走る、走る、走る
黒子と青峰は各々ちがう方向から同じ場所を目指し走っていた。
理由は、一通のメールから
『秀徳へ向かえ。名前が危ない』
練習終了前だったが構わず黒子は飛び出し、青峰は横になっていたベッドから跳ね起きた
赤司と名前は血分けを通して繋がっている。
微量ではあってもその強い妖力を宿した血は確かに彼女の中に存在していて、ソレは生命の危機の陥ることがあれば赤司に報せる
一人かもしれない。
誰かがそばにいたかもしれない。
だがしかしそんな事実は、彼女の安全には繋がらないのだ。
抑えられない気の高ぶりで伸びた爪なんて意に介さず、赤司は己の血が滲むほどの握りこぶしを作った
名前の両脇を宮地と緑間が囲めば、さながら連れ去られる宇宙人のような図が完成した。
さあもうこれで安心だと緑間は今日一日連れ添った悩ましい眉間の皺を消して彼女に寄り添う
まるで獣が飼い主を守っているようだ、と思って宮地は呆れた。
「そういえば私、みんながバスケしてるとこ見たことないや。だから緑間くんが初めてだ」
ニコニコと宮地や緑間を見て楽しそうに笑う少女に、満足気に頭を撫でる普段は気難しい少年。
和やかな雰囲気が流れたと思ったが、唐突に名前は宮地を見上げた
『───名前』
「え?」
「あ?」
何か言いました?と。
彼女が彼に問いかけた、その向こう側には嘲笑っているような、真っ黒の影が
「、名前さん!!」
黒子の声が飛んできて驚く宮地、緑間はそちらに気を取られ守ることも出来ず、名前はぐんと目の前に迫った黒いヒト型のモノから逃げる
「な…!?」
尻もちをついた名前の目の前に現れたのはいつかの蛇のような、艶やかなまでの黒をした靄。
ヒト型は初めて見るからなのか、その姿が、どこか妖狐の混じった祖母の姿に似ていたからか──
彼女は対応できなかった。
指の一本たりとも動かせないで、ただ瞠目してソレを見つめた
息を切らせた黒子と事態を飲み込んだ緑間と宮地が動き出す。
なんの、三人がかりで退治するほどのモノでもない。
ここにいる誰よりも地位は低く力も弱い。
件は戦闘向きではないため宮地が空間を掻き切るように、勢いよくヒト型の靄に振りかざそうとする
『…ッやめて!動かないで!』
とっさに。
無意識に、名前は力を使って宮地を止めた。
ピタリと動かなくなった彼は視線に驚愕を乗せて名前へと寄越す。
緑間も黒子も感じたことのない重力がのし掛かったかのように感じられ、動けなくなる
そんなわずかな瞬間
靄の腕は名前の首を掴んだ。
彼女の呼吸がままならなくなる。
こわい。ああでも、死ぬのか。
これで祖母の気は済むのか。
なら、何も思わずに受け入れるのが筋なのではないか?
ねえ、そうだよね?赤司くん…
ひんやりしていて、焼け付くほど熱い手が首を絞めてきた
いや、絞めているのではない
絞めつけて引きちぎろうとしている
痛くて苦しくて涙が出る。
でも、それでも、彼女は抵抗をしないし彼等にも許さなかった
しかし、駆けつけるよう言われたのは黒子一人ではなかった
ハッハッと息を激しく弾ませながら、それでも鋭く繰り出された爪で後ろから靄は横薙ぎにされ、消える。
ソレが消えると同時に気を失った名前、動き出す妖怪達の時間。
「名前さんッ…!」
金切り声で泣きそうになりながら呼ばれた彼女の名は、何より切なく感じる
まざまざと見せつけられたのだ、彼女の意思があれば、己たちはどんな力を持ってしても彼女を救うことは、できないと。
黒子は名前をその腕でやさしくやわらかく起こし、かかえる。
気を失って涙を流しながら黒子の膝にしなだれかかる名前の頬を撫ぜてどこか安堵を含んで黒子はささやく。
よくも悪くも、きっと─
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