有坂白雪
もう彼女自身に受け継がれていた特殊な力は失われたが、現在は紫原敦による血分が行われ、ガシャドクロの血が多く流れている。
が、同時に天狐の血も少々入っていて、また彼女を見出したのは赤司征十郎だった
だからか元より真面目で己を主張するタイプではなかった白雪はすぐさま赤司の言いなりになった。
彼女なりに譲れない考えや意志はあるが、妖怪に対する知識はほぼ赤司から根付けられたと言っていいだろう
「めんどくさ…」
「え?」
薄暗い路地裏の汚い壁にやんわり押し付けられたまま、白雪は紫原を見上げる。
仄暗いそこでも紺青はキラキラキラキラ、何か、相対者の心の奥底を優しく見透かすような輝きを持っていた
「敦くん…?」
「あー…ごめん、俺、焦ってるのかも」
「?」
ケガをした方の腕を掴まれたままだったため、白雪は片手を口元に持っていき不安げな表情をする。
彼が、悩むこと。
それは己のことではないのだろうか
そこで、ストン、と
白雪の中に何かが落ちてきた
私、紫原くんのこと、何も知らない
帝光中であったとしても同じクラスになったこともなければきちんと自己紹介をしたわけでもない
では彼女は彼の何を知っている?
名前と、妖怪憑きだということだけ。
誕生日も家族構成も血液型も、お菓子では何が一番好きかとか、何にも知らない
彼を些細な情報だけで彼と特定できる決定的なことを何も知らないではないか
──それなのに、私は、私は…
「私、紫原くんだけに頼っちゃってる…」
「、は?」
彼を見上げていた紺青の瞳に途端に涙が集まり零れ落ちそうなまでになる。
紫原は先ほどまで感じていた焦りとはちがう焦りを覚え、慌てて彼女の真っ白なほおを包む。
「どうしちゃったの。俺、別に白雪ちんには怒ってないよ?」
「でもっ…でも、私敦くんのこと何にも知らない。なのに全部敦くんなら、って思っちゃってる…ずるいよね…」
ぽろぽろと流れる涙を見るのは二回目だ、と思っていた。
相変わらず流星のように輝くのに胸をこんなにも苦しめる
彼女が泣くのは嫌だ。
だから守ると、件の絶対と言われる予言さえ真っ向から受け止めてやろうと
決意したんだから
「大丈夫。俺が白雪ちんのこと絶対守る。だからこれから俺のこと知っていって。白雪ちんの気持ちも、教えてよ」
「うんっ…うん、うん、敦くん。敦くん」
ぎゅむ、と抱きついてくる白雪を宥めるために背中を撫でて、結果オーライなのかなぁと随分下にある髪の毛を掬い自己解決した。
ねえ教えて、もっと君のこと
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