妖狐の呪いから解かれた彼女は前と雰囲気がかなり変わった。
文字通り憑き物がとれたため、纏う空気が軽くなり、時折見せていたかなしげな笑みも消えた

それ自体は良いことだが、視えるのに祓えなくなってしまった。
声を媒体にしていた力の根源が妖狐の力と融合しかけていたため、それごと剥がされた

しかし青峰を選んだ彼女は彼のとなりで幸せそうに笑う。
冬に剥がしてから、すぐに迎えた春。
初めて、となりに青峰がいる季節


「青峰くん」
「おう」


白雪は口癖のように青峰を呼び、青峰もその呼びかけがあって当たり前というように返事をする。
以前とは完全に異なる信頼関係がそこにはあった


「白雪ー。英語の教科書貸してくれ」
「あ、うん。待ってて」


ある日、青峰は教科書を口実に白雪の教室へと訪れた。
彼が廊下側から教室内に声をかけると一気に女子たちが彼を見る


「…え、と」


意味はなく、しかし気まずさに視線を彷徨わせてから白雪は手探りで教科書を探し出す。
落ち着かない様子で口元に手を当てて俯きがちに青峰に近づく


「……はい」
「ん。…おい、どうした?」
「え?」
「お前、おかしい。不安な時よく口に手ぇ当てるしキョドってるし。なんかあったか?」
「あうっ…」


彼女の目にかかるくらいの前髪をかきあげて額を手のひらで撫でてやる。
青峰の手は大きく、あたたかい


いつも助けてくれる手だ


さっきまで女の子たちの目線が気になって恐々としていたというのにこの手のひらが触れれば途端に安心する


「お前、前髪切れば?もう少し短い方がいいんじゃねーの?」
「そうかな…あんまり気にしてなかったけど」
「さつきくらい長さあんじゃん」


こんぐらいにすれば?と言いながら青峰は彼女の前髪をいじくる。
チラチラと指先が動いて、白雪は時々目に前髪がささって、痛そうな表情をする

不意にきゅ、と白雪が青峰のシャツを握りしめた


「、?どうした、やっぱり何か…」
「青峰くんってさ」


胸元のリボンを見つめてから意を決したように勢いよく彼と真正面から向き合う


「いつもさつきちゃんが基準だよね」
「…!」


教科書を胸元に押し付けて白雪はそそくさと自席へ戻る。
呼び止めようとする青峰の声にかぶさって、丁度よく始業のチャイムが鳴った


青峰は廊下側から遠い席で俯く白雪を、名残惜しげに見つめながら、彼女の教科書を持って己の教室へと帰った



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