ゴールデンウイークを目前に浮足立ってきた校内を横目に図書室へ向かう。
少しあたたかくなってきたからもうカーディガンは着ていない。
爽やかなアイスブルーのシャツと真っ白なブレザーは三年経ってもお気に入りだ

受験生になったということもあり、授業中の小テストや模試などが増えてきた

まだ志望校は決めてないが良い成績をとっておくに越したことはないため、予定のない日の昼休みは図書室で勉強している

ー今日は授業の復習しようかな

窓際の一番端の席。
四人掛けだがテスト前でもないから空いている
よし、できるだけやっちゃおう

カチリ。
シャーペンの芯を出して今日やったページの問題を解いてゆく



ふわりとまぶたの辺りを撫でられている感触がして、意識が浮上する。
あれ、寝ちゃってたのかな…
応用問題に引っかかって悩んでるときにちょっと眠たいなって思ったのは覚えてるんだけど
いつ寝たのかも覚えてないくらいに熟睡してしまっていたのだろうか。


「ん…………」


うつ伏せていた体を起こしながら寝ぼけ眼をこする。
何時か確認するために携帯を取ろうと机を探っていると、突然頬を撫でられる


「ッひゃ!?」
「しー」


眠る前までは確実にいなかった前の席になんと赤司くんがいた。
彼はクスクス笑ながら楽しそうに私の頬を撫でていて、今だに現状が把握出来ない


「頬に教科書の痕がついてる」
「あッ、赤司くん!?なんで!?」
「有坂さんが眠ってるの見えたから眺めてた」
「な、眺めてたって…やめてよぉ」


本気で何なの、羞恥プレイなの?
こんな端整な顔立ちの人にまぬけな寝顔を見られていたなんて…
いや、もういっそ赤司くんが飽きて立ち去るまで起きなきゃよかったのに


「あれから全然話せてなかったから。真太郎や涼太と会って僕には会わないなんてひどいじゃないか」
「そッ、それは不可抗力で…!」
「嘘だよ。でも会えてなかったから会いにきたのは本当」


美人って何をしても何を言ってもサマになるから困る。
心地いい甘い声は初めて会った時以来だから、三週間ぶりくらいか…
またあたたかいぬくもりに頬を包まれて気持ちよさに目を閉じた

ああ、安心するなぁ

ゆっくり目尻を指先がたどっていく。
会わなかった分の隙間を埋めてくれるような仕草に笑みがこぼれる


「バスケ部の人たちにいろいろ話してくれてたんだね。おかげで何度も自己紹介したり力のこと話さずに済んだよ。ありがとう」
「君は特に涼太みたいなタイプは苦手だろ?なんてことないよ」
「何でもお見通しだね」
「そうでもないよ。見通すのは真太郎の役目だ」


聞いてみれば妖怪の人はそんなに多くないようで既に出会った人を含め六人らしい。
少人数だしみんな仲間だからと赤司くんは私の力のことを話していてくれた。
人見知りだからかなり助かったな


「……やっぱり印付されたね」
「?」


涙袋から目尻までを撫で上げられる。
インヅケ?
何もされた覚えはないんだけど…


「いや、いい。近くにいることも僕たちに接触した君に何かしらの行動を起こすことも想定内だ」
「…何のこと?」
「心配しなくていい」


まただ
また、あの甘い声

ー私はとことんコレに弱い


「大丈夫だよ。全員で必ず守るから」


思考を奪う甘美な言葉





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