試合終了、誠凛の優勝が決まった瞬間、少しの間をおいて黒子と火神は勝利を噛み締めた。
洛山の方は戻れるならばあの瞬間に、と思うけれども残酷に試合後の一秒一秒が過ぎゆく

ほろり、ぼろり、と
赤司から堰を切って流れ出た涙がなんだかすっきりしたように見えて。
これでよかったんだと観客席にいたキセキ達も安堵した


「またやりましょう。何度でも、何度でも──」


その言葉が今赤司の心に響くのは、ようやっと大切なモノに気づけたからか。
会場に散らばるキセキ達の気持ちが離れていてもまた一つになれた

同じ場所で、バスケを、また一緒に──

優しくも憑き物がとれたような赤司の顔を客席から眺めて名前はほんのり微笑んで、出口への人の波に紛れ込んだ


「……少し、待ってようかな」


なんだかこのまま帰る気にもなれなくて、誰でもいいから会いたいと思うほどに寂しさが募ってどうしようもない。
会場には熱気がこもっていたため頬にあたる風がひんやりと気持ちいい

邪魔にならないよう端へ避けて、名前は目を瞑る


いろいろあったな
赤司くんの瞳が両目とも赤くなってて、雰囲気も変わって。
洛山が崩れかけて、黒子くんが必死に食らいついて…


鮮明に蘇る断片的なシーンが、彼女の心を苦くさせる


「名前さん?」
「、あ」


黒子くん、と呼んで寄りかかっていた壁から体を起こす。
目を閉じて考え事をしているうちに一般客はだいぶ捌けていたらしい、周りを見ればバスケ部関連の人間しかいないようだった

その中から名前を見つけ出した黒子が誠凛の群れから抜けて彼女へと話しかける。
おつかれさま、ありがとうございます…そんなやりとりをしていればいつの間にか黄瀬や青峰、紫原も集まってくる


「おう名字。お前ひとりでちゃんと観れてたのか?」
「うん、大丈夫だよ」
「名前ちゃんー!」
「さっきぶりだね〜」
「来ていたなら一緒に観ればよかったのだよ」


不服そうに言う緑間に、やはり学校ごとのチームでいる中には入りにくいからと言えば全員納得いかないような表情をされる


「あ、赤司君」


黒子が振り返れば、赤司を先頭に洛山のチームが歩いてくる

幼い頃に会った赤司と、中学で再会した赤司と、今の赤司。
すべて違う赤司。
純粋に赤司征十郎としての赤司と勝利に固執した赤司、そしてそれを乗り越えて敗北も知った赤司に、名前も赤司も互いになんと声をかけるべきか戸惑う

しかし無意識に体は赤司の方へ近づいて行ってて、それは赤司も同様で。
何をするでもなく伸ばしかけた手が触れ合うかという時。


「あ?オイ赤司、そいつの影…なんだよ?」


黛千尋が赤司の後ろから顔を出して名前の影にささやかな干渉をした


「ッ!やめろ黛!!」
「きゃ…ッ!?」


途端にポッカリ空いた黒い虚空から幾重にも生気を感じさせる腕が伸びてきて、名前とキセキたちを掴み、のみこむ。
赤司も引きずり込まれかけるが、天狐の力を持ってしてその腕を押さえ込み、淵に手を置く


「名前ッ!!」


すぐ近くで蝕まれつつある彼女へ手を伸ばす。
彼女が狙いだ、彼女だけはすくい上げなければ

使命感にも似た愛情が強くつよく伸ばされる。
しかし手は、届かない。


「赤司くん…!」


助けを求めたわけではない。
ただ反射的に名前は、この手があれば己はどこへ堕ちてもいい、大丈夫だと、そう思った。
あの始まりの日に、彼の手を取ったように。

赤司は名前を引っ張り上げるのをやめた


この手が届かないならせめて一緒に──


その瞬間、二人存在していて、決勝戦で消えかかったもう一人の赤司征十郎と、今の赤司征十郎が溶けてひとつになった感覚が、確かにあった


そうして最後に二人を喰って影は閉じられた


returm next




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