次は有坂さんのことを理解しようか、と赤司くんが言う。
私のこと。
手のひらを見て、少し考える。



それはこの力を得たことまで遡らなければいけないのだろうか。
あまり気持ちのいい話ではない、と彼女は自然と視線を落としてしまう。
対して赤司は気にしていないのか、左右非対称の色素を白雪の手元へと寄せた


「言いたくないことがあるならいいけど。でもなるべく話してもらった方が僕も考察しやすい」


できるだけ優しい声を出したのか、甘やかな声がやわらかく響く。
白雪はつられるように顔を上げ、無意識なのだろう、少々泣きそうな情けない表情をみせた


「誰にも言わないよ。秘密だ」


再度、甘くあまく紡がれる声と言葉。麻薬のようだ。
彼の手をとったときから、白雪はもう永遠に彼の呪縛にも似た麻薬から逃げられないと、決まっていたのかもしれない

愚かにも手をとってしまった少女は、従順に話し出す


「…幼い頃は、こんな力なかったの。ただ…ひいおばあちゃんが亡くなって、おばあちゃんの家に親戚一同と集まったときに、大きな客間に死んだひいおばあちゃんが寝かされていた。……私、絶対に近づいちゃダメだって、なぜか本能的に思ったの。死体に近づいたら、悪いことがあるって思って、葬式のときまでひいおばあちゃんの顔を見れなかった。死体があるうちは、おばあちゃんの家にも近づけなくて玄関にも行けなかったの」


意識は当時にあるのか、彼女は感情のない瞳をキラキラと紺青に輝かせながら薄い唇を動かす。
赤司は黙って話をきく。
時折、視線を鋭くさせながらも紺青のそれを見ると緊張を解くように和らげていた


「それからかな…それからは、ただ勘がひどく良くなったというか。例えば日常的なものだと、ミュージックプレイヤーで百曲近くある音楽をランダムに再生したとき、五曲くらいなら連続で次に再生される曲を予想できるんだよね。そんな感じでしかなくて、あんまり不思議には思ってなかったんだけど」


一旦口を閉じ、口元に手を持っていく白雪。
不安なのだろう、やや内向的な彼女はよく手を口元へとあて、気持ちを落ち着かせる癖がある。

赤司もそれをこの数時間で理解したのか、咎めずに見つめながら繋いでいる手をそっと撫でる。
あたたかい感触に白雪は赤司を見やる。
紺青の瞳と、赤と黄の瞳が合わさって、微笑めばするりと風が赤司の長めの前髪を揺らした


「たぶん、曾お祖母様のことで力が芽吹いたんだろうね。もともとあった素質を際立たせる引き金とでもいうべきか」


窓の外を眺めながら赤司は今のところまでをまとめる。

恐らく力自体は生まれ持っていたのだろう。しかしそれは普通に生きるだけでは必要とするものではない。

だが死体を見て怖がった彼女を守ろうと力が危険から遠ざけるため少々鋭利になった…そして彼女の曽祖母も、何かしら怨念を持ちつつ死んだのだろう。
故に彼女は嫌でも力の破片を掴まざるを得なかった

赤司は整理し推理した情報を頭の隅に置き、白雪へと先を促す



「はっきり覚醒したのは…おばあちゃんが死んだとき」


白雪の瞳に浮かぶのは悲しみなのか、それともまったく別の何かなのか。
赤司には判別できなかった





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