店内はざわめきが反響していて、お世辞にも静かとは言い難い。
この中なら妖怪の話をしたって拾われることはないだろう。
モデルとバレることを恐れてか、瞳をきょとりと周囲に巡らせた後、安心したように息を吐いた黄瀬が話し出す。


「名前ちゃんはもうみんなに会ったんスか?」


彼の言うみんなとは言わずもがな妖怪でありバスケ部である面々なのだが、如何せん言い出した本人を筆頭に東京から離れてしまっている。
会えていないこと前提に切り出した。
ゆっくり紺青を瞼でおおって名前はゆるりと首を振る

明らかに沈んだ様子にさせてしまったため、桃井と青峰から批判的な視線で攻撃をされる


「先週に思い出して、すぐさつきちゃんと青峰くんには会いに行ったんだけど…」


チョコシェイクのカップを握りしめて歯切れ悪く彼女は言う


「二人に聞くまでみんなが違う学校に行ったことすら知らなくて、でも電話やメールじゃなくて直接顔を見て話したかったから赤司くん達には連絡できていないの」
「あれ?でも俺には電話くれたっスよね?」


小首を傾げて彼が尋ねれば、ああそれはと青峰が答える


「こいつ、いつまで経っても誰にも連絡しねーから俺がさせた」


青峰なりに彼女を可愛がっているのか、頭を小突く。
名前は名前で何も言えないためされるがままなのだが、あまりに体格も力も異なる青峰に小突かれぐわんと細い首が揺れた


「ちょ、青峰っちやめて!アンタみたいな馬鹿力にンなことされたら名前ちゃんの首がもげる!」
「あ?俺に逆らうとは偉くなったじゃねーか化け蜘蛛」


雑談を交わしながら名前の赤司をはじめとした妖怪のみんなに会いたいという願いを叶えるため案を重ねて出し合う。
妖怪として存在を隠してきた彼らを肯定し必要としているのは、この静かな美しい瞳の少女。
彼女のために、彼らは再び集まって守るのだ

同じ都内にいる緑間と黒子ならすぐに会えるからどうだという黄瀬からの提案に名前は曖昧に頷く。
秀徳は進学先の候補として上がっていたため場所を知っているが誠凛はわからない

他校の生徒に囲まれる恐ろしさに寒気だった彼女は、追いすがるように紺青の瞳を甘く輝かせて桃井と青峰に見遣る。
桃井は少し困った。
かつての仲間に会えるのは嬉しい。だがそれにはこの幼馴染が問題なのだ。
今はもう、黒子と彼は相棒ではないのだから


「…俺は行かないからな」


憂いた瞳を見て、ああ青峰くんのことを大切に、けれどさみしそうに話してくれていたのは黒子くんだったと、紺青はぼんやり思い出した



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