「名前ちゃん!?土曜日に学校来てどうしたの?そして今吉先輩は名前ちゃんに近づかないでください!」


めずらしい色の長髪を踊らせ駆け寄ってきた後輩は失礼極まりないことを言い、白い肌の小綺麗な少女を抱きしめた。
ほんっま、コイツといい青峰といい今年の一年は失礼なヤツばっかやわ


「おー桃井。別にワシは何もしとらんけど」
「う、うそだ!いくら今吉先輩でも名前ちゃんに何かしたら牙剥きますからね!」


おーこわ
肩を竦めてみせても通用しないほど余裕がないらしい。
相手の策を読んで仕掛けを見抜いて、直様対策を打ち立てる。
そんな蛇にぴったりの賢さとしたたかさを持っていつも上から笑っているコイツが、ねぇ…

とりあえずそのお嬢ちゃんを離してやりぃやと言えば我に返る。
慌てて体を離しながら、そうだ名前ちゃんは覚えてないんだったなどとブツブツ言っている
覚えていない?

蛇の彼女の科白が喉に引っかかり飲み込めない
探るように見ていれば、圧倒されていた少女が動き出した


「あのね桃井さん」
「…!」
「思い出したんだ。本、開けたら黒い虫が出てきて。ソレ潰したら全部戻ってきたよ。ずっと守ってくれてたんだね。ごめんね、ありがとう」


柔らかな白が、働き者の手を握って笑いかける。
詳しいことはわからないが、大抵のことは読めた。そして桃井が泣くこともこの流れからわかっていたため、頭を撫でて宥める


「ほーら、泣くなって。名前ちゃんやっけ?も困っとるやないか」
「も、桃井さん泣かないで…!もう大丈夫だよ!これからは一緒に学校生活送れるから」
「うッ…うえぇ…うわぁぁん!」


本格的に涙をこぼす桃井に苦く笑って、彼女に慰めたってと目配せをした。
おずおず伸ばされる手は優しくパーカーの背を撫で始める
紺青に輝く瞳と反する紅がやんわり細められ、白い肌も相俟ってひどく儚げに美しく映った。
桃井が羨ましい、だなんてな


「で、お嬢ちゃんは何者なん?ワシは見ての通りバスケ部で桃井の先輩、今吉翔一や」


申し遅れましたと慌てて名乗る彼女を片手で制する。
礼儀正しい子や、桃井や青峰とちがって。
どう説明すべきか迷っているのであろう、再び手を唇へ寄せた


「私は桃井さんとは帝光中からの知り合いで…んーと、あるきっかけで少し記憶を失くしてたんです…。先日思い出して桃井さんと青峰くんに会いに…」
「へー、そりゃまたけったいな目にあったんやね。まあ、そないに美味そうな瞳してたら印付もされるよな…記憶を失くしたのも誰の仕業やろなぁ?」


ぎくり
肩を跳ねさせ怯えを瞳に宿す彼女には、さぞかし不気味に己が映っているのだろう。
それでも褪せない輝きにひどく興奮する


───ああ、欲しいなぁ


「…今吉先輩」


ぐずり音をたてながらも漏れる妖気。
さすが蛇やわ、コワイコワイ


「青峰君も、怒りますよ」


もっと言えば、天狐の逆鱗に触れます
蛇に天狐に狼…いや、あの妖怪の面々を手玉にとってるなんて


「余計欲しなるやないの」


未知の力に舌舐めずりをした



returm next




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