そう、あれは母が写真の中だけの人になったときだった。
当たり前にいた居場所には空気だけが居座り、家の中が悲しみで溢れるようになったとき。
湧いて出る悲しみをどこにどう投げ捨てれば解消できるのか、感情だけが手持ち無沙汰になる。
幼いクセに泣くことも甘えることもわからなかった僕の妖力は暴走した
暴走したといってもまだ年端もいかない天狐の不安定な力は、一回爆発的に発散されたあと収まった。
ただその収まり方が問題であったが。
散った力を補おうとした体が狐化したのだ。
家は、悲しみが入り乱れる閉じ込められた世界だった。
だから僕は子狐の姿なら好きなように動けると踏んで外へと出た
東京といいながらも住宅街の閑散としたところに住んでいたため、人間にも会わず無音の公園に辿り着く。
人間でいるときよりも軽い体、けれども小さくてあまり進まない歩幅
外に出たときの高揚感も続かなくて、また悲しみが襲ってくる
─なんでだろうか
─なんで俺なんだろうか
─少しくらい、ありふれた夢をみせてくれたっていいじゃないか
じんわり瞳が熱を帯びて視界がぼやける。
動物の姿なのに涙が出るんだな、だなんて無駄口も叩けないほど、すべてに嫌気が差していた
休みたくて眠たくて公園の茂みに隠れる。
そこには椿の木が植えられていて真っ赤な花や白から薄桃へグラデーションした花が冬を賑わせていた
根元に丸まる。
最初は冷たかった土が体温ですぐに暖まる。
ああ、いっそこのまま…
どうにでもなれと目を閉じた
「あれっ」
突然に聞こえてきた幼い声に驚いて飛び上がる。
見上げれば至近距離で覗き込む黒曜の瞳
「キツネちゃんだ!ひとり?どうしたの?迷っちゃったの?」
子供らしく矢継ぎ早に繰り出される言葉に思わず目を白黒させてしまう。
なんだ、この子は
「きゅっ!」
「よいしょっと…けっこう重たいんだねぇキツネちゃん」
いきなり浮かび上がった体に情けない鳴き声が出た。
気づけば彼女は僕を抱き上げていた
頼りなくて細すぎるけれどあたたかい腕に包まれて思い出したのは、母だった
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