妖狐と天狐のニオイに混じった、甘い蜜のような香り。
緑間の知り合いとは思えないくらいにまともで礼儀正しい彼女のおかげか、まとう狐のニオイは気にならなくなった

見たことのない輝きを放って反射する瞳。
まるで万華鏡のようだ、と遠くで思う


「宮地先輩に力を…?」
「ああ。百聞は一見にしかずなのだよ」


緑間は鬱陶しい効果音がつきそうなカオをして言う。
しかしコイツがどんなに我が物顔で自信満々にしていようと、行使されるのは此方なのだ

得体の知れない力を使われて悪影響が出たら困る。
なんてったって俺の生活の中心はこのチームでこのバスケだ。
緑間やその仲間のように妖怪として生きることに命題を置いていない


「おい、変なモンじゃねえんだろーな」
「安心してください、身体には無害ですから。名字、」
「おい宮地、緑間!ゲームするぞいつまでも駄弁ってんな!」


大坪からの檄が飛んできて慌てて練習に戻る。
運動部の雰囲気に慣れてない名字は肩をビクつかせてからパタパタ大きいジャージを揺らして走ってゆく

小せえなぁ
緑間のジャージなんか着るから、余計…

くるり

突然振り返ってくるもんだから、心臓が飛び跳ねた。
な、なんだよ驚かせんなよ
目で追ってしまっていたことに対して居心地の悪い焦燥感がはびこる


『宮地先輩!ダンクシュート見せてくださいね!』


よく通る高めの声が響いた途端体がびくりと反応した。
なんだか使命感のようなモノが湧いてきて、本能的に従わねば、彼女の望むとおりにしなければという思いが渦巻く。

生まれた強い義務感が蝕んで自分の体なのにそうではないように感じてしまう。
なんだってんだ、クソッ…!


「それが名字の力です」
「…ッああ?」
「彼女は力を声に乗せて、妖怪憑きを意のままに操ることができる」


緑間からの言葉に返す間もなく高尾からパスが回ってきて、ディフェンスに回ってたヤツを躱しダンクを決めた。
ここは別に俺がシュートしなくてもよかった、なのに体がいつもより軽く動いて気づけば手のひらに感じていたゴール


「ふぅん…」


独りよがりなプレイを大坪に少し注意されながらも名字の力を体感する。
意思や考え、なんて持つヒマもなく彼女の望みとおりに動いていた

当の本人はダンクを見れたことに対して大きな喜びを表している
コレは苦労すんなと、またとない笑顔ではしゃぐ紺青を見つめた






大天狗《だいてんぐ》
酒呑童子、九尾と並ぶ日本三大妖怪のひとつ。
山の神とされ、大きな山にはそれ相応の偉い天狗がいると云われ、強い神通力を持っているとされていて力も強い。
地位は狼と同等だが天狐と戦えるほどの力はない



宮地清志《みやじ きよし》
天狗を先祖に持つ者。
大天狗として天狗すべての上に立つ。
今まで妖怪憑きと接してきていなかったことから、妖怪としての自覚が薄い。
しかし妖怪相手なら千里眼も使えるし祓うのも得意。
才はあるが持ち腐れ状態




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