焼けるように痛む喉を押さえて、さてこれはどうすべきかと考える前にもう、それは事済んでいた。


圧倒的な、黒


私に襲いかかってきた狼のようなソレを、たった一言で喰らい尽くしてしまった。
声のした方へ、後ろを振り向けば、紫色の髪が美しい男の子がいた


「崎ちんに目ぇ付けられるなんてついてないね」
「むっくん!」


紫の彼が言った崎ちん、とやらが今回の犯人なのだろうか。犯人というには、まだ、早いのか…
とりあえず、のどがいたい。
なんだか体力まで蝕まれてゆくような感覚がしてその場にへたり込む。


「白雪ちゃん!大丈夫!?」


私よりも涙ぐんで心から心配してくれる彼女に向かってなんとか笑みを作り、口パクで大丈夫だよ、と伝える。
ふと、視界の横に紫が映り込む


「あーらら。これ、崎ちんの妖力が混ざったのだから相当苦しいよ」


ま、解毒することもできなくはないけどね〜
のんびり、という言葉が一番適切なのだろうか。
穏やかそうな瞳に宿った色は心配というよりも先に解決策を見出していて、それに何処か安心している自分がいた


「ネタばらししてんじゃねーよ、アツシ」


体育館の倉庫から、灰色の髪をした男の子が出てきた。彼が崎ちん、なのだろう
アツシと呼ばれた子と会話が続けられる。


「だってどの道怒られんのは俺かさっちんだし。そういう崎ちんこそ、面倒事ふっかけるのやめてくんないー?」
「はっ、ムリな相談だな」


お前らがその女に執着している限りな
剣呑な眼差しに、ぞくりと鳥肌がたつ。
純粋な悪意そのもの。私はこの人のことを知らない。けれどこの人は私に明らかな悪意を持ってそれを隠す事なく向けてきている

こわい

こんなこと今までになかった。
他人から向けられる悪意がこんなにもこわいだなんて、私は知らない


「ま、崎ちんがどうしようと王子様の到着みたいだけどねー」
「……お前たちがいながら何をしている」
「遅いよー赤ちん。そんなこと言ったって俺が来たときにはもう手ぇ出されてたしー」
「あ、赤司君、ごめんね」
「もういい。それより、」


灰崎
赤司くんの雰囲気に謝る二人は悪くないと身振りで伝えようとしたが、彼の鋭い眼光と冷たすぎる、初めて聞く声に思わず固まる

まるで、薄氷の上に立ったようだと

そう錯覚させられるような、彼の妖気。


「天狐様ともあろうものが、随分ご執心だなぁ赤司?」
「黙れ。お前と彼女は関係ない」
「いーや。あるね。お前たちが手厚く保護する人間なんざ知らないんでね。味見したくなるのも俺の性格知ってるならわかるだろ」


「僕が黙れと言ったのが聞こえなかったのか?灰崎──いや、犬神憑き。喰うぞ」
「ッ!」


ヒュッと灰色の彼ののどから息を呑む音が聞こえる。
ぼんやりとした薄闇などという甘い世界ではなく、彼等は、闇を塗り籠めたような、そんな場所に生きているのであろう


「、んだよ!俺のことはヘーキで捨てたくせに、ただの人間如きが大事かよ!?」


吐き捨てられたそれが彼の本音なのだろうと、不意に思った。
そしてとても苦しいと。
赤司くんを見上げると彼は私の頬を包み、椿のような、お香のような匂いをさせながら上から前髪が触れるほどに屈み込み瞳を合わせてくる


「心配せずともいいよ」


赤司くんの瞳がこれほどまでに近くにくるのは初めてだった。


「いいか灰崎。僕はお前を同属などと思ったことはない。ただ偶然にも似たような境遇にあり同じ部活にいただけだ。もう一度言う。僕が、黙れと言ったら黙れ。そして今後一切彼女に関わるな。出て行け」


悔しそうな、それでいて泣き出しそうな顔をして灰崎と呼ばれていた彼は体育館に幾つか設置してある換気用の扉から出て行った

私の瞼を撫でながら赤司くんはもう既に灰崎くんへの興味は失われたわしく、また私に大丈夫かいと、声をかけた。
その恐ろしいまでの関心が消える瞬間を、灰崎くんは体感し凍えたのだろうと、何処か他人事のように思った。





returm next
ALICE+