赤ちんほど厄介な人間と妖怪に出くわしたことはない。
俺自身それでいいと思ってる
だってこれ以上ヤヤコシイのが出てきたとして、俺がこの地位を保ったまま白雪ちんを守れるかと言えば、それは否に尽きるから。
捨て身で何とかすれば何とかなるかもだけど。
そんなことをして喜ぶ人間を、生憎俺は周りに置いていない
俺って恵まれてる…?
ポッキーを齧りながらふと、そんなことを思った。
と同時に黒ちんみたいな考え方で嫌だ嫌だと打ち消す
しかし、赤ちんにいまだほだされる白雪ちんの従順さにも腹が立って仕方ないのも確かなのだ
あのあと牛鬼のなり損ないを白雪ちんが喰って、少々己の変化に怯え、俺に頼りすぎていたと泣く彼女を泣き止ませて送り届けた
『ねえ…』
『ん?』
『も、もう少し…!もうちょっとだけ、一緒にいたい、なぁ〜なんて…』
目から鱗とはこのことかと。
身を以て知るとはこのことかと。
あらゆる諺が頭を駆け巡ったあとに私欲に勝ち自宅に帰ってきた俺を褒めて欲しいよ
「〜ッどうしろっていうの…」
あんな可愛い生き物むりでしょ
昔はあんなあざとさなかったのにどこで身につけたわけ?
いや、俺のせいか。
彼女は誰彼構わずそんなことをするほど器用でもなければ愛想笑いが完璧ではない
──ここで浮かんだ秋田での相方のエセ笑いは不快な気持ちに俺をさせた
「あ」
男の欲望を抑えるために貪ってたポッキーが底をついてしまった
「姉ちゃー…ああ、そっか」
いないんだっけか。
盆に入ると共に母方の田舎へと家族は墓参りと小旅行を兼ねて出かけていった。
俺は久々の実家だし、白雪ちんと会うために断った
母の作り置きのおかずが冷蔵庫に敷き詰められ、台所にはお菓子がまな板を置く隙間もないくらいに兄姉から贈られたから、それで間に合ってるから今のところ不便はないが。
いつものくせで呼んじゃった…
恥ずかし、と自分に言い訳し立ち上がる。
断ったのは自分だが暖かい実家の手料理を食べるのも楽しみの一つだったのに。
「だれか来てくんないかなー…あ?」
部屋を出ようとすれば、白雪ちんからの着信があった。
どくり、と見て見ぬフリをした欲が芽吹く
「……もしもし」
『敦くん』
「どうしたの?」
『あ、えーっと…特に用事はなくて』
この声が大好きなはずなのに頭に入ってこない
俺の血分で初めて妖怪を喰べた彼女。
妖力での空腹を味わい、その本能に逆らえず雑魚を貪った彼女。
そんな彼女を、俺は
「たべたい」
『……え?』
「俺、白雪ちん食べたいな」
『そ、それはどういう…』
「白雪ちんさー。血分して最初に喰べたの雑魚だったじゃん。正直俺、複雑なんだよね」
『え、ご、ごめん…でも何が複雑なの?』
「んーまぁ…言うなれば独占欲とプライドってとこ」
だからさぁ
「今から俺の家、おいで」
小さく、けれど確実に聞こえたうんの一言は、俺のくだらない赤ちんへの劣等感を蹴散らした
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