彼は納得した。
名前を初めて感じたときから己の中に浮かんできた既視感の正体はコレだったのかと
忘れていたわけではない、ただ奥底に仕舞われていただけ
意識は幼い日の寒い冬の日に飛んでいたが、それもものの数瞬ですぐに瞳は夏の日に生きる名前へと向いた
「赤司くん…?」
紺青に涙を散しているその特有の甘い輝きを、赤司は噛み締めるような喜びを伴いながら受けとめる
あの時僕の心を救ってくれたのは彼女だった
甘やかして、抱きしめてくれた
誰にでも出来て、誰もしなかったこと。
名前が何も知らず赤司に与えたソレは彼が生きる大きな糧となって植え付けられた。
不思議そうに見上げる紺青に何でもないよと返して、余裕のある素振りで笑う
「…本当に懐かしいな。よかった、君が戻って来てくれて」
「ただいま赤司くん。そして赤司くんも、おかえり」
彼女は東京に戻って来たことに対しておかえりと言ったのだろうが、幼い頃の記憶を迎えた今、それに対しての言葉に思えた。
穏やかな表情で涙を拭ってから笑って少女の華奢な手を引き歩く
「ちょっと、征ちゃん!」
「…ああ、玲央」
長めの黒髪をパサリと揺らしながら実渕は赤司に近寄る。
さも忘れてました、と言わんばかりの対応に内心コイツ…と思うものの、この美丈夫は洛山高校の中でも格段に大人の精神を持っていた
「ひどいわ、置いていくなんて。それにそのニオイに心当たりあったなら教えてよ」
「すまないな。僕自身も彼女に会うのは一年ぶりだからつい」
冷静でいつだって残酷にすべてを威圧する美しい男。
それが実渕玲央から赤司征十郎へ送る印象だった。
しかしどうだろう、今目の前にいるのは穏やかに柔らかく笑むあどけない少年だ
ほう、と実渕は赤司と対峙しても何てことなさそうな少女に感嘆した
「初めまして、私は征ちゃんのチームメイトの実渕玲央っていうの。ちなみに二年よ」
そして征ちゃんとおんなじ妖怪
薄く形のいい唇から紡がれるセリフには反応せず、ただその美しさに名前は惚けた
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