放課後までは何事もなく過ぎた。
赤髪の子が今朝に靄を祓ったからか、目撃することも少なかった。
彼は『払って』いたが。

あの靄は、恐らく人の悪意や羨望や、そういった様々な気持ちがない交ぜになって寄せ集まったモノだと思う。
それがより一層の力を求めて私のような人を追い回している…と解釈している。
要は、妖の一歩手前。

貞子的なあれでもないから、怖くともなんともないんだけど…
言うなれば十対一でバリバリの運動部に鬼ごっこをけしかけられるような感覚で、反射的に逃げ回り様子をみて声で祓ってしまう。

そんなこんなで、あの靄ならばなんとかできるという認識があったのだが。


「なっ、なんでぇぇぇぇ!?」


今は絶賛大きな蛇の形をしたモノに追いかけられております
それも靄のようにはっきりしないモノとはちがい、鱗や色味までかなりはっきりしている。

色味といっても艶やかな黒色だ。しなやかな筆に墨を吸い込ませたときのように、輝く黒。

どうしたらいい?
どうするべきだ?

思い浮かばない。
靄みたいに弱そうならまだしもこんな舌をちろちろと威嚇しながら出してる蛇は怖い!
しかも無駄に早いよ!


『来るな!』


後ろを見ながら走っていたせいで足がもつれて転ぶ。
もう誰にきかれても構わない、ええい力を使ってしまえ!


『動くな』


ちょっと強そうだと思ったが私の力は有効だった。
こちらを睨めつけながらも止まってくれたことにほっと息をつく。
運のいいことに周りに人はいなかったようだし。


『もう、大丈夫かな……っ!?』


安心して、安堵の気持ちを込めて言ったためなのか、蛇は再度動き出した。


「えっ!?ええ!?」


蛇足だが、声への力の込め方は感覚でしかない。
とにかく今はテンパっている。
どうしよう、なんでだ!?声が効かない?いや、そんなはずは…
だって今さっきまで効力はあった、ならばなぜ?
乾いた喉に声が張り付いて、空気中に飛び出てくれない。


「去りなよ。其れは君のエモノじゃない」


蛇に睨まれた蛙よろしく蛇の目に固められていた私は、蛇の向こう側にいた少年に気づけなかった。
物怖じせず繰り出された足に踏み潰され、黒蛇は霞となって雲散する。
私の頭には疑問符しか浮かばない

何が起こったの…?

今朝にも会った鮮やかな赤の彼にはアレが見えていて、それが私を狙っていることが理解って、消した?



「大丈夫?」


差し出されたてのひらに、迷わず頼りない自分の手を重ねたのは。
彼なら信じれると本能が喚いていたのかもしれない






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