夏が、終わる。
もう触れられる距離に彼女はいない
保健室で目覚めてから直近の記憶がなくなっていた彼女は、少し噂になった。
友人であったことはわかるのに最近交わした約束や会話も覚えていなければ学校行事のことなども忘れていた
ー別人に入れ替わったか取り憑かれたのではないかと
記憶が喰われたのだ、別人になったといえばそうなのかもしれない
勉強は元より頭のいい彼女はすぐに取り戻したらしい。
記憶で覚えていなくとも知能として身に付いていたんだろう
不思議な顔をしながら廊下に貼り出された成績結果を見ている彼女が少し笑えた
今はどうしているだろうか。
僕は学校に行けなくなってしまった
バスケ部の皆と決別したあの日だって、白雪さんがいたら少しは変わっていたのかなとか、縋らずにはいられないんだ
一度だけ一緒に歩いた帰り道
一目だけ彼女を見たくてひとり佇む
夕方五時、秋も暮れに近づき冬が待ち構えている。
すでに青紫になった空を仰ぎ、もっと濃い色になれば彼女の瞳のようだ、と思う
小さな足音がして、人影が現れる
華奢な背中が家の中へ入ろうとしていた
「白雪さん、」
ざあっと風が髪を容赦無くさらう。
偶然にも、彼女は振り向いた。
口は薄く開かれていて、何を紡ぐでもなく、あの声は発せられない。
──夢をみてはいけないよ
今更になって赤司君の言葉がよみがえる
僕に囁いたその声が、一番彼女を信じたいと叫んでいたことを。
君は気づいていますか、赤司君
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