つい数分程前まで僕の名前を呼んでやさしい表情を作っていてくれていた彼女が、今は青白い顔をしながら横たえられている
うそだ
心にはぽかり、変な空間が出来た。
記憶虫が彼女の体内に入って記憶を貪り喰っているだなんて
完全に体内に入ってしまった記憶虫は目視することは叶わず、気配を探るしかない。
天狐の赤司君が蠢く記憶虫を探し、妖怪を食べることの出来る紫原君が虫を喰らうため待機している
二人とも顔に焦りが顕著に出ている。
記憶を喰い尽くされれば、人体はもぬけの殻だ
残った人間という殻は、存在の意味を為さなくなる
結局、僕は何の役にも立てない。
いくら妖気がほぼない妖怪だからといってソレの住み着く本に安易に触れてしまった。
大切な白雪さんに守られて、人という器の頭の天辺から足先までを埋めるキオクを、蝕まれてる
ーなんて無力だろうか
「テツヤ」
「ッ!は、はい」
「彼女の中へ毒を入れろ」
「は…!?」
彼女の頬に触れていた彼は鋭い目をこちらに向けた。
僕は、狐に逆らえない
「…なんで、ですか」
「記憶虫を見つけても綺麗に彼女の体から引き剥がせるとも限らない。休みなく記憶を喰い続けているからね。
だからお前の毒で弱らせたところを僕が彼女の血と共に毒と虫ごと吸い出し、僕の中の記憶虫を敦に喰わせる」
「そんなことしたら一瞬でも赤司君の記憶が喰われるんじゃ…!?」
「天狐の力で体内の侵食は止める。彼女に使うことは出来ないが、僕の体内のみならば食い止めることも可能だからね」
外部から力を使い彼女の中の記憶虫を止めることが出来ないのが悔しいのか、彼は今までにないほど哀にまみれた瞳をした
「ねえ。早くしないと洒落んなんないくらい記憶、喰われるよ」
「…テツヤ」
「…毒を吸い出したらちゃんと白雪さんに血をあげてくださいね」
妖力を集中させ、親指を噛み切る。
なるべく即効性があり全身にまわりやすいものがいい、緩やかな効きだと虫に届く前に記憶の方が喰い尽くされてしまう
どこまで記憶は喰われただろうか。
青白い頬、固く閉ざされたまぶた
どうか最後はその輝く瞳を見たかったと、彼女の真っ赤な舌に血を塗りつけ、飲み込ませた
記憶を失った彼女は力だけを持て余して、どこにも居場所をなくしていく
それはとても
悲しいじゃないか
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