いつだって手を引いて前を歩いていたかったのに、君はやさしく僕たちの手を握って一歩先へ導いてくれた
次は脆い君を守れるように
試合会場は様々なニオイが充満する上に訪れる妖怪憑きも多い。
気配を追って集中を乱したくないため完全に妖力は抑えるようにしている。
自分は試合に出ないとはいえ、ゲームメイクをし部員に伝えるのは僕の仕事だ
バスケ強豪校に進んだ自分たち以外の妖怪は何名か知っているし、必ずここにも訪れているだろう。
僕より弱いモノだとわかっていても余計な気配はシャットアウトしておきたい
その警戒のせいで、対面するまで僕は気づけなかった。
僕と同じ天狐のニオイを微かに纏った、狂おしい紺青の気配に
「じゃあ僕は盆休みの間は東京の家で過ごすから何かあったら携帯に」
「あいよー。じゃあねん赤司」
「ハメを外しすぎるなよ小太郎」
「あ、征ちゃん待って!私も実家に帰るから一緒に行きましょっ」
優勝し監督からの指示やミーティングなどのすべてを終え、控え室を出る。
桃井に連絡して彼女に会おうか、などと考えながら会場を通り抜ける。
同じく短い休みをこのまま東京の実家で過ごす玲央が隣を意気揚々と並ぶ
「やぁっと外の空気吸えるわね。妖力をずっと無に保つのも神経使うし疲れちゃったわ」
「そうだな。ここまでやっておいてアレだが、本当に僕たちの体質はスポーツに向かないな」
「ほーんと。皮肉なモンよねぇ」
エントランスのドアを抜ければ新鮮な空気が待ち受けていて、やっと無理に抑えていた妖力を普段のレベルにまで戻す
「、!」
「……あら?何かしら、このニオイ…って征ちゃん!?」
生ぬるい風に乗って香った妖狐と、慣れ親しんだ己のニオイ。
こんなニオイを待っているのは。
たった一人の少女を思い浮かべて風上へ急ぐ。
そんなに離れていない、エントランスから出た少し先から気配は動かない
ねえ、思い違いならそれはそれでいい。
でもひょっとして、僕に、会いに来てくれたのか?
柔らかい、何度も夢でみた記憶より伸びた髪を遊ばせて、彼女はいた。
彼女の甘やかな声が僕を呼ぶ。
美しい赤の唇が、僕だけのために動く
ここはもう夢の世界じゃない。
彼女は毒に苦しんでいない
考えるよりも先に指先が白い頬に触れていた。
紺青から透明な涙が静かに道筋を作って、嗚呼こんなにも人間は綺麗な気持ちで満たされることがあるのだと、初めて知ったんだ
そして触れた瞬間に流れ込む君との過去
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