目の前に現れた蜘蛛に白雪はわかっていたとはいえ、ぎょっと身を強張らせた
「やっぱ苦手?」
「う…ごめんね」
「俺もムシは苦手だから。でもこの子たちだけは、大丈夫なんスよねぇ…」
しみじみ。
そう言う表現がぴったりなほど、黄瀬は己の力によって引き寄せた蜘蛛を愛おしげに指先へ乗せる。
蜘蛛は無駄な動きもせずに大人しく彼の指先へ留まる。まるで、服従するかのように。
「ほら、俺、妖怪憑きだから。気付いたら周りと距離置いててさ。バスケ部のみんなに会うまで心許せたのって、家族とこの子たちだけだったから」
懐かしいとその瞳が語り、蜘蛛の糸から垂れる情報網を読み取る
「あ、黒子っち部活終わったみたいっス」
「そんなことまでわかるの?」
「うん。俺は蜘蛛を使役してるから、蜘蛛がいるところからこの糸で情報網が張れるんスよ」
「へー…」
白雪はちょこん、と蜘蛛に恐る恐る触れてみる。
すると蜘蛛も彼女が黄瀬の眷属にあることを理解しているのか懐くように柔らかく擦り寄った
「わ…!りょ、涼太くん…!可愛いっ」
「白雪ちゃんの妖力に俺のモノが混じってるからわかるんだよ」
感動する白雪を可愛い、と思いながら黄瀬は見守る。
穏やかな時間だと彼は考える。
ここまで穏やかな気持ちで人間と接することはあっただろうか。
その答えは、否である。
家族は家系的に妖怪憑きのことを知ってはいるが、死んだ祖父から受け継いだものであり、彼の周りを取り囲む親族に妖怪憑きはいなかったしその気持ちを理解できる者はいなかった。
当然であるし、しかし孤独でもあった
同い年の友人にももちろん話せず家族は分け隔てなく接してくれようともこの葛藤をわかりきれない。
そんな蟠りを抱えたままだったのが、キセキの面々と出会い、そして人間でありながら取り憑かれている彼女、白雪と出会い世界は変わった。
色付いたのだ。
バスケで、彼女で、友情で、笑顔で。
だから失いたくなかった。何一つ。
決別したあの日から、今日ここに来るまで長かった。
キセキと黒子との出来事も、白雪とのことも。
けれど、それでもよかったと素直に思えるくらいには、彼女は黄瀬の心を和らげた
「ね、白雪ちゃん。今度の日曜デートしよっか」
「えっ」
驚いた顔をした後、彼女ははにかんで頷く。
幸せとはこういうものなんだろうかと、彼は目を細めるのだった。
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