毒が急速に青白い顔に熱を与えていく。
冷え切っていた体からは苦しみか浮かされた熱のせいか、汗が大量に出る
気を失っていた白雪も目を覚まし、苦しみにもがき暴れる。
黒子は知り得る中で一番の毒を彼女に与えた。
痛みもあるし発熱もあり、普通の人間が味わえないであろう毒の苦しみ
毒だけではなく、体内にいた記憶虫にも妖力の混ざった毒が行き渡り、体中を暴れている
記憶虫からの痛みもかなりあるだろう
「すまない。今助けるから、もう少し痛みに耐えられるか?」
白雪の頭を抱え、頬を滑り落ちる涙をやさしくやさしく拭いながら彼女の好きな甘い声で問いかける
薄く開いた紺青の瞳からまた涙が零れ落ちた。
紫原は、苦しげな表情に彼自身も顔を歪めたが、光を閉じ込めた瞳から落ちる涙は流れ星のようだと嘆息した
ひゅ、と細かい息が吸われ辛うじて白雪は首を動かす。
小さな頷きを見た後赤司はすぐにまぶたを再び閉じさせ、肘の内側にある太い静脈に思い切り歯を立てた
急な物理的な痛みに白雪は体を跳ね起こしたが紫原に押さえられる。
床に寝かせられた腕を赤司が毒抜きのために持ち上げ、紫原は赤司の近くで成り行きを眺める
泣きそうな顔をしながら、黒子がハンカチで彼女の額を拭く
血液がどんどん赤司に吸われていき白雪は唇の色を悪くしている。
もうすぐ記憶虫ごと吸引が終わるのか、少し手を上げ紫原に合図した。
毒を吸い出しながら記憶虫を制御しているため赤司も余裕がない
爪は伸び切っているし目尻と頬には紅が引かれたような紋様が浮き出ている。
大きな妖力にあてられ黒子は体の重さを感じたが、彼女への心配が大きいため気に留めなかった
とうとう赤司が腕から口を離し、血が流れ出ないようぺろりと腕を舐めて傷口を塞ぐ。
気を失っている白雪から離れた紫原を真正面に据えた
ニタリ
口元を歪めて喜ぶ紫原に、赤司は辟易した。
彼は妖を喰らう妖だ。
それも、毒されていたとはいえまたとない力を持つ彼女の血と強い天狐の血が混ざる体内の妖怪を喰える
「じゃあ、いただきます」
言い終わるより彼から飛び出した黒い髑髏が赤司を通り抜ける方が早かったか。
彼自身の妖力を喰えばどやされるため、めずらしく神経を使い虫と彼女の血だけを頂戴した
「ん!うんまぁ………アラ?」
髑髏を体内に戻して綻ぶ頬を隠しもしない紫原に呆れるが、本能なのだから仕方ないかと諦める。
ため息をついていると紫原が不意に噎せ出す。
「どうした?」
「まさか毒が紫原君に…?」
「……いや、待て」
慌てて紫原へ駆け寄ろうとした黒子を制して、赤司は事の成り行きを見守る。
蛟に解毒は出来ない。
故に毒を飲ませたことに対して黒子は強い罪悪感を覚えている
「ゲホッ!…う、おえッ」
ペチャッ
吐き出されたのは真っ黒の記憶虫。
予想外のことに瞠目する赤司と黒子を掻い潜って虫は元より潜んでいた本へ戻っていった
「アレは…」
「戻っていきましたね」
「うぅ〜苦しかったんだけど。ナニアレ〜?潰す?」
「いい。…僕に心当たりがある」
「赤ちんに任せちゃっていーってこと?」
「ああ」
親指を噛み切って記憶虫の潜む本の表紙にバツ印を書き封印する。
妖力のあるものにしか見えず、尚且つ赤司より弱いモノには開けられない印
「大丈夫ですか、赤司君」
「ああ。僕は問題ない、めずらしく敦が慎重に喰ってくれたからね」
「毒は?」
「有坂さんの血に混じった毒ごと敦が飲み込んだ。あいつは元から人や妖怪を喰らうから毒くらい問題ないだろ」
「そーゆーこと〜」
「あとは彼女に血わけをして、終いだ」
致死量ではないが結構な量の血を抜いたため彼女には現在血が足りていない。
このままでは回復するものもしないし、これからのことを考えれば血わけを行い自分との関係を強固にしておいた方がいい
血わけを行えば白雪の中に流れるのは白雪の血だけではなくなる。
彼女は人間のため、著しい変化はないだろうが赤司の使役に入り本能的に彼に従う
主従関係になることを赤司は望んでいないが、それも自分が命令しなければあってないようなものだ。
そして何よりも彼女の危険を察知でき、ナニかが近づいてきたときに遠ざけることも可能だ。
ー記憶がなくなっても、まだ守れる
悲しみを宿した瞳が白雪を見つめ、伸びた爪で切りつけた自身の手首から滴り落ちる椿のような赤を、白雪の口へと翳した
次に目が覚めたとき、彼女は赤司たちのことを忘れているのだろう。
予め未来を読み、保健室の使用が必要になるとわかっていた緑間が廊下で待ち構えていた
表情は、暗い
緑間の図らいで先生がいない保健室のベッドに白雪を寝かせ、上半身を抱き起こしながら、赤司は鼻先を白雪の顔へと愛おしげに寄せた
夢をみてはいけないといった僕が、なぜ最後までここにいるんだろうね
ALICE+