐いた。景観については見事、の一言に尽きるだろう。理鶯とて庭園について持ち合わせているのは一般教養のレベルで、造詣が深いわけではない。それでも整えられた砂紋からは緻密に計算された美を、丁寧に刈り込まれた木々からは温かみを感じられた。少し奥に配置されている年季の入ったししおどしが打ち鳴らす音に、隣の恋人は嬉しそうにクスリと笑みを溢す。
まろい頬を浮かび上がらせるのは灯籠の淡い燈。月明かりとは対照的な、滲む様なその光の暖かさに誘われ、気がつけば頬を寄せていた。意図に気付いた名前は慌てて視線を巡らせる。
「理鶯さん、誰か来たら、」「案ずるな。人の気配は無い」
覆い被さる様に唇を塞げば、僅かに瞼を震わせた名前は観念した様に瞳を閉じた。今日は二人きりになるタイミングも中々無かったため、久しい感覚に暫し酔いしれながら何度も唇を合わせる。
「ずっと、こうしたかった」
吐息の合間に漏れた本音に名前はゆっくりと瞳を開く。交わった視線。
「私も、です、」
恥じらいながら告げられた小さな鈴の音に意図せず喉が鳴った。
期待は、していないと言えば嘘になる。けれど、経験の無い彼女に無理強いをする気は更々無い。
「湯冷めするといけないな。部屋に戻ろう」
惜しむ様に唇を離した理鶯に、名前はコクリと一つ頷くのだった。
部屋までの道中、二人は言葉を交わすことなく静かに歩き続ける。シンと冷えた空気の中でも、唯一繋がれた手から伝わる温度が、柔らかに全身を巡っていた。
――触れたい。けれどそれ以上に大切にしたい。この愛しい存在を決して傷つけることなく、優しさで包み、愛し、慈しみたい。
片方は、握る手に僅かに力を込め。
――先に進んでみたい。怖くても、彼となら。大切な人に、これ以上我慢を重ねてほしくない。
片方は、応える様に静かに腕に寄り添い。
そうして部屋にたどり着く頃、熱源となった互いの手の平はしっとりと汗が滲んでいた。
カラリ、と小気味良い音を立てて下駄が縺れるように足元を転がる。部屋に入るなり抱き寄せられ、驚く間もなく唇を塞がれた。庭園の続きだと言わんばかりに熱く口づけを重ねてくる理鶯は、しかし舌先を潜り込ませることなく唐突に唇を解放する。冷えた空気が口元から熱を奪うのをただぼんやりと甘受していると、熱の籠った視線が外されるのが分かった。
すまない、と囁いた後、水を取ってこよう、と離れる理鶯に意識が引き戻された名前は強い既視感を覚える。これでは、先日と同じではないか。
「名前、今日は疲れただろう。先に床に就くと良い」
――なんで、そんな。
尚も穏やかな笑みを湛える恋人に、名前は堪らない気持ちになった。
事前に自己申告するくらい、辛いはずなのに。きっと今までだって自分の知らないところで、どれだけこの優しい恋人に我慢をさせてきてしまったのだろう。
理鶯の言葉に返答をしないまま、一つ深呼吸をする。ややあって覚悟を決めた名前は後ろからそっと抱きついた。自分から抱きつくのはこれが初めてだ。ヒクリ、と逞しい体躯が僅かに腕の中で震えるのが分かり、離れない様に思い切って全身を密着させる。
とうに湯上がりの火照りは消えたと言うのに、体温の上昇が止まらない。けたたましく鳴り響く鼓動がそのまま伝わってしまいそうで、でも離したくはなくて。
「……名前」
困ったような声音が頭上から降ってくる。けれど緊張しカラカラに乾いた喉ではロクに声も出せはしない。ただ、回した腕に精一杯の力を込める。
――このまま貴方を置いて寝るなんて、嫌なんです。
ぎゅっと瞳を閉じたままでいると、優しく、けれど有無を言わさない力でゆっくりと腕を剥がされた。……やはり、自分じゃ駄目なのだろうか。羞恥心と自己嫌悪がない混ぜになり涙腺を刺激する。堪えなきゃ、と口元に力を入れた瞬間、両肩が優しく包まれる。瞳を開ければ澄んだアクアマリンが視界に飛び込んできた。
「何て顔を、しているんだ」
くしゃりと表情を歪めた理鶯は、何かを堪える様に深く息を吐いた。こつりと、いつかの様に合わさる額。
「貴女を、大切にしたい。……だが、同じくらい、触れたいと思ってしまう」
コクリ。噛み締める様に頷く。
「わた、し」声も唇も、情けないほどに震えてしまう。でも。今どうしても伝えたい。「触れて、ください。この先を知るなら、理鶯さんがいい」
絞り出した言葉は、どう伝わっただろう。ヒュッと息を呑む気配がした気がするが、直後嵐の様に降り注いだキスによって意識は塗りつぶされていく。
「無理だと思ったら、頼むから、抵抗してくれ」
深く口付けたわけでもないのに肩で息をする恋人に、気圧されながらも名前は頷いた。
(理鶯さんの目の色、濃くなってる)
常は穏やかな光を湛えるアクアマリンは今、同じものとは思えないほどにその深さを増している。疑問を口にする間も無く唇は塞がれた。溺れるような口付けに酸素を求めれば、ぬるりと熱い舌先が入り込む。
「ん、っ……ぅ、っ」
歯列を丁寧になぞられ、柔らかな粘膜同士が擦り合わされる。上顎を這う舌先に一際大きく抜ける様な声が漏れ出てしまう。同時に、かくりと折れた膝。しかしいつの間にかしっかりと腰に回されていた腕のおかげで床と対面することはなく。
そのままゆっくりと抱え上げられ、ガラス細工になってしまったのかと思う程、至極丁寧に布団の上に寝かされた。
合わさるのは、揺らめく眼差し。視線の奥から微かに感じ取れる激情が、何よりも雄弁に理鶯の気持ちを物語っていた。愛しい人に欲される歓びが、歓喜の渦となって肌の上を駆けていく。
「……優しくすると誓う」
少し掠れた低音は、真剣そのもので。はい、と返事を形作った口元は、再び降り注いだ口付けにゆっくりと輪郭を淡くしていく。
腹の奥が煮え滾っている。身を焦がす灼熱は後頭部までせり上がり、内に潜む激情が牙を剥くのを理性で何とか抑えてつけている状態だ。だがその理性すらも、残弾は残りわずかとなっていた。
溶け合うほどに絡ませた舌を離し柔らかな耳朶に、頬に、顎先に。様々な箇所に口付けを贈りながら、首筋を辿っていく。舌を這わせ悪戯に鎖骨の窪みを擽れば、悩ましい吐息が頭上から漏れ出る。その微かな響きに獣がぐるりと唸った。
既に着崩れつつある名前の浴衣を暴くため帯に手をかけていく。結び目を解きゆっくりと帯を抜くと同時に息を呑む気配。と、明確な意図を持って持ち上げられた細腕がはしりと胸元を押さえる。まだ早かったかと咄嗟に視線を上げれば、可愛らしい恋人はしまった、とでも言いたげな表情を浮かべていた。
「理鶯さん、あの、」
「すまない、嫌だったか」
「ちが、違うんです。そうじゃなくて……」
言いにくそうに視線を逸らした名前は、それでも此方と合わせるために眼差しを持ち上げる。固唾を飲んで続きを待っていると、意を決したように口が開かれた。
「私……手のサイズは平均だと思うんですけど、理鶯さんと比べたらだいぶ小さい、ですよね」
「?あぁ……可愛らしく、華奢な手だな。貴女の手はとても好ましい」
突然のワードに疑問符を浮かべ首を傾ぐ。手が繋ぎたいのか?と理鶯はそろりと胸元を押さえていない方の名前の手に指を重ねる。すると名前は重ねた指をきゅっと握りしめた。
「丁度、いいんです。私の胸、私の手のサイズで。だから、その……触っても、あんまり楽しくないかもしれません」
微かに震えた声にゴクリと喉が鳴る。何だそんなことを、と喉奥まで出かかった言葉を押し留め、泣きそうな眦に優しくキスを贈った。
「貴女は貴女だ。小官はどんな貴女でも愛おしく思う。……嫌でないのなら、触れたい」
おずおずと胸元を押さえていた手がよけられた。ありがとう、とその手にもキスを贈り、合わせ目から時間をかけて開いていく。
はらり、と浴衣がはだけ下着姿が露わになった。言えはしないが何度も想像した光景だ。いや、想像よりもずっと。眼前に晒け出されたその美しさに理鶯は感嘆のため息を漏らした。繊細なレースは滑らかな肢体をより際立たせている。名前はというと微かに震えながら首まで赤くしていて。ツ、と鎖骨から下に唇を寄せ滑らせる。薄らと線が入った谷間に鼻先を埋めると甘い香りが鼻腔を擽り、背筋が粟立った。
驚かせないよう肩から触れ徐々に降下させる。ストラップの付け根を通り過ぎ、辿り着いた双丘をレース越しに優しく包み込む。力加減を間違えないよう細心の注意を払いながら指を沈めると、呆気なく白い双丘は形を変えていった。
こんなに、柔らかいものだったか。何度飲み下しても際限無く唾が湧き出てくる。
「っ……、ぁ」
震える吐息に、僅かに嬌声が混じるのを理鶯は聞き逃さなかった。途端により張り詰める自身。もっと聞きたい。胸のあわいに埋めていた鼻先を離し、赤く染まりきった頬にキスを落とす。
「外しても、良いだろうか」
惑う視線はゆるりと合わさり。「はい……」と消えてしまいそうな了承を受け取った。背を浮かせた名前の背後に手を回す。ぱちん、という感触の後、緩んだストラップを両腕から抜いていく。
バストを隠す様に回された細腕にキスを落とすと、ゆっくりと腕が外された。纏うものがなくなった双丘は浅く上下しており、その度にふるりと震える。その先、ほんのりと色づいた先端が誘っている様にしか見えなくて、思わず下唇を強く噛んだ。
「おっきくなくてごめんなさい……」
ここに来ても未だ泣きそうな顔でそんなことを言う恋人に、理鶯は堪らず呻き声を上げた。可愛すぎる。危うく優しくしようという決意を取り落とすところだった。
尚も不安そうに震える肩にキスを落とし、腰に手を回し強く引き寄せる。浴衣越しでも分かる程に張り詰めたソレは、柔らかな内腿を抉り脚の間に潜り込んだ。ヒクリ、と細い喉元が揺れる。
「……貴女とキスをしているだけで、小官はこうなってしまった」
「だから、サイズを気にすることはない」内腿にグリ、と怒張を押し付けながら囁くと、「あぅ、」と瞳を白黒させコクコクと壊れたおもちゃの様に名前は頷いた。
その様子に満足げに口端を吊り上げた理鶯は、今度こそ胸元に顔を寄せる。白くまろい双丘を両手で包み込めば、再び震えた吐息が空気を揺らした。
下着越しでも十分に柔らかかったというのに、直で触れる胸元は想像以上の破壊力を持っていた。このふわふわとした感触は何だろうか。ともすれば力加減すら分からなくなってしまいそうな柔らかさだ。
暫しそうして無心で楽しんでいると、小さな何かが手のひらを押し返してくる感触がした。手を離すとぷくりと膨らんだそこは刺激を待ち侘びる様に微かに震えている。焦らすつもりで淡く色づいた縁との境目をなぞるものの、そこもまた敏感になっているらしい。湿度を増した吐息が聞こえた。
「っア!んんっ、ゃ」
芯を持った尖りを弾くと途端に響く明確な嬌声。ハッとした様に口元を抑えようとするのを阻むべく数度弾くと、ビクビクと身体が艶かしく跳ねた。――美味そうだ。腹の奥で待ちきれないとばかりに獣が獰猛さを増す。
動きを止めた理鶯を不思議に思い視線を向けた刹那、パクリと胸を咥えられた。信じられないものを見たように目を見張った名前は、直ぐに先端を舐られる感覚に身を震わせた。
「やっ何、あっ、まって、まってりお、さんっ」
声が、届いてないのだろうか。浮かんだ疑問は一瞬で快楽の波に攫われ沈んでいく。ひっきりなしに漏れ出る声が自分のものじゃないみたいだ。
先端の尖りを摘まれ、弾かれ、分厚い舌が覆い被さったかと思えば舌全体で上下にゆすられる。その度に電流が走ったかのように体が跳ねることを抑えられない。辛うじて声量を抑えることはできているが、それが叶わなくなるのも時間の問題だろう。
触られていない筈の下腹部が、何故か破裂しそうな程に熱を持つ。経験したことのない感覚に名前は首を振って逃そうとするものの、ぐずるような仕草では理鶯を煽るだけで。
先端を苛まれる度、熱は確かな塊となって下腹部にしんしんと溜まり続けていく。
「も、りお、さん」
「うん」
「胸ばっかり、触っちゃ、」
「うん」
「…っ、ふ、聞いてます、か、あっ」
吐息を漏らす合間に必死に胸元を見下ろすと、アクアマリンとパチリと見合う。理鶯は真っ直ぐに視線を注いだまま、見せつけるように先端を舐め上げた。苛烈さを増す眼差しには最早隠すことも忘れた情欲が揺れている。
「……熱い」
低くそう漏らした理鶯はガバリと自身の浴衣の合わせ目を開いた。そのまま乱雑にも思える仕草で両腕を抜く。現れた一部の隙なく鍛え上げられた体躯には幾重にも汗が滴り、古い傷跡を濡らす。
色香をこれでもかと漂わせるその身体に、コクリと無意識に名前の喉が鳴った。
ひたり。先端を苛むのをやめた指先は静かに胸の中心から臍を辿る。
「っひゃ!?」
下腹部を通り過ぎ、今や最後の砦となったショーツ越しに恥丘をなぞられた。胸への愛撫によって膨隆したそこはどうしようも無く熱を持っていて。
「りお、さん」
「怖くないか」
「平気、です。ただそこ、熱くて……」
縋るように視線を送る先、アクアマリンには依然仄暗く炎が揺らめく。
「私、身体変になっちゃったんでしょうか」
こうなるのが正しいのかどうかもわからない。得体の知れない変化に戸惑いを隠せず両腕を胸の前に置く。と、目の前でゴクリと大きく喉が動くのが見えた。
「……大丈夫だ。人間の体はそういう風に出来ている」
「っ!ふ、ア!」
ショーツの端から指先が潜り込み、恥丘を直に撫で上げられた。途端身体に走る衝撃に足先が空を切る。胸の比ではない刺激の強さに、抑えきれない声量が空気を淫靡に震わせた。
「濡れている、な」
ぺろりと口端を舐め上げる仕草は捕食者そのもので、名前は息を詰まらせる。その間も止まらない指の動きに合わせ、くち、くち、と微かな水音が鼓膜に届き頭を抱えたくなる思いだった。
「分かるか?名前。貴女の身体が小官を受け入れようと準備をしてくれているんだ」
だから、恥ずかしがることはない。言いつつ動かし続けられる指先に抗おうとするものの、予想できない快感にビクビクと身体を跳ねさせることで精一杯だ。その内に一際強い刺激を感じた。
気の所為かと思ったものの、指先は確実にその箇所に狙いを定めたらしく、敏感なそこを掠められる頻度が徐々に上がっていく。経験したことのない快楽に名前は震えながら声を漏らすことしかできない。
「あっ、や、っ」
「……此処が一番、敏感な箇所だ。触れたことは?」
「?、っない、です……っ!」
何、どうして、こんな。何も考えることが出来なくなって行く中、唐突に刺激から解放される。
ハテナを浮かべるもののショーツに手をかけられた事で、これ以上ない程頬に熱が集まった。
するり。ゆっくりと脱がされていく途中、何故かピタリと理鶯の動きが止まる。
「理鶯さん……?」
遅れてヒヤリとした感覚が内腿を襲った。じっとりと濡れたショーツから糸が引いてることは明白で、理鶯は食い入る様にソコを見つめている。
思わず隠そうと手を伸ばすが、呆気なく手首を押さえられたことにより阻まれた。
「名前」掠れた低音が、苦しげに漏らされた。
「すまない……これ以上、堪えられそうに、ない」
「え……?っ!?」
言葉の意味を汲み取れずにいると、理鶯は半端に纏っていた浴衣をあっという間に脱ぎ捨てる。そのまま下着に指をかけたかと思えば、音が出そうな程勢いよくペニスが姿を現した。
怒張したソレはドクドクと脈打ち、腹につくほど反り返っている。――というか、待って、大き過ぎませんか……!?
余りの衝撃に固まっていると、大きく息を吐いた理鶯に肩を抑えられた。ハッと意識が戻った目の前には、懇願するかのように顰められた眉。
「貴女は何もしなくていいから、一度、抜かせてくれ。……このままだと貴女を襲ってしまう」
低く付け足された言葉に一も二もなく頷いた。
熱く尖った視線が自身に注がれている。ぬちゃぬちゃと粘着質な音がリズミカルに響く室内は、ともすれば色まで見えてしまいそうなほどに重く淫靡な空気に満たされている。ハッ、ハッと肩で荒く呼吸をする恋人の眼差しは高温の炎そのもので、焼き尽くされそうな心地だ。
何もしなくて良いって、理鶯さんは言ってたけれど。
(逆に恥ずかしすぎる……!)
快感を与えられている内は無我夢中だったが、刺激から解放されれば否が応にも頭は冷静さを取り戻してしまう。一糸纏わぬ姿を見られている、という感覚が余計に恥ずかしさを増長させていた。
「あ、の、理鶯さん」
「……うん?、」
「私に、何か出来ることは、ありますか」
微かな申し出は届いたのだろう、分かりやすく動きを止めた理鶯は猛禽類よろしく瞳を眇めた。
「うん……手を、貸してもらえるだろうか」
「……?はい……、っ!」
手首を掴まれ導かれた先、燃えるような熱さを宿した芯に身が竦む。かたい、と口をついた言葉にすら息を漏らす理鶯は、名前の掌ごと纏めて怒張を握り込んだ。吐息と脈動が直に伝わる姿勢にくらりと眩暈を感じた名前は、壮絶な色気を放つ理鶯に戸惑いつつも視線を向ける。が、理鶯は口端を上げたままゆっくりと手の動きを再開させた。
「ッ、」
「は、小さい、な」
ぬち、とまた耳を塞ぎたくなる粘りを伴った水音が下から聞こえて。手の動きは徐々に早まり、比例して理鶯の呼気も荒さを増していく。
「痛く、ないですか」
「、ッ大丈夫、だ、」
初めて見る切羽詰まった、余裕のない恋人の姿に、場違いながらも胸は高鳴る。早鐘よろしく全身を巡る鼓動は最早自分のものなのか、それとも理鶯のものなのか。判別もつかないほどに頭は熱に浮かされていた。
「すまない、もう、……ッ」
喉奥で殺しきれなかったのだろう、吐息混じりの低い呻きが鼓膜を震わせた。同時に、ゾクリとした感覚が背筋を這い上がる。
瞬間、一際大きく跳ねた怒張が吐精した。大量に吐き出されたそれは掌に収まりきらず、平たい腹の上にどろりと零れ落ちる。
目の前の喉仏がやけに大きく動くのを、緩慢とした視線の端でぼんやりと捉えていた。
しっとりとした、それでいてシルクの手触りに等しい腹に途切れ途切れに散らばる熱は、どうしようもなく劣情を煽った。男を知らない筈の器官が、その下にある。
熱に浮かされたまま視線を惑わせていた彼女にキスを送れば、ピクリと肩が震えた。
「りお、さん」
か細い声を聞き逃さぬよう顔を寄せる。ついでに穢してしまった手と腹をしっかりと拭うのも忘れずに。
「きもち、かった、ですか……?っあ、」
返事の代わりにゴリ、と押し付けたのが伝わったのだろう。瞳をこれでもかと丸くした恋人は、うそ、とか、何で、と小さく声を漏らしている。
今しがた熱を吐き出したはずのソコは依然硬度を保ったまま、萎える気配どころかより膨張率を増していた。
そのまま下にスライドし、泥濘に添わす。微かな嬌声と、想像よりも濡れている感覚に無意識に口角が上がってしまう。
「安心してくれ。直ぐには入れない」瞼にキスを落とし、傷一つない可愛らしい耳朶に唇を寄せる。「コレが入るんだ。充分に解さなければ、な」
すぐにでも突き入れたい衝動を抑え、性器を離す。代わりに指を添えると先程の快感を思い出したのか、華奢な肩が震えた。泥濘からとろみを掬い、ゆっくりと秘芯に纏わせれば、その間もビクビクと身体を震わせる彼女にまた劣情が溜まっていく。
「ここは、男性とは違い気持ち良くなるためだけに存在する器官だ」
「あっ、や、私は良いですからっ」
「それは容認出来ない。……存分にヨくなってくれ」
先程の礼をしなければな。トドメとばかりに低く差し込んだ台詞は存外ヒットしたらしい。潤んだ瞳に滲む戸惑いと孕み始めた微かな期待。耳朶を舐め上げればひぅ、と愛らしい悲鳴が小さく聞こえた。
一定のリズムで円を描き、優しく弾く。怖がらせない様キスを落としつつ続けていると、徐々に声色が切羽詰まった響きに変化するのが分かった。
「や、りおうさっ、やだやだ、何かっ」
「ウン。名前、大丈夫だ、」
「あっ、来ちゃいま、す、、〜〜ッ!?」
溢れそうなほどに瞳は見開かれ、同時、ビクン、と腰が大きく跳ね上がる。波が落ち着くのを待つ間、理鶯は瞬き一つせず苛烈なまでの色香を放つ恋人を見つめていた。吐息の乱れを噛み殺すことも忘れる程に。
「上手にイケたな。流石だ」
「……?りお、さん」
未だぽやぽやと夢現の表情を浮かべる恋人の頭を撫でると、猫のように頭を擦り寄せてきた。愛おしい。撫でつつそっと視線と指先を下に向ける。
「っ、あ、」
息を吐いた弛緩しきっているタイミングを見計いナカに指を差し入れた。まずは一本入ったこと、痛みに耐える反応ではないことに胸を撫で下ろしつつ、ナカの狭さに対し湧き上がる衝動に内心で舌打ちをかます。どんなに己がキツかろうと、無理強いをすることは到底許されない。
絶頂の余韻でヒクつくナカをあやすように内壁を撫で上げる。数度繰り返せば、簡単に弱い箇所を見つけることができた。甘い声と共にとろりと蜜が溢れる。
(舐めるのは、まだ刺激が強いかもしれないな)
味わい尽くすのは今でなくていい。行為に恐怖心や抵抗感を植え付けるのだけは避けたい。
そう言い聞かせながら頭を跨げかけた欲望を、唾液と共に喉奥に押し込める。
せめてこの後の苦痛が無くなるよう、最大限の優しさを持ち寄ってゆっくりと慣らす方向に頭を切り替えた。
それからどれほど経っただろう。
薄膜を張った様な甘く優しい悦楽に身を任せていた名前を唐突に現実に引き戻したのは、縋るように手を添えた先に感じた腕の硬さだった。無駄がないしなやかな筋肉で構成されたそれは、脂肪がなくとも通常は弾力のある柔らかさの筈だ。けれど今はどうだ、鋼と匹敵する程に硬い。
腕の先、血管が浮き出るほどに硬く握られた拳に視線を辿り、ようやくその事実に気がついた。
我慢、してるんだ。私を傷つけないために、気が遠くなるほどの時間と丁寧さを、重ねて、重ねて。
「名前、どうした?苦しいか?」
「もう、大丈夫、ですから……ッ、」
「しかし……」
あぁこの人は、こんなところに来てまでも。私を大切にすることしか考えていないのだ。
そう思った瞬間、堪えきれないほどの慕情が溢れ出た。愛しい。この理知に溢れる、しかし獰猛で優しい健気な恋人を、受け入れたい。
両手を広げ、理鶯に伸ばすことは名前にとって自然の流れだった。
「おいで。……理鶯さん、愛してます」
息を詰まらせたマリンブルーが、一瞬泣きそうに歪んだ。ふるりと頭を振った恋人は、小官もだ、と鼻先を齧った。
自身を甘く苛んでいた指先が、ベッドサイドテーブルを彷徨う。目的のモノを掴んだ彼は口端でパウチを食い破いた。流石に被せるまでの間は、視線を逸らしてしまったが。
優しく脚を破り開かれ、充てがわれた熱にいよいよだ、と喉を鳴る。
「辛かったら言ってくれ。直ぐに止めよう」
「……嫌って言っても、止めちゃいやです」
「余り煽るなと、言ったはずだ」
む、と眉間に皺が寄るのを、こんな時だというのに可笑しくて笑ってしまう。ふふ、と鼻から笑みが漏れた頃合いで、ゆっくりとソレは進行を始めた。
「っ……ゔ」
熱した鉄の塊が、押し込められる感覚。身体中の細胞が違和感に警鐘を鳴らし立てる。散々慣らされたとはいえ、襲いかかる苦しさには敵わない。なす術無く息を漏らした。
「名前、こっちを見てくれ。……そうだ。ゆっくりと呼吸をしよう。小官に、合わせるといい」
はー、はーと荒い息を吐いていた身体を無理やり目の前の理鶯の呼吸に合わせる。幾分か息が落ち着いた頃合いで、視線で大丈夫だと告げれば、再度遠慮がちに進行が始まった。
焦ったくなる程の速度で、十二分に時間を掛けて。じわじわを内側を割開かれる感覚に耐えていると、やがて理鶯の動きは完全に止まった。
「ぜん、ぶ、入りましたか」
「っ、いや。半分と少し、だな。しかし今は、これ以上は入らなそうだ」
こんなに苦しいのに、まだ後半分も。受け入れたいのに、受け入れられない身体のままならなさに視界が歪んだ。
「……そんな顔をしないでくれ。今日は出来たとて、貴女の中に入る事は叶わないだろうと思ってたんだ。すまない、辛いだろう。少しこのままでいよう」
せめて苦痛が紛れるようにと、口付けを何度も落とされた。優しく髪を撫でられ、呼吸が徐々に落ち着いてくる。不思議と想像していたより痛みは無かった。
眼前のこめかみを伝う雫が落ち、一つ、二つと頬を弾く。
「辛い、のは、理鶯さんだって、おんなじでしょう」
仕草は優しくとも、瞳孔は開き切っている。呼気は獣そのものだ。それでも、もう怖いとは感じない。
「りお、さん。もう我慢しなくて、いいんです」
「っ……!!」
「だから、動いて、っぁ」
堪え切れず、といった体でゆっくりと揺らされた。入ってくるたびに内部を作り変えられてしまいそうな感覚に襲われるのが怖くて、必死に理鶯に手を伸ばす。温かな理鶯の手が直ぐに重なり、そのままシーツに縫いとめられた。二人の距離がゼロになる。
「ぁ、あ、んぅ、……ッあ」
「だめだ。……聞きたい、聞かせてくれ」
あられもない声が零れ落ちるのに耐えられなくて唇を噛みしめると、口付けと共に低く咎められた。おずおずと口を開くとやっぱり声が出てしまって、同時にお腹の奥がじんわりと熱を持つのを感じ取った。だめだ、止めようとしたってもう止められない。
息苦しさの中に一抹の快楽を摘み取った身体は、簡単にその波を引き寄せてしまう。
「や、なんか、……あっ、ぁ、あ」
「良くなってきたんだな。ッ、ナカがさっきとは、大違いだ……」
「まって、まって、んんっ、やぁ」
最初は遠慮がちに、確かめるように始まった抽送も、今や面影もないほどに速度を増していた。けれど動き自体は激しくはない。なんとか快感を逃すように息を溢していた名前だったが、突如電流が体に走る。
「っあ!?やめ、やだ、それは……!」
さっきの場所だ。抵抗しようにもほぼ押さえつけられている状態で出来ることなど無いに等しい。ぬるりと指先が秘芯を掠める度に許容を超えた快感が重ねられていく。
「まだ、ナカではイけないだろう。ッ、遠慮せずイクといい」
ビク、ビクンと不規則に身体が跳ね、理鶯からも吐息が漏れる。悦楽が頂点に達した時、視界が明滅する中彼が奥歯を食い縛るのが分かった。
「っぁあ、まって、りおさ、私まだっ」
「すまない、だめだ、止まらない」
まだ頂点から戻りきってないのに。達するのとほぼ同時により強く打ち込まれてわけがわからなくなりそうだった。ばちゅんと鳴り響く水音がその激しさを伝えてくる。だめ、苦しい、気持ちいい。不意に、アクアマリンと視線が合った。焼き尽くされそうなほどの熱さを孕んだ眼差しが、真っ直ぐにこちらに注がれていて。
「名前」「愛して、いる」
それが、最後の引き金となった。
「やっ、ぁ、あぁ――!、」
「ッ……!」
ドクリと埋められたモノが脈打ち、中が締まるのが自分でも分かった。腰が跳ねるのが止められない。低く呻いた理鶯は覆い被さるように腕をつき、深く呼吸をし息を整えているようだった。
ずるり、とナカから長大な質量が引き抜かれて、それにも声が上がってしまう。
「名前、大丈夫だろうか」
問いかけにふと視線を上げると恋人はシャワーを浴びたかのように汗をかいていた。まるで真夏だ。ふふ、と笑みが溶けていく。
「りお、さん」
「、良かった。水は?あぁすまない、汚してしまったな」
ほっと息をついた理鶯は矢継ぎ早に世話を焼き始めた。差し出されるペットボトルにもふわふわのタオルの感触にも首を振る。不思議そうに傾げられる首に、精一杯の力で腕を伸ばしたつもりだった。実際はほんの少し腕が浮いただけだが。
「りおさんが、いいです」
「!、貴女は……」
途端に苦しいほどに抱き竦められた。喜びが全身から伝わってくるので、少しばかりの息苦しさは我慢しよう。理鶯の方を見れば、眉間に力を込め喜びとも何とも言い難い表情を浮かべている。
「理鶯、さん?」
「……言葉にならない」
「ご期待に、添えなかったでしょうか」
「その逆だ。……天国を見せられてしまった」
微笑みと共に告げられた言葉に、思い浮かんだ些細な不安はチリも残らず粉砕される。安心したら途端に眠たくなってきた。存外体力は限界だったらしい。
「ふふ、ゆっくり休むといい」
「りおうさん」
「何だ?」
「後で、温泉、入りましょうね……」
「……あぁ。おやすみ」
温かく大きな手に撫でられ、すぐ側まで来ていた睡魔に抗うことなく身を委ねる。おやすみなさいは、届いただろうか。
微笑みを浮かべたまま夢の世界に旅立った恋人。理鶯もまた後を追うように瞳を閉じた。
――困った、これ以上はないと思っていたんだが。
瞳を閉じてもなお湧き上がる感情に、身震いするほどの情動を覚える。さぁこの愛をどうやって伝えていこうか。何、焦ることもないだろう。
次に目が覚めた時、きっと世界は違って見えるはずだから。