呆然と見上げていれば、品のある黒髪の男はああすみませんと流れるように言葉をこぼす
「この店は静かなので読書ついでによく利用しているんですよ。ただ今日はいつものコーヒーよりも何よりも、あなたがいたのでね」
肩がぶるりと細かく揺れた。
この目は、この身の毛もよだつ鋭利な感情は、灰崎に会った時と同じだと名前は頭の奥底で思った
─赤司くん
どうしたらいいかなんてわからずただ彼の名前だけがじんわり浮かんで、この言葉だけが小さく声になった
「花宮さん」
花宮と呼ばれた人物が接触したのは赤司たちが離れていた数分。
だが名前にとっては時間が止まっていたような感覚がしていたため、甘やかな赤司の声に、やっと世界が動き出した
「何をしているんですか」
優しさの微塵もない硬質な声に冷酷さを含ませて問いただしながら、座ったままだった名前の肩を引き寄せる。
その様を面白そうに男──花宮真は眺めて馬鹿にしたような、特徴のある笑い方をした
「ふはっ!噂通りだなぁコレは」
「赤ちんのチームメイトには悪いけど、だから鬼って嫌いなんだよね」
「俺を酒呑童子と一緒にしてくれるなよゲテモノ髑髏」
暑さでテラス席には人がいなかったとはいえ、店内からの視線をもとより集めていた彼らだ。
このままじゃ注目されるだけである
不穏な空気をなんとかしようと名前は声を振り絞る
「そ、外ッ!とりあえず外に出ましょう!」
普段の温厚でゆるやかな目元とは異なる紫原の鋭いソレや、花宮の読めない言動に、名前は指先を震えさせながら赤司の服の端を掴む
その指先を見て赤司は心が苦しく締め付けられた。
こちらに帰ってきている紫原と会いたいと言うから、せめて楽しい時間を過ごせるようにと思って実渕に店を聞いたりまでしたのに。
怯えさせてしまっている
「…大丈夫だよ」
彼女の耳元に唇を寄せてぽつり、呟く。
揺れた紺青に絶対的な盲信が見えた気がして、横で様子を見ていた紫原は少し眉をひそめる。
店を出てすぐに花宮は振り向いて名前に告げる
「アンタのことは今吉サンから聞いてたよ。俺としては力っつーより、その瞳が喰いたいんだよなぁ」
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