名前は絶望に打ち拉がれていた。
金曜日、学校から帰ってきてすぐに彼女の記憶が仕舞い込まれた本を解き、雪解け水のように流れてきた記憶

すぐにでも赤司を筆頭とした彼等に連絡を取ろうと携帯を取り出したが


「──私、みんなの連絡先知らないじゃん」


内向的で対人関係に不安を感じがちなのは自覚していたが、ここまで己の性格を悔やむ日が来るとは。
メールアドレスは知っているけど、こんな大事なことをメールで済ませるのも気が引ける

ちゃんと直接会って話したい

まだ部活はやっているから学校まで赴こうか考えた。しかし夕方から出かけるとなれば母親が心配する
事細かに出かける理由を伝えて説得するのも億劫だったため電話しよう、と思った矢先がコレだった


「マヌケすぎる…」


幸いにも土曜は大抵の運動部は活動しているため明日学校へ行けば桃井か青峰には会えるだろう。
人生の退屈のすべてを知ったかのような瞳をした彼には出会えないかもしれないが




午前にあるのか午後にあるのか、はたまた一日中練習するのか。
日程までは予想もつかないため名前は普段より少し遅い程度の時間に家を出る。
学校へ着けば十時頃だ

母に所用があり学校へ行くことを告げ向かう。
日はまだ屋根に近いところに居、夏を呼び込む風が細い髪を掬って揺らした


日陰にいてもキラキラ輝く紺青を伏せ気味にしながら桐皇までの道のりをなぞる。
生徒玄関までの通り道にある体育館からはボールの跳ねる音と漏れる掛け声があり、それを頼りに換気のために開け放ってあるドアをちらり覗き込む


ちょうどレギュラー陣の練習している体育館だったようで、今吉の指示を受けながらガタイのいい男子達が動き回っている。
その中にはやはり青色は見つからない

─いないかぁ…

彼が練習に出ないことを条件に所属しているとは露知らず、体調不良でなければいいなと杞憂した

艶やかな桃色もマネージャーという仕事柄、慌ただしく動き回るためあまり体育館にはいない。


「お嬢ちゃん」
「ひッ!?」


適当に来た時間にバスケ部が活動していただけ良しとするか
自分を納得させ外の壁に寄りかかって待つことにした名前へかかる声。
かすれ気味の低い音と息に驚きと照れが生じる


「どないしたん?バスケ部に用事?」
「え、えっと。あの…」
「ああ、んな緊張せんでもゆっくりでええで」


人見知りが災いしてうまく言葉がまわらない名前。
おどおどして口元へ両の手持っていく彼女の性格を今吉はわかったように見つめた。
伏せがちの長い睫毛から、きらり光がこぼれる


──ん?


光の粒が散りばめられ自ら光を放つ瞳。よくよく見ればそれはよくある焦げ茶や漆黒ではなく、新人エースのそれを色濃くした美しい紺青
そして瞳を鮮やかに強調する、目尻に跳ね上げて引かれた紅色


「君、」
「え?」


名前が顔を上げ整った顔立ちを露わにさせたとき、今吉の鼻は迫り来る白蛇のニオイを感じとった




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