自ら指定した店にて黒子は好物の飲み物をすする。
別に緑間と不仲ではないが、こうして呼び出されて二人で会うという機会はなかったため、現在黒子の頭の中は何の用事だろうということが巡っている


─会わせたい人物…ということは僕と緑間君の共通の知り合いではない、ですよね


けれどもまったくの無関係の人間を紹介してくるとも考えられないため、バスケもしくは妖怪関連だろうと決めた。
不意打ちで妖怪関連の話題を出されると彼はひどく動揺してしまう。
かつて、名前を赤司に紹介された時がいい例だ。
前以ての覚悟は決めたからもう驚かないとよくわからない意気込みをしたところで、入り口に飛び出た緑髪を見つけた

件は鼻が効かないし、彼は妖力を探るということをあまりしないため黒子から声をかける


「緑間君」
「悪い、待たせたか」
「いえ、平気で…」


す、の言葉は空気となって消える。
緑間の半歩後ろをそわそわしながらついてきたその人。
彼女とは、もう会えないのかもしれないと。
勝手に期待を寄せて勝手に記憶を奪い去ってしまって、勝手に関係性を消してしまった手の届かぬ人


「…な、んで」


久しい名前を呼ぼうにも嗚咽が混じりそうで口を閉じる。
立ち上がって呆然としている黒子に近づき、いつしか本を取ろうとした繊細な指先を包み込む

名前は唐突に映像としてそのデキゴトを理解した。
美しい水色を追いかけて、本能をくすぐる本に伸ばす指を止めたかったこと。
きちんと彼を記憶虫から守れたこと。
─彼と赤司、紫原が必死になって助けてくれたこと

感謝の気持ちしか出てこない。
だから、彼女はきちんと口にする
何度だって何回だって彼らに飽くほど真摯に伝えるのだ


「やっと会えた」
「名前さ…」
「黒子くん、助けてくれてありがとう」


紺青がニコリ細まる。
黒子は唇を噛み締めて、けれども我慢ならなかった滴が己の手首へと落ちた


「泣かないで」


あの時聞きたいと願った甘い声が優しくさえずる。
あの時最後に見たいと願った紺青が真正面に自分を映している
ようやっと、解放されるのだ


「名前さん」



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