およそ一年。
三六五回、規則的に繰り返す日々を全く彼女ナシで素通りするのは、慣れはあれども虚しさが募った

会いたい
また控えめに笑って黄瀬くんと。
君だけの声で俺を呼んでよ



「本当に、ほんとに名前ちゃん…?」


自分でも聞いたことないくらいの情けなくて掠れてて、消え入りそうな声


『うん、全部思い出したよ』


何もかも包み込むほどのやわらかさで彼女は応えた。
ああ、これほどまでに自分を巣食っていたとは。俺を構成する大部分を彼女が支えていたことを、思い知らされる
会いたいってワガママを言えば、じゃあ黄瀬くんの部活ない日に会おうかなんて甘やかしてくれて、やっと現実味を帯びてきた事実に縋り付いた

誰も埋めてくれなかった、喪失感という名の積もった灰。
会いたい。会ったらたくさん名前を呼んでもらおう。黒子っちに負けちゃったことも、今まで以上にバスケが楽しいことも、高校には妖怪がいなくて少しさみしいことも。
全部伝えよう。彼女は飽くことなく一つ一つ拾ってくれるから、そうすれば積もった灰は埋め立てられて綺麗な平らになる




遠目に見つけた彼女は変わりなくて、でもキレイな髪は一年という間に結構伸びていて。
青峰っちと桃っちが守るように寄り添うそばでそろりそろり笑っていた。


「名前ちゃん!」


大きく呼ぶと驚きを映し出した紺青が相変わらずキラキラ俺を捉える。
目尻の紅も呪とあまり変わらないモノだが、紺青をうまく引き立てていて美しい


「黄瀬くん」


水槽が満たされてゆくのと同じく、ゆっくりでも確かに俺の心臓も満たされる。
笑えることに手が震えていた。
それでも、触れたい一心で


──会いたかった


伸ばしても空だけを掴んでいた指先が、ようやく健やかな白い輪郭に届いた。



returm next




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