09. One cannot put back the clock.


(甘さを知った鶯は)


 ――一度知ってしまえば、もう。
 脳裏を過ぎるのは甘美な記憶。声、感触、香り、湿度に至るまで鮮明に刻み込まれた夜。
 どろどろと煮詰まった劣情が背筋を駆け上がり後頭部に溜まっていく。ブレインフォグと言えば聞こえは良いだろうが、実際は恋人の痴態を擦り切れる程反芻しているだけに過ぎなかった。
 呼応する様に肥大していくソレを取り出し、慣れた手付きであやしていく。
「、……ッふ、名前……」
 愛しい人の名を呟くと、泣くように先端からカウパーが溢れた。滑りを借りつつ手を動かすと水音が徐々に増していき、まるで抱いているような錯覚を覚える。彼女の中は、ついぞ我慢が効かないほどに狭く、暖かかった。
「グ、ぅ……ッ、」
 フラッシュバックする恋人の高まりに合わせて抜いていけば、限界は直ぐそこだ。ラストスパートよろしく数度強く手を動かし、劣情を吐き出す。幾分か、熱は下がったように感じられた。
 身支度を整え、纏わりつくような熱気を解放すべくテントの入り口を開放する。陽の向きと鳥の声が早朝であることを示していた。
 こうして一人で慰める回数は、彼女との夜を知ったことで以前より増してしまったように思う。というか、明白だ。――次は、いつ抱けるだろうか。
 内側から急かしてくる獣を宥めつつ、理鶯は日課のトレーニングへと頭を切り替えた。
 ……その機会は、願ってもない角度から訪れることとなる。
 
 
「あ、そうだ理鶯さん、今度の水曜お泊まりに来ませんか?」
「……、あぁ。是非」
 反応が遅れたのを気にした風もなく名前はにこやかに微笑んでいる。嬉しい、と僅かに赤みが差した頬。その愛らしさに疑問を流してしまい掛けたが、すぐに聞きたい内容は返って来た。
「海洋プロジェクターって言うんでしょうか、家庭用プラネタリウムの海版、みたいなのが届きまして。勿論本物には敵わないですけど、結構本格的なんです!」
 珍しく興奮し言葉を重ねる名前は、あ、とふと我に帰ったようで恥ずかしそうに微笑んだ。可愛らしい。
「まぁ説明は置いといて、とても綺麗だったので。理鶯さんと一緒に見たいなって思ったんです」
「そうか。それは楽しみだな」
「ふふ、早く見せたいです」
 にこにこと嬉しそうに笑う彼女に他意は無さそうで、少しだけ悪戯心が湧いた。「プロジェクターも勿論だが、貴女と一夜を過ごせることが」
 ポカン、とした表情を浮かべた直後、息を呑み込み一気に赤くなる彼女。二の句を告げられる前に柔らかな唇を塞ぐ。
「極上の夜にすることを約束しよう」ビクリ、と肩の震えを感じ取った理鶯は名前の耳元でほくそ笑んだ。
 
 
 果たして当日。
 仕事終わりに迎えに行ったものの、彼女は始終どこかぎこちなかった。珍しく店に忘れ物をし、自宅に着いたかと思えば鍵を取り落とし、食事中も上の空で。今は用意してくれたハーブティーの入ったカップを倒してしまったところだ。
 申し訳なさそうに掃除をするのを手伝おうと手を伸ばす。不意に手が触れ合った瞬間、あ、と小さく声を上げた恋人はとうとう頬を赤らめて固まってしまう。
 余りにも意識されすぎていることに、思わず笑いが込み上げてしまった。
「そう期待されると、こちらも我慢が効かないんだが」
「!?、っそ、そういうわけでは……!」
「冗談だ。取って食べたりはしないから安心してくれ」そうしたいのは山々だが。内心で付け加えた後、目を白黒させる彼女を宥めるようにキスを落とす。
「プロジェクターを見るのだろう、その準備をしていてくれないか?小官は先にシャワーを借りるとしよう」
 こくこくと頷く頭を撫でる。気持ちよさそうに瞳を細めた彼女は漸く少し落ち着いたようで、はい、と恥ずかしそうに頷いた。
「……後でたっぷり愛させてくれ」離れ際リップ音と共に低く囁けば、理鶯さん!とひっくり返った音が返ってくる。クク、と喉で笑いながら理鶯はバスルームへと向かった。
 
 入れ違いで風呂に入った彼女からは未だほかほかと湯気が漂っていて、肌はしっとりと潤いを増している。先程の会話はすっかり忘れたのか、ソファーに座りうきうきとプロジェクターを弄る横顔が可愛らしくて髪にキスを落とした。
「ふふ、もうセットアップ出来ますから」
 幾つかの電子音が響いた後、球体のプロジェクターから天に向けて光の橋が架けられた。やった!と声を上げた名前は室内灯をリモコンで操作する。徐々に落ちていく光量と反比例して天井に光の粒が灯されていき、完全に消灯する頃には見事なまでの海面反射が映し出されていた。
 プロジェクターにはBGM機能も搭載されているようで、波のサウンドが臨場感を醸し出している。揺らぐ天井に海中から見上げた空を思い出した。掃海艇の部隊と共に洋上での訓練を実施した時のことだ、一瞬自分が魚になってしまったかのような錯覚を覚えたのだ。
「お魚になったみたいでしょう」
 ――口に出ていたか。そっと隣を見ると、名前はくすくすと楽しそうに天を見上げている。返事がないのを気にした風もなく、ただ真っ直ぐに海面を見つめて。……また、同じことを考えていたのだな。
「名前」
「?なぁに、理鶯さん」
 天に向けられていた眼差しが、優しくこちらを向く。星屑が宿る瞳には今、海面の碧がベールのように掛かっていた。
「理鶯さ……、ん」
 湧き上がる愛しさが表面張力を越えるのと同時、唇を奪う。柔く啄み、湿らせ、何度も角度を変えて。舌を差し入れる瞬間、僅かに肩が跳ねるが手を取り指先を絡ませると徐々に弛緩して行った。ゆっくりと許していってくれるのが伝わり、堪らない気持ちになる。
 唇を合わせたまま絡ませていた指先を解き、耳の縁をなぞる。耳朶の裏を辿り、側頭部から爪先を忍び込ませると、驚きだけではない甘さが混ざった声が上がる。上顎に舌を這わせるのに合わせて頸を擦れば、ピク、ピクと小さな身体が震え出していた。
「はぁ、んちゅ、りお、さん」
「うん」
 ソファの上で向かい合うよう彼女を抱き上げ、薄いルームウェア越しに昂りを押し付ける。良いだろうか、と耳元で伺いを立てるとややあって恥ずかしそうに彼女はコクリと頷いた。
 
 薄い生地のシンプルなそれはナイトブラというのだろう。それごとルームウェアを捲り上げ、膝立ちにさせる。眼前に迫る白く柔らかな双丘の先、淡く色づき芯を持ち始めたそこを好きなように指先で弄んだ。彼女を観察していると顔が近いことが恥ずかしいのか、必死に目を瞑り横に顔を向けている。背けることは許さない、と喉元に舌を這わせると小さな悲鳴が鼓膜を掠めた。
 堪えきれず膝がカクつく度にふるふると揺れる乳房に煽られ、先端からかぶりつく。舌で執拗に舐り音を立てて吸い上げると、上から泣きそうな嬌声が降ってきた。
「あっあ、理鶯さん、んんっ」
「うん、我慢せずに感じてくれ。あぁ、可愛いな……」
 ともすれば腰が抜けてしまいそうな有り様だ。ショート丈のルームウェアは履き口が緩く、裾から両手を差し込み臀部を鷲掴んだ。そのまま揉み込み感触を楽しむ。胸への愛撫も忘れずに。
 腰が抜けても支えられはするものの、逆に刺激から逃げられなくなってしまった名前はいやいやとゆるく頭を振っていた。可愛らしい抵抗も厭わず尻たぶから徐々に手を下降させて行く。ショーツ越しに際どい箇所を揉み込むと、くち、と粘着質な音が聞こえた。咄嗟に視線を上げると、恥じらいながら目を逸らされてしまう。
「このままだと汚れてしまうな」言外に、どうする? と意図を込めて囁く。「や、ふぅ、……っ、脱がせて、下さい」
 意地悪く口端が上がってしまっている自覚はある。ただ、己の手で貞淑な恋人を乱れさせることはこの上なく征服欲を満たした。
「あ……」
 華奢な腰に手を添え、ショーツの端に指先を引っ掛ける。するりとショートパンツごと落ちたそれは中心部がテラテラと光っていて、受け入れる準備が整っていることを容易に想像できた。無意識に喉が鳴る。
「りお、さ、ここじゃ嫌です」
 微かな声に再び視線を上げる。潤む瞳には戸惑いと情欲が揺らめき、頬が風呂上がりだけではない理由で上気しきっていた。困ったように下がる眉尻がどうにも愛らしく、了承の意を込めてキスを落とす。とはいえこちらにも余裕などない。名前を片手で抱え上げ、理鶯は寝室に向かいズンズンと歩みを進める。
 寝室に足を踏み入れると、彼女の香りが強くなった。窓際に置かれているベッドに優しく下ろした後、その甘やかな香りに急かされるように中途半端にたくし上げていた恋人のルームウェアを取り去り、自身の衣服も雑に取っ払う。
 仰向けに寝かせた彼女に覆い被さりその柔らかな頬に手をあてる。その瞳に恐怖の色は見られない。はじまりのように再び優しく口付けた。
 指先はそろりと肋を辿り、何度も何度も平たい腹部をなぞった。くすぐったそうに吐息を漏らしていた名前だが、足の付け根まで指が到達すると途端にくぐもった艶やかな声に変わる。
「痛かったり、辛かったりしたら言ってくれ」
 泥濘に指を這わせ、沈めていく。呼吸に合わせてまずは一本。相変わらずの狭さと熱さに生唾がじわじわと咥内を満たす。
「ふ、ぁ……ぁっ、あ、ん」
 腹の裏側、ざらりとした部分をゆっくりと擦り上げればそれだけで滑りが増していく。中をゆっくり解せば、二本目が入る頃には入り口はしとどに濡れそぼっていた。
「名前、キツくないか……もう一本いけそうだな」
「んゃ、ぁ、……っア!」
 良いところを掠めながら指を追加すると、名前は可愛らしく声を上げた。膨らんできたGスポットを優しく捏ねると徐々にナカが収縮し始める。限界が近いのだろう。
 ふるふると子うさぎのように震える身体が愛しくて、満遍なくキスを落として行く。ふと見上げればとろん、と蕩けた表情で快楽に喘いでいる表情が目に入る。湿度の増した吐息、時折小さく跳ねる腰、所々が桃色に染まった滑らかな肢体。彼女を形作る全てにどうしようもなく煽られていく。
「ぁ、んん、きちゃう、あぁ」
「良い子だ、イってくれ」
「ふ、ぁ、あっァ、――っ!」
 きゅうきゅうとナカが強く収縮する。達する瞬間強張った身体は荒い吐息と共に弛緩していくが、依然指は締めつけられたままだ。ゆっくりと引き抜くととろとろと愛液が溢れ、理鶯は熱に浮かされた脳内で酷くそれを勿体無いと感じた。
 顔を寄せたのは、無意識だった。
 
 
「っ、ひゃう!?」
 達したばかりで敏感なそこに、ぬるり、と熱い何かが這わされた。全体を丹念に拭われる感覚に訳もわからず身を震わせる。息が整わぬまま視線を落とすと、信じられない光景が広がっていた。
「やっあ、りお、さん……!なんで……!あっ」
 いつの間にか下腹部に移動していた理鶯が、ギラついた眼差しを隠そうともせずこちらを見上げている。見せつけるように舌を出した彼はそのままソコに顔を埋めてしまった。予測できない舌の動きに翻弄されるがまま、嬌声が上がるのを抑えられない。
 到底口に出せない様な所を舐められて、いる。兎に角恥ずかしくて、怖くて、でも気持ち良くて。
 臨界点をとうに超えた感情は形を変え、一つ、また一つと頬を滑り落ちていく。
「も……や、やだ、ぁっ」
 怖い。気持ち良い。逃げたい。恥ずかしい。
 ひく、と喉が鳴ったのを皮切りに細切れに嗚咽が漏れ出した。
 一瞬理鶯の動きが止まるものの、それでも甘い責め苦は収まらない。というか、心なしかよりじっくりと舐め上げられている。その内にあの敏感な箇所に舌先が狙いを定めたことを感じ取ってしまい、名前は涙を流しながらふるふると身を捩った。
「あっ、やだ、何で、……っだめ、だめ、理鶯さんっ」
「うん」
「やだっ、またいっちゃ、イっちゃいます……っ、ァ、りお、さん……っ!」
 ビクン、とあられも無く腰が浮き上がる。一瞬呼吸が止まり、意思に反してビクビクと身体が跳ねる。そうして漸く舌を離した理鶯は舌舐めずりをしながら臍の下に指を置いた。
「覚えるんだ。今はここ≠ワで入る」臍から拳一つ分ほど下を指した指先は、浅い縦長の窪みまでゆっくりと指を上げて行く。「いずれ、ここ≠ワで到達する」ひたりとその場所に視線を落とされた。お臍の、裏側。きっとそこには女性にしかない器官があるはずで。覚え込ませるように上から揉まれ、ゾクリと背筋を快感に似た何かが駆け上がっていった。
 
 
 ――嬌声混じりの制止は煽りにしかならないのだと、彼女は知るべきだろう。
 胎内に劣情を捻じ込んだ理鶯は長く息を吐いた。一度入った時と変わらずそこは狭く、温かい。違うのは、挿入前に数度達したことで以前よりも身体が侵入を許してくれていることだった。その証拠に抜こうとすれば柔らかく引き止め、奥を突けば搾り上げる様に締まる。
「柔らかい、な」
「ふ、や、ぁ、!そこっ……!ぁ、だめ……!」
 蕩けきった顔で甘い声を上げる恋人は、強すぎる快感から逃げるように頭を弱く振る。どろりと煮詰まった情欲が重たく腰に溜まっていた。
「良い子だ。ナカだけでイけそうだな」
「んん、ん!ふっぅ、りお、さ」
 身を捩り弱々しく腕に縋りつかれ、無意識に喉が鳴る。その仕草が男を煽ると分からないのか。無防備に晒された耳朶をねっとりと舐め上げた。
「こんなに乱れて……可愛らしいな、良い子だ」
 低い囁きにゆるゆると眼差しがこちらを向く。星屑は今、溺れそうなほど潤い満ちていて。
「ん、ん、きもち、い、」
 ――今のはなんだ。突如告げられた内容に動揺し力加減を間違え強く突き上げてしまう。しまったと思った時には遅かったが、上がったのは苦痛に耐える声ではなく明らかな嬌声だった。
「あぅ……きもちい、です、んん〜〜ッ!」
「ッ……クソ……!」
 りおうさん、どうしようと眉を下げたまま気持ちいいと喘ぐ姿はどう足掻いても火に油だ。中心部に一気に熱が集まる。膨張率を上げた陰茎に気づいた名前は泣きそうな眼差しをこちらに向けた。
「や、何で…!」
「貴女が悪い、ッ」
 ぐちゃぐちゃのソコを煽られるままに激しい抽送を繰り返せば、身も世もなく泣き乱れる姿に更に煽られた。ナカが収縮する感覚が短くなってきている。彼女の限界が間近なことを悟った理鶯は、一度腰を大きくグラインドさせた後小刻みに奥を揺らした。媚肉を捏ね回す動きに声も出ず感じ入る名前が可哀想で可愛くて、呼吸ごと奪う様に唇を塞ぐ。
「、んぅ、ん〜〜〜っ!!」
 今までで一番大きく身体を跳ねさせた彼女は腰を反らせながらビクビクと不規則に震えていて。同時に強く搾り取ろうと蠢くナカに逆らわず、理鶯もまた白濁を吐き出した。
 
 
 ――美味そうだ。
 熱を発散させたとはいえ、興奮しきった脳は依然ぐらぐらと沸騰しロクな思考など出来やしない。眼前にある上気し桃色に染まりきった肩にキスを落とし、齧り付く。ヒクリと反応する喉。そこから漏れ出るあえかな声では到底抑止力にはならなかった。
「気持ちよかったか?」
 分かりきった答えだ。視線を惑わせる彼女を睨め付けながら持ち上げた脹脛に柔く齧り付くと、あっ、という小さな悲鳴の後恥ずかしそうに頷くのが見えた。その姿にゴクリと喉を鳴らすものの、尚も喰らえと叫び続ける獣をどうにか鉄の理性で押さえつける。息も絶え絶えな姿を見て、誰が続きを強いられるだろうか。
 陰茎を引き抜く際名残惜しげに締め付けてくるナカに決意が揺らぎかけたが、己の欲に気づかないフリをした。軍人にとって忍耐は専売特許だ。
「りお、さん」
「うん、大丈夫か?無理をさせてしまったな」
「ううん……理鶯さんも、気持ちかった、ですか?」
 不安げに見上げてくる姿にガツンと後頭部を殴られたかの様な情動を覚えた。可愛すぎるだろう。これ以上は危険だ、理性を砕かれる前に早く寝かしつけてしまわねば。
「……あぁ、最高だった。後は任せて休むと良い」
 優しく一定のリズムで髪を撫ぜれば、瞼がゆるりと下がっていった。身体中から力が抜け、穏やかな寝息に変わっていく様にほっと油断をしたのがいけなかったのだろう。
「嬉しい……だいすき、りおうさん……」
 夢の中に旅立つ直前、舌ったらずにこぼされた愛の告白。当の本人はというと無事に眠りについたらしい、すよすよと気持ち良さげな寝息を立てていて。
 思わず顔を抑えた理鶯はややあってバスルームに向かうのだった。彼女の身体を清めるための事後処理と、……多分に持て余した熱の処理のために。
 暫くはまだ、一人の夜が続きそうだ。





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