紺と青色が混ざり合っているのに明るい、不思議な光を放つ瞳が、まるで好奇心しか詰め込んでいないかのように純粋にむけられて。
何の妖怪なの、と問われて。
僕は今まで友人や他人に妖怪の血が流れていることを話したことがない

頭がおかしいと思われるか、あるいは気味悪がるかのどちらかでしかないと安易に想像ができる。
だから赤司君が簡単に言ってしまうことに狼狽えたし、さらに有坂さんが大きな瞳を輝かせて僕を映すから呼吸をとめてしまった

僕の反応を予想していたのか赤司君は物知り顔で口角を上げる。
少々、いやだいぶ腹が立つ


「黒子くんも体の一部を妖怪にしたりできる?」


おもしろがっているわけではなく、純粋に興味があるようで赤司君越しに尋ねられる


「僕の場合は妖怪の時の姿が姿ですからね…あまり格好いいものではないと思います」
「ますますみずちの謎が深まる…!詳しくなったらまたいろいろ黒子くんのこと教えてね」


彼女は天然のヒトタラシか

瞳の色合いや不思議な輝きで普通の人間ではないことはわかるが、如何せん彼女にはニオイがない

僕たち妖怪には同種にしかわからない濃いニオイがある。
力が強ければ強いだけニオイも気配も濃くなるが、赤司君や強い人は両方消す技量も持ち合わせているから、有坂さんもそういう類なのか

三人連れ立って無人の廊下を玄関へと歩く。
いきなり有坂さんの隣に行くのは憚られるので、赤司君の隣に並ぶ


有坂さんに、今度は僕から何の妖怪が先祖なんです?と問えば視線が赤司君を跨いで僕にくる。
日は沈んだというのに反射して散らばる群青は、文句なしにきれいだ


口ごもる有坂さんにかわって今日の放課後にあったこと・彼女の能力を赤司君は喋り出す。
確かに異質だ、それもニオイはまったくないから僕らのだれも気づかなかった

ならば有坂さんの力は後天的なものなんですねと言うと表情を曇らせてしまった
欲しくないモノだったのかもしれない


さぞ、コワイ思いをしてきただろう。僕は幸いにもここにきて仲間を見つけた。
人に理解されない苦しみを分けあえる同志がいてくれたが、有坂さんのように力を後天的に得る人は多くはない

だれにも言えない・理解されないのに人でも動物でもないものがみえるだなんて、そんな苦しみ、ひとりじゃ堪え難いものなんだ



同情しているわけではない。
けど捻ないで妖怪を受け入れる優しさを持つ彼女とは出来るだけ関わりたい
僕の心を知らずに、日の入りを迎えてもまだわずかに明るい空を見て、


「夏が来るね」


と、彼女は美しい瞳を細めて笑う






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